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炎の令嬢と氷の御曹司  作者: 青井亜仁
氷の帝国
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どいつもこいつも

 厳しい指導、鍛える為に手を緩めない…言い方は多々あるが、扱きとか虐めとか虐待の間違いじゃね?っつー訓練─── いや厳しい鍛練…うーん猛特訓? いや、 やっぱり虐待まがいの指導だよな ───に耐え、とうとうフランマテルム王国へ侵攻する日が迫ってきていた。

 しかし、耐えてるだけで『まあまあ』とか『そこそこ』になれたのか、自信はない。

 なんてたって、未だに床と仲良しなんだぜ。



 巫女リーシェンは当然だが、我が巫覡ディンガーとじー様にじっ様とアールテイまで容赦なかった。

 前回のフランマテルム王国を攻めた面々で対戦形式で向かっていったが、じっ様以外とは訓練にもならない程簡単にあしらわれて終わった。

 俺の小隊はそこそこ連係出来てたと思っていたんだが、グラテアンの愛し子達の隊の方が上手く立ち回っていて、ちょっと落ち込んだのは今ではいい思い出だ。

 思い出なんだ。今も悔しいなんて、思ってないったら無い。



「エイディ神殿の皆は、個人の戦闘力が群を抜いてるだろ。グラテアンの皆は連係訓練しかしていないと言っても過言じゃない。筆頭が悔しがることはないと思う」



 なんてフィダは言うが、あいつら個々の戦闘力も大したものだろうが。

 剣が当たらないのが当然の環境で巫女の桁違いの術が当たり前の様に飛び交うもんだから、どいつもこいつも術の制御能力が半端ない。

 そこそこ器用なアラネオやタキトゥースは、グラテアンの術を織り混ぜての戦闘にも同じように術を織り混ぜて即対応出来たが、俺を始めとするクアーケルとピスティアブなんかの術が苦手組は悲惨なもんだった。


 じー様を参考にしようにも、あの爺は戦闘用の術も完璧に操ってたんだよ!

 絶対に脳筋の剣術バカだと思ってたのに。

 じー様ってば、術の指導係のアールテイにも自力で訓練可能なので指導の必要なし、と言われていたもんなぁ。

 反対に俺たちは「愛し子と名乗るの恥ずかしくない?」って、冷めた目と口調で言い捨てられて半泣きだったな。ははは…


 炎を操るのは苦手だと言っていたフィダは、俺たちの仲間だと信じていた。

 しかし、あいつもすぐにアールテイから合格をもらったんだよ。

 なんでだよ、と呟いた俺にアールテイが素っ気なく教えてくれた言葉で、更に落ち込んだ。



「フィダは、炎を使うと氷の男神への背信行為かもしれないって恐怖で萎縮してただけだから。あいつはどちらかというと、イヴと同じ術が得意な方だと思うぞ」


「じゃあ、俺も訓練すれば炎を操れるようになるかもしれないのか」


「いや、お前は無理」


「え、なんで?」


「お前、親父に似てるからな。たぶん、暖炉や蝋燭に灯す程度の火も生み出せないと思う」


「あー。フィダやイヴみたいに氷と炎の混合術なんて格好いいし、威力もあっていいと思ったのに」


「まあ、アラネオならもっと頑張れば出来るかもな」


「ええ、なんで?」


「アイツの気配が、ほんの少しだけおじい様に似てるからな」


「それ、俺も含めて本人の努力ではどうしようもないもんじゃねぇか」


「神の能力(ちから)を借りる術なんて、そんなもんだろ。神々の気分次第で威力は増減するんだ、術に過度の期待をせずに自分の持ってる能力を磨けよ」



 そう言って颯爽と歩き去るアールテイの後ろ姿は、ちっこい少年の形をしているくせに格好よくて悔しかった。

 術に期待するなと言いながらも、いかに少ない術力で最大限の威力を発揮できるかの指導をしているのを知ってるんだからな。



 全身の痛みと共に地べたと仲良くする毎日だったが、守護衛士兵団(デフォブセッシミーレス)の奴らとの訓練のときとは違って、皆が楽しそうだった。

グラテアンの愛し子達の連係に感動したクアーケルとピスティアブが、「教えて~」と足りない言葉と共に突撃しても、彼らは笑顔で迎えて、巫女の扱い方を教えていた。

 「それ違う」とふくれる二人に「ちゃんと何を教えて欲しいか言わないからだ」なんて、見た目が少年の愛し子たちに、おっさんの野生児たちが指導される姿に涙が出た。ちゃんと躾できなくて、申し訳ねぇ…


 グラテアンの愛し子達は、骨が折れたりの怪我には「痛い」と騒ぎ、我が巫覡や巫女の術に当たれば大いに悔しがって、避けたり防いだりできた時には仲間の成果なのに大騒ぎして喜んだ。

 痛いと、悔しいと騒ぎはするが、誰も弱音は吐かず常に楽しそうに笑う。


 そして、好き勝手にやりたいように行動して、アラネオはもちろん、じー様まで振り回されていた。

 巫女一行はそれはもう自由奔放で、小隊長がちゃんと手綱を握っているにしても、その小隊長が騒ぎの先頭に居たりするんだよなぁ。


 俺たちも同じようなもんだと思ってたが、度合いが違ったわ。

 あれを纏めあげている巫女って、やっぱり桁違いの規格外だ。


 と、今日は何度目だったかの床と抱擁後、現実逃避も兼ねて騒ぐグラテアンの愛し子たちを見つめる。

 俺の視線の先では、腹を抱えて笑い転げるクアーケルと顔横に背け笑いを堪えきれていないピスティアブが見える。

 二人の後ろには、楽しそうに笑うグラテアンの愛し子たち。


 どいつもこいつも、他人がへばるのが楽しくて仕方ないって隠しもしやがらねぇ。

 でもまあ、悔しくなんてないぞ。


 なんでかって?

 お前たちの背後に、それは素晴らしい笑顔のアールテイが立ってるからだよ。


 すぐに俺の仲間になる。そうしたら、俺も楽しく笑ってやるよ。

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