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炎の令嬢と氷の御曹司  作者: 青井亜仁
氷の帝国
130/160

理解はしていない

 痛ぇけど、それなりに落ち着いてきたと思う。なんか会話以外の音も聞こえてきて、心地よくなってきた。

 もう寝てもいいよな……





───────────




「はぁああ、いらないって言ったのに」

「ぜぇぜぇ…… なんで俺まで」


「ネウティーナがやっかいなのはニィを拘束する術だけだが、クピフィーニートは全部がやっかいだからな。憑代をさっさと破壊するのが得策だ」


「私にさっさと破壊できるのかな。あれだけ深く結びついてると、ゲマドロースの肉体も強欲の男神に近くなってるでしょ」


「今も破壊と再生が同時で進行してるからなぁ。ほぼクピフィーニートの本体と同じと思っていいかもしれんぞ」


「うえぇ。無理じゃん、破壊不可じゃん!」


「そうでもないぞ。結界内への封印時は規定違反ギリギリってとこだったが、条件と手順を満たしていない本体と変わりない今の憑依は、きっちり違反だ。本体には既に刻まれているが、分体扱いになるゲマドロースの肉体にも機構の約術が刻まれていっている。身体破壊は可能だぞ」


「親父たちが大陸に展開した大結界に施された約定に反応する術のことか?」


「そうだな。この大陸に存在する神々は、その約定を順守することが鉄則だ。結界に己の存在を刻むと、定められた罰則が反応するように術式も刻まれる。あいつらにも刻まれてるぞ」


「彼等への術式の反応は?」


「犯した違反による。が、命を即時に刈る術は付与されてないな。たぶん現れる効果は、人間でも神の身体を破壊できる事だな」


「使えねぇの」


「そうは言うがな、相手はみな膨大な力を持つ神々だぞ。いくら俺や暴力女(エイデアリーシェ)が特別強かろうと、全ての奴を瞬時に刈り取れる程の術は組めねぇよ。大結界(あれ)は外部からの侵入を拒むのが目的のもんだ、内部から面白おかしく壊されないように結界をいじれないようにするのが第一で、結界内の諍いの対処なんかは二の次だったんだよ」


「それは最初の私のときにも聞いたけど、内部を安定させる策をたてるって言ってなかった?」


「言ったな。あれからいろんな策を施したんで、新しい神には覿面に効果があるぞ。それこそ即命が刈り取られる程にきつい約術になってる」


「新しくない神々は?」


「約術を上書きした奴には効果はある。が、それを拒んだ者も居るんだよなぁ」


「それが強欲の男神や、拘束の女神といった方々なの?」


「そういう事だな。特にあいつ等は『外』からこちらに放逐された奴らでな、おとなしく従わねぇの」


「そんな奴らが、なんで最初の時は従ったんだよ」


「暴力女が半殺しにしたから」


「おばあ様…… 流石というか」


「昔から容赦ないね」


「好き勝手やりやがるが、あれは助かったな」



「でもさ、絶対アグメン父さまに協力するとかじゃないよね」

「なんか腹立つ事があったんじゃねぇの」



「ひそひそ話しても聞こえてるぞ。確か、あいつらが不用意な発言をした覚えがある。全部言い終わる前にネウティーナの顔を変形させて意識を刈り取り、クピフィーニートが構えたのをものともせずに、上から下まで狂ったように殴って半殺しにしてたわ。笑顔でな」



「うぉ… 何言ったんだ、強欲の男神」

「そんなの決まってるじゃないの」

「分かんねぇって」

「おばあ様、ご自分のことには寛大だよ。だからおじい様の事だよ」

「あー、納得」



「だから、お前ら堂々と話せって。カーリィが正解だ」


「何言ったんだろ」


「乱暴女に負けるエイディンカの戦闘力は高が知れているって、鼻で笑ったんだったか……」


「一番言っちゃいけない言葉だった」


「阿呆だろ。回復した後に、エイディンカにもぼこぼこにされてたな」


「あの穏やかなおじい様が? 回復してまた失言したのか、そいつら」


「違うな」


「あ、分かった! まずおばあ様を馬鹿にして、次におじい様を馬鹿にしたんだよ。おじい様は全部の発言が終わったら〆るつもりだったのに、言い終わる前におばあ様が殴っちゃったんでしょう?」


「当たりだ。暴力女が殴っている間、周囲の温度が下がって寒かったわ」


「それで約術を刻む事に従ったんだね」


「しぶしぶな。だから上書きには参加しなかった。それからは、揉め事を起こす程度で大人しくしていたし、規定違反の場合の効力はしっかり刻まれていたから油断してなぁ」


「ニィがフランマテルム王国に拘束されちゃったのね」


「そういう事。カルゥやエゥヴェにも手出しを始めてどうにかしようとしていた矢先に、エゥヴェがラエティルミスに消滅させられた」


「俺はその場面を見てないから断言できないんだけどさ。本当にエゥヴェ兄貴って消えちまったのかな」


「少なくとも、私の見たエゥヴェ兄さまの肉体は塵になって消えてた」


「うーん。カルゥ兄貴はまだ納得だけど、エゥヴェ兄貴はなぁ。違う気がする」


「アーフのそういう勘当たるもんね。そうだといいな、本当に」


「違う気がするだけだって。泣くなよ、おい」


「泣いてない。アーフの勘違いだもん」


「ああそうかよ」





「エゥヴェの件も踏まえラエティルミスはそこそ規定違反を起こしていて、優先度は低めではあるものの処罰の対象だったんだ。俺か暴力女が出向いて見極める予定だった。そして、先日の死体へ宿る重大な違反で、ラエティルミスは放逐という処罰が下された」


「強欲の男神はまだギリギリだったけれど、今はきっちり違反なんでしょ。そっちはどうなるの?」


「クピフィーニートも同じく死体に宿っているって扱いだな。暴力女が確認したが、ネウティーナの能力で肉体は回復しているものの、ゲマドロースの身体は死体寸前でその魂はほぼ消えている。あれが魂ごと復活するのは、人間には不可能だからな」


「という事は、アグメン父様やおばあ様方が直接処断することも可能なんじゃない?」


「『ほぼ』というのが問題なんだ。人間(ひと)のことは人間で解決しなくちゃならない。だから、まずはカーリィたちがゲマドロースの肉体を『ほぼ』死体から完全な死体にしなきゃならない」


「ほぼ強欲の男神になったゲマドロースの身体と戦うって、厳しくない?」


「だからだ。アーフとそこそこ使える俺の侍従サルーガンを付けるし、エイディンカの巫覡(こども)も鍛えて付けてやるだろ? それで奴が完全なクピフィーニートになったら、俺や暴力女が手を出す事も可能なんだ」


「姉貴がほぼ強欲の男神と戦ってる間に、俺に拘束の女神の相手をさせるってことかよ。勘弁してくれ」


「それも問題ない。戦闘や細々した事は暴力女の侍従リージェル侍女リージェがなんとかするさ。アーフはネウティーナが施したニィへの拘束を外す事に専念すればいい」


「問題ばっかりじゃねぇか!」





───────────





 声は聞こえるが内容は聞こえない音のおかげで、心地よい眠りに心身を浸している幸せ。眠りを満喫するって幸せだよな。



 幸せなのだが、聞こえてくるその声に、俺を呼ぶ声が混じっている気がしてきたぞ。

 

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