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炎の令嬢と氷の御曹司  作者: 青井亜仁
氷の帝国
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何があったのか

 これは、どういう事なんだろう。

 アグメサーケル陛下ってすごく過保護じゃね?って思っただけだったんだ、確か。

 そう思ったとたん、じー様とじっ様が勢いよく俺を見たんだった。二人とも床に座ったまま、首だけぐりって回して凝視してきた瞳の瞳孔が開いてた気がする。

 すっげぇ怖かった。


 しばらくじぃっと見られて気まずい思いをしていると、じー様が巫女リーシェンへ向けてそりゃあいい笑顔で言った。



「ご息女、イーサニテルは儂と同じく丈夫な質ですゆえ、多少の手加減でよろしゅうございますよ」


「……神殿長、それ貴方の意見じゃないでしょう?」


「我が神の意志は儂の意志でございます。ご息女にも託された言葉通りに、鍛えてやってくだされ」


「そんな、本当の事を言われただけなのに。八つ当たりは可哀想よ?」


「どうせ鍛えなければならぬ者です。殺さぬ程度に抑えて頂ければ問題ありませぬ」



 いや、問題しかねぇよ!

 うっかり過保護なとーちゃんだな、と確かに思ったよ。思うのも駄目なのかよ。



「貴方がどう思ったかというより何を理由にしてもいいから、我々を瀕死手前になる位に厳しく鍛えろってことでしょうね。お姫様(ひいさま)は気を付けると言っているが…… 全員生きていられるかな」



 イヴが俺に説明するというより、自分を納得させるように呟いている。

 何回死にそうになったら、まあまあ使えるって評価になるのか考えるのは、やめた方がいいだろうな。




 なんて覚悟はしたつもりだった。

 じー様のように一対一だとすぐに脱落するだろうから、我が巫覡ディンガー、アールテイ、イヴに俺とフィダとじっ様の全員で本気でかかってこいと言われた。

 アールテイは「何で俺まで!?」と反抗していたが、「あんたもアグメン父さまに言われてるんじゃないの?」と返され、黙って剣を構えていた。


 動きやすいように上着を脱ごうとしたら、どんな時にも同じように動けるようにそのままで訓練開始だといきなり指導が始まってしまった。

 これに驚いたのは俺だけで、我が巫覡は何の動揺も見せず、動きを阻害する外套を翻し鞘から剣を抜いて構えていた。

 なんとかイヴとフィダに後れを取ることなく俺も剣を構える事はできたが、直後に閃いた巫女の剣で全員が壁へとふっ飛ばされていた。


 アラネオやクアーケル、グラテアンの愛し子達は早々に鍛錬場から退出していたらしく、誰にも接触することなく半数が壁へ背中を強く打ち付けて床へ崩れ落ちた。

 残る我が巫覡とじっ様、アールテイは格好よく壁へ着地するように足を着け衝撃を逃がし、床に立っていた。


 そこからは、じー様との仕合と同じく、人間離れした動きの巫女の一人舞台となった。


 一撃目をいなした3人へ剣での衝撃波を繰り出したかと思えば、蹲るイヴへと突撃してそれを予想し起き上がり、剣を構えようとしていたイヴを再び中央部へふっ飛ばし、飛んでいくイヴと同じ速度で反対側に居る俺へと向かってきた。

 ぼけっと見ていたわけじゃないが、巫女は剣を構えきれていない俺へ「遅いよ」と言い捨てると、容赦のない力で左側面から蹴りを入れてくる。

 腕での防御が間に合わず、横にふっ飛ばされた先にはフィダが居た。慌てて受け身を取る俺を避けるフィダの足首を、通りすがりにひっかけて転ばせた巫女は、自分に向かってくるじっ様の剣を横に薙ぎ、露わになったじっ様の腹へ左拳を打ち付ける。

 なんとか空いた手で拳を受け止めたじっ様だが、巫女の力がすごかったのか受け止めきれず後方へと飛ばされてしまっていた。と思う。


 いやだってさ、じっ様が巫女の拳を受け止めようとするのを見て、すげぇな、と思った直後に目の前に巫女の笑顔が見えたんだぜ?

 顎に衝撃を受けたなぁって思うのと、視界に火花が散って意識が薄くなるのは同時だったんだよ。


 気絶していた時間は大して長くなかったと思う。

 うっすらとだがガンガン剣が当たる音とか、誰かが床や壁にぶつかる音がひっきなしに聞こえていた。

 で、今ぼやける視界をまばたきで解消しているところなんだが、俺の左にフィダが、右にイヴが倒れ伏している。全然動かないところを見ると、俺と同じく気絶させられたんだろう。

 顎だけだと思っていたが、足も腹も腕も痛てぇ。どんだけ殴られたのか全然分かんねぇわ、これ。


 なんとか立っているものの左手は痛む腹を抑えて前かがみになっているし、剣を握るはずの右腕は痛みが酷くて小刻みに震えている。これじゃ剣は持てない。

 マズイんじゃなかろか、と冷や汗が出た頃にじっ様が撃沈。

 我が巫覡とアールテイが左右から巫女へと向かって行くが、巫女は動かずに軽く剣を振るだけ。

 それだけで二人は後ろへ飛ばされる。


 二人は体勢を崩すことなく後方へ飛び、着地したその足でまた巫女へと向かっている。

 余裕があるように見えるが、二人とも相当に疲労しているのか動きが鈍くなっている気がする。

 かなり手加減されて、俺たちはこの様って。

 強いと思ってたけど、じー様って本当に強かったんだな。

 あかん、現実逃避のように変な方へと思考が向かっている。


 なんてぼやけた思考と視界を巫女へ戻さねば、と床から視線を持ち上げた。



「………!!!」



 悲鳴にならない悲鳴が出た。

 どこの悪女ですか?って笑顔を浮かべた巫女が、目の前に立っているんだ。



「やぁねぇ。そんな怖がった顔するなんて」





 視界が真っ暗になって意識が薄れていく中、巫女の声が遠くに聞こえた。


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