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炎の令嬢と氷の御曹司  作者: 青井亜仁
氷の帝国
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えっ?

「慈愛の女神が父なる神にずっとお会いしていないとの事ですが、どれ位ぶりになるのでしょう」



 炎の女神は我らが父神の愛し子に会うだけでも大興奮らしいからなぁ。数日ぶりとかでも、興奮なさるだろうと思う。



「フランマテルム王国に結界が張られてから初めてですって」



 えっ、10年以上じゃん! そりゃ、大興奮だわ。



「ああ、それならば我々は同じ場に居ない方が良いですね。色々と」


「そうね、こんな風にゆっくり会話なんて出来ないものねぇ」


「たぶん、お互いの声が聞こえませんよね」


「怒鳴りあえば、なんとか会話にはなるんじゃないかしら」


「以前は大声位で済みましたが、あの時は数日前にもお会いしていたからと聞いています」


「そうそう。私たちが入国した時に偶然会ったのよ、って嬉しそうにしていらしたわ。今回は喉を痛めなくて良かったのかも」


「そうですね」



 何が? 何が良いの、ねえ。

 怒鳴りあわなくちゃ聞こえない位のはしゃぎっぷりって、どんなん? 数日でしょ、数日会わないだけで大声て。



「母なる女神は、司る炎の様に情熱的なのですよ」


「そうですね。我らが父なる神も、女神への情熱は普段秘めていらっしゃるのでしょう。女神への愛は司る氷のように強固なもの、という事でしょうか」



 真顔になった俺を見て、アラネオとイヴセーリスがなんか綺麗にまとめたね。いいよもう情熱的なご夫婦ってことでさ。



「ところで。ねえ、何でアーフはそんなに小さいの?」



 いきなり、巫女が我が巫覡の後ろを見て言った。

 視線の先には、壁際でひっそりと立っていたアールテイが驚いて硬直している。お、普段冷めた態度のあいつが焦ってる。珍しいな。



「さすが姉上、お分かりなのですね」


「そりゃ、どう見てもアーフだもの」


「お姫様(ひいさま)、そのアーフというのはどなたです?」


黒炎天アーテルフラルムだよ」


『えぇっ!?』



 さすがに炎の巫女の愛し子たちからも驚きの声が上がる。みんな一斉に驚いて、声が揃っていた。仲いいね、君ら。

 そういう俺らも、いきなり黒炎天が人形(ひとがた)を取ったときに度肝を抜かれたのは秘密だ。偶然居合わせたアラネオも、物凄くおたおたしてたもんな。どんな時も騒がしい二人組ですら声が出ていなかったし、タキトゥースも持っていた手入れ道具を入れた箱を床に落として、中身をぶちまけていた。



「人形を取れるようになったんでしょう? 私たちと同じ位の外見じゃなくて、もっと大きい方がいいんじゃないかな」



 巫女の素朴な疑問が、ざくざくと黒炎天改めアールテイに刺さっているのが見える。

 アールテイが人形になったのは我が巫覡が戴冠してすぐ位だから、もう9年くらいか。確かに、最初は見た目6歳児くらいだったわ。

 いきなり人形になって、文官やアラネオも顔負けの知識や意見を、舌足らずにつらつら述べ始めて驚いたのなんの。

 日ごとに大きくなっていって一年で10歳くらいに育ったら、そこからは人並みに成長している。とはいえ、見た目は巫女たちとそう変わらない少年なんだが。



「う、煩いな! 最初に取った人形からすっとばした年齢に変化(へんげ)できないんだよ」


「ふぅん。相変わらず変化は下手くそなの?」


「へたっ… 相変わらず人を馬鹿にする奴だな、お前っ。今は人並みに成長していってる!」


「馬鹿にしてないって。アーフってば変化がへ…… 苦手なのに、なんで天馬カエルクスで生まれる事を選んだのかなって思って。カルゥ兄さまの真似?」



 図星を突かれたのか、かっと顔を赤くして黙るアールテイ。そして、苦手と言い直しているあたりで、刺さるもんが増えた気がする。ぷるぷる震えるアールテイが涙目になってないか、あれ。



「凄いですね、巫女殿。プリメトゥス陛下やイーサニテル様がどんなに煽っても平然としているノゥムタティオ殿が、ああも簡単に動揺するなんて初めて見ました」


「そうだな。今日は意外なもんを見過ぎて、既に疲れたわ」



 こそこそと俺たちが囁き合っている間にも、巫女の口撃は止まらない。



「そりゃ天馬の方が持てる異能は多いけどさ、アーフは人嫌いなんだから念話だって苦手でしょ。ヴァニが『黒炎天が一生懸命話してくれるのだけれど、細かい所までは理解できなくて』って困ってたじゃない」


「お、おおまかにでも通じればいいだろ! ヴァニが俺に乗って戦闘をするわけじゃないんだから」


「そりゃそうだけどさ。その大まかなのだって蒼炎カエルライグニーや私が同調してるから通じただけでしょ? ヴァニが生まれるのは私の後なんだから、私の後すぐに人間で生まれていれば話は早かったでしょう?」


「しょうがないだろ。俺はカル兄やお前みたいに、狙って生まれることは出来ないんだよ!」


「そんな事ないよ。アーフは私やカルゥ兄さまやエゥヴェ兄さまに出来る事、全部出来るんだよ」



 子供のように癇癪を起すアールテイ。あれも誰なのってくらい、いつもと人が違っている。変化は苦手というが、好きな時に天馬にも人間にもなれるのを、苦手とは言わないと思うぞ。

 あそこの兄弟姉妹って、どんだけ普通の水準が高いのさ。さすが神の子だ、と思う会話だわ。



「出来てない。いつもそうやって調子の良い事ばっかり、カーリィ姉ぇは……っ!!」



 ばっと口を塞いで、真っ赤な顔をするアールテイ。いきなりどうした。



「ああ、幼い頃は『カーリィ(ねえ)』って呼んでいたんでしょうね。天馬として25年以上生きているはずです。今の人の姿ならおかしくはないでしょうが、巫覡ディンガー殿のような青年が言うには些か幼い感じがしますからね」



 きっと恥ずかしいのでしょう、と囁き声をさらに小さくしてまとめたイヴセーリスの言葉に納得した。

 あれは姉である巫女に甘えているんだ。



「言われてみれば、ティーと黒炎天は何時もあんな感じだったな。黒炎天にだけは髪を咥えて抜かれても思い切り蹴られそうになっても、ティーはただ楽しそうに笑ってた」


「そうですね、懐かしいやり取りです」



 フィダとイヴセーリスも目を細めて笑っている。アールテイは、あんな可愛らしい奴だったのか。

 しかし、天馬の姿で思い切り蹴ろうとか危ねぇぞ。巫女がちゃんと避けられるって、信頼があるからこそなんだろうけど。


 ほんと誰もが『あれは誰?』だし、今日は何回『えっ?』ってなったか。

 もう衝撃は終わりだよな?

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