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炎の令嬢と氷の御曹司  作者: 青井亜仁
氷の帝国
110/160

ほんと誰?

「いや、いくら何でも無茶でしょう。今や帝国のしがない神編術師で、この見た目ですから」


 うん、確かに。18歳と聞いたが、どう見ても15歳位に見える。全員同じ年齢らしいが、見た目は15~20歳といったところか。



「そうは仰っても、炎の女神が御身を巫女リーシェンと認めていらっしゃるのでしょう?」


「それは…… はい」


「ならば問題ありません。御身が帝国の民だと仰ってくださるならば、我らが皇帝陛下のご希望を叶えてくださいませんか?」


「 …… 是非。お願いします、姉上」


「ええぇ…… 」



 我が巫覡ディンガーの子犬のようなお願いと、俺の押しに困惑する巫女。ニヤニヤ眺めてたアラネオにお前もなんとか言え、と目配せした。

 アラネオが仕方ないですねぇ、とばかりに俺の横に並び巫女へと話かける。



「横から私も失礼致します、炎の女神の巫女」


「はい、副神殿長」


「貴女方には普通に見えるこの二方ですが、今はとんでもなく舞い上がっているのです。イーサニテル様も、何時もはもう少し落ち着いているのですよ。こんな方ですがね」



 ちょっと待て。舞い上がってるとは何だよ、いつも俺は明るいだろうが。

 そりゃ我が巫覡の見慣れない表情が、たくさん見られて興奮しているのは認めるが。



「プリメトゥス陛下は『氷りついた無表情』や『永久凍土の真顔』などと言われる位には、表情の動かない方です。イーサニテル様も『冷徹なる狂戦士』ですとか『無慈悲な侍従(ディジャー)の筆頭』と呼ばれているのですが」


「動かない表情? めっちゃ動いてますけど。冷徹って…『愉快な神殿騎士アエデーエクエス』とかじゃなく?」


「我々には愉快な小隊長なんですが、世間はそう見ないのですよ。貴女だって『冷酷巫女クルデリスリーシェン』と言われていたでしょう?」


「あれはそう言わせていたものだし、ちょっと違う気もするけれど?」


「同じようなものですよ。言いたい事はそこではなく、世間では冷酷だの冷血だの言われるプリメトゥス陛下は、イーサニテル様と同じく寂しくて可愛らしいお方なんです。今はとても頑張って、仲良く親しい間柄になりたいとお願いしているのですよ」


「子供みたいですね」



 アラネオのお母さんのような言いぐさに、巫女の後ろに控えている少年が鼻で笑って吐き捨てた。



「ええ、子供の時に子供になれなかった方たちです。巫女の前では、嬉しくて子供になってしまうのでしょう。巫女からしたらご迷惑でしょうが」



 怒る訳でもなく苦笑するアラネオに、少年は小さくため息をこぼした。



「無礼な発言をして失礼しました、副神殿長。お姫様(ひいさま)、諦めて普通に話して差し上げればいいのでは?」


「いいのかなぁ」


「ご本人たちが良いと言ってるのだから、遠慮することなどないでしょう」


「うーん、じゃあ私的な場ではそうしようかな」



 半ばあきらめたように言う巫女に、ぱあっと明るい笑顔─── 微笑じゃない、笑顔だよ、笑顔! ───を浮かべて「ありがとうございます」と喜ぶ我が巫覡。

 本当に、あれは誰なんだろう…。


 落ちつくまでお二人で話をどうぞ、と少年に言われた巫女を椅子へと案内する我が巫覡を見送った後、少年は振り返ってこちらを見た。

 他の愛し子たちは、我が巫覡と巫女から離れて雑談をするようだ。



「陛下や皇帝側近武官殿に対して失礼いたしました。あのままだと時間がかかりそうでしたので」


「いや、こちらこそ助かった。イーサニテル・フィデースだ」


「イヴ・ルースと申します」


「イヴセーリスじゃないのか?」


「今はただのイヴてすよ。フランマテルム王国でも、イヴセーリス・テネブラは死亡しています」



 ゆるくうねった髪をゆらして、朱色の目を細めて笑うイヴ。



「顔の造作と色はちょっと違うけど、あんま見た目変わってなくね?」



 頭髪は明るめ、瞳も赤に近くなってるくらい。前の顔は印象に残らないように変装していたんだろう。今は目はぱっちりしてて、鼻筋もすっとした美少年だ。



「印象をぼかすくらいで容姿はあまり変えていませんでした。遠征に出て道具が不足すると満足に変装できない、では困りますからね。化粧と、あえてイヴセーリスとは違う口調と所作で、別人として認知されるようにしたんです」


「確かに、別人だったな」


「お褒め頂き光栄です」



 今回は今回で、見た目と所作と落ち着きが合っていなくて違和感が半端ねぇや。



「元々がこの様に老け顔でして。年齢を重ねてもこのままの顔で、見た目が老けないが故に若作りをしろとお姫様から命令されてしまい、実年齢よりも上の変装はさせてもらえませんでした」


「肌に張りがあると、上の年齢と偽るのは難しいですからね。何十年後か、顔や手足に皺が寄る頃には素敵な老紳士になれますよ」



 自分の顔を指さして残念そうに言うイヴセーリスに、アラネオが慰めにならない事を言って変装については話が終わった。

 そんなに会話が有る訳でもない俺たちは、自然と我が巫覡と巫女の方へ視線を向けることになる。

 俺たちが会話している間にも、あちらでは色々盛り上がっていたようだった。今は我らが父なる神と炎の女神の事へと話題が移っている。



「慈愛の女神が我が父神へお会いになられているから、父神もここへはおいででないのですね」


「きっと、まだ母なる女神が興奮なさってるのだと思う。前の時も興奮で会話がままならなかったでしょ、今回はもうずっとお会いしていなかったから度合いも違うのじゃないかな」


「ええ。あの時は我が父神も、慈愛の女神と同じ様に興奮なさっていたと思います」


「そうなの?」


「はい。何時もより口数がとても多かったので」


「言われてみればそうね。母なる女神の一言一言に、ちゃんと相槌を打たれていたわねぇ。慈悲の男神からも色々と話をされていたわよね」


「とても力強いお声でした。いつもはあれより数段静かな音量なので聞き取るのに必死なのですが、あの時ばかりは姉上のお声に重なって聞くつもりがなくても聞き取れました」



 本当にはしゃいでいらしたものね~、と楽しそうに思い出話に花が咲いている。

 イヴセーリスとフィダの様子から巫女はいつも通りの様だが、我が巫覡のあまりの違い様に俺とアラネオは横目で会話をしている。



( イーサニテル様、あれはどなたなのです? )


( 我が巫覡だ。たぶん )


( 先程話題だった我らが父神ではありませんが、普段よりずっと声が大きくて楽しそうな表情をされていますが? )


( そうだな。俺もほぼ初めて見るわ )


( 我らが父神のお話も意外ですが、フィダといい、プリメトゥス様といい、人が違いすぎやしませんか? )


( ほんとに、誰なんだろな? )

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