表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
炎の令嬢と氷の御曹司  作者: 青井亜仁
炎の王国
101/159

大集合

「あはっ小娘! みんな小娘って言うの好きなのね。でもそうねぇ、私ぴちぴちの18歳だもからね。小娘でも間違ってないわ。でもさ、この世界にアナタより年上の人間なんていないでしょ。ホラぁ、世界中の女性に小娘ぇって叫ばなきゃ!」



 全っ然怖そうでもなく、巫女リーシェンはイーネルトの姿をした何かを煽る煽る。


 天馬カエルクスごと腕を伸ばせば触れるくらいに縮まった炎の檻に囲まれ怯えていたはずのイーネルトが、間の前でゆらゆらと宙に浮く様は不気味以外の何物でもない。

 土気色の顔色に濁った瞳の顔は正に死人。またその口から出る声が姿に合っていないから、余計に不気味さが増している。

 巫女は死人に宿っていると言っていたから、ゲマドロースに術を撃ちまくっていたあたりで炎の檻をすり抜けて被弾したか、恐怖で大暴れして炎の檻に触れて焼かれたかしたんだろう。服が煤けてボロボロだし、服の隙間から骨と皮だけじゃねぇの?ってくらい不健康そうな肌が見えている。



「即刻その生意気な口を閉じ平伏せよ、小娘」


「断る。わたくしが自ら跪くのは、我が母なる女神と尊敬できる方にだけよ。死人に宿るモノになど、強要される謂れも無いもの」



 あれは何の神なんだろう。ここには、巫女もしくは巫女の血縁になにかしらの縁のある神々が集まっている、はず。ゲマドロースには強欲の男神クピフィーニートと拘束の女神ネウティーナのどちらか、もしくはどちらもが宿っていると思われる。

 という事は、イーネルトだった肉体には嫉妬の女神ラエティルミスが宿っているってことか。

 成程、嫉妬の女神はとても美しい容姿をしているといわれているもんな、美声であってもおかしくはない。貧相な顔した男の口からでなきゃ普通に美声だって褒められるのに、なんでまたあんなんに宿っちゃたのかね。

 


其方(そち)人間(ひと)の子。神には平伏するものじゃ」


「尊敬できる神であれば、言われなくても跪くわ。祖父母と父が伴侶と幸せそうにしていたのが気に食わないって、彼らの娘であり妻である私たちの母を殺した(ばばあ)をどう尊敬しろっていうの」



 それ逆恨み! いくら他人(他神?)が羨ましくて妬ましいからって、当人じゃない人(神?)を殺しちゃだめだって。

 そして巫女、お強い。俺、あの無気味なイーネルトの姿から放たれる神の気配に押されてるんだが、巫女の堂々とした姿を見てるとなんとか後退りせず踏ん張れている。もちろん、表情も身体も微動だにせずイーネルトだったモノを見ている我が巫覡には、尊敬しかない。



「しかも、お前はエゥヴェ兄さまも殺したじゃないの! 今だって、拘束の女神とニィを殺そうと狙ってるくせに。ニィを守る私がじゃまだからって、死んだ人間の身体にまで宿って追い駆けてくるなんて…… 」



 俯く巫女の肩と声が震えており、イーネルトに宿る女神がその表情を醜く歪めて笑っていた。でもなぁ、嫉妬の女神は嬉しそうに笑ってるけど、あれ勘違いしてると思うんだ。だって巫女の口元、食い縛ってるとかじゃないんだよ。



「悲しいか、悲しいか、小娘。恨むならオマエ達を生み出した、憎き暑苦しい女と騒々しい男を…… ?」


「……… なんて、なんて必死になっているのかしら。そんな醜い身体にまで宿って必死に追ってくるなど。ふ、ふふふ… とてもみっともないわねぇ、ラエティルミス」



 得意げに語る嫉妬の女神が訝しげに巫女を見ると、巫女は心底馬鹿にしたような笑みを浮かべてイーネルトの身体を下から上までじっくり眺めてから、イーネルトの濁った眼を見つめて嘲笑った。今までと雰囲気が全然違う、誰だあれは。



「おおぉお前ぇ、おまえぇはぁあ! エイデアリーシェ!!!」



 炎の女神か!

 巫覡や巫女は仕える神の化身とか分身、神の子と表現されているもんな。特に巫女リーシェンは炎の女神にいろいろ縁が深い相手先だ、巫女に憑依されるのも簡単なのかもしれない。



「相変わらず騒がしいこと。わたくしと背の君と、お前と同じように騒がしいあの男への嫌がらせをする為だけに死体に宿ってそうも必死になるなんて。お前も可愛らしいところがあるのねぇ」


「なっ、なんと失礼な女じゃ! お前はいつもそう我を馬鹿にしてぇぇぇ!! いつもぁああうあ……」

 


 もう何を叫んでいるのかわからない嫉妬の女神の方への感心を無くしたように、煩わしげに首を振ってからはイヴセーリスとクリュセラへと向きなおっていた。

 クリュセラはもたれかかっていたイヴセーリスから離れて、背を伸ばして天馬に跨っていた。顔色は悪いが、さっきのぐったりした気配はない。



「我々を治療していただき、感謝申し上げます。我らが母なる女神」



 イヴセーリスが感謝を述べて頭を下げるのと同時に、クリュセラも同時に深々と頭を下げている。



「礼を言われるほどの治療はできていない、完全に治してやれないことは許してね。愛しい我が子らよ」


「許すなどと、感謝しかございません」



 更に礼を深めるイヴセーリスに「そう。安静になさい」と一言言って、炎の女神は我が巫覡をじっと見つめ微笑なさった。



「背の君によく似ている。あの騒がしい男が気に入るはずだわ」



 さっきからちょくちょく出てくる騒がしい男って、誰なんだろ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ