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魔女セリスと8人の大魔女 〜この世で二度目の大厄災〜  作者: もーる
第6章 目指すべき場所

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46頁目.濃度と合格と失われた記憶と……

「助けて、ノエル……」



 ルカの研究を視察したその日の夜、フィンは宿でノエルに泣きついていた。



『ルカの奴、フィンの心をここまで折るとは……。聞いた限りじゃ、研究は確かに全く進んでいないと言っても過言じゃないだろう。だが、アタシにどうにかできる問題なのか?』


「ノエルにどうにもできないなら俺にもどうにもできないじゃん。何か助言とかでも良いから助けて!」


『いや、むしろ何かする必要があるのか? カンニング作戦を行う上で時間を稼げることに越したことはないだろう? それに、あいつだって残りの6割を1か月でやり遂げると宣言したんだ。対抗できる魔法を作ってくれることは信じて良いと思うぞ』


「現時点ではそれすら疑わしいんだけど……。まあ、ノエルの言うことなら信じても良い……のかな?」


「そもそもあんたは作戦のために潜入してるようなものなんだから、魔法作りにはそこまで深く関わらなくて良いと思うわよ? 本当にヤバくなったらその時こそノエルが何とかしてくれるわよ」


『うーん、アタシを頼りにされても困るんだがね。確かにアタシは今日、治し風ってのを実際にこの()で見てきた。だが……』



 ノエルは言葉に詰まる。



「この目で……って、もしかして魔力を見たの?」


『あぁ、とんでもない量の呪いの魔力だった。ただ、風の魔力を変質させているだけで他に何かの力が働いているようには見えなかったな。その証拠に、体調を悪くしている人は周りに全くいなかった』


「で、何で言葉に詰まったんだ? 予想通り、呪いの魔法だったってことじゃないの?」


『その予想は正しい。だが、これまで戦ってきたどの大災司(ファリストス)と比べても呪いの濃度が段違いだった。つまり、ルカの手に余る可能性がある上に、アタシの手に負える問題じゃない可能性も高いんだ。なぜあんなに呪いが濃い? どうして半年もの間、あの呪いに誰も気がつかなかった?』


「ノエルの目には映っているのに、あたしたちはあの呪い特有の嫌な感じを感じ取れないってことよね。何か他の呪いとは全く違う雰囲気を感じるわ……。まだまだ謎が多いわね」


「要は情報不足ってことだよね。俺ももっと情報を集めてこないと。結局、連中がそんなことをしてまで何をやってるのかさえ分かってないんだし」



 セリスはうんうんと唸って考えた後、言った。



「やっぱり、魔力の塊みたいなのがこの国にあるんじゃない? ルカさんが知らないってことは、どこかに隠れたお宝があった……みたいな」


「忘れ風が吹いているエリアの中にそんなものがあるのかな? 魔力の塊って聞くとノルベンの鉱山みたいな魔鉱が思い浮かぶけど、それにしては半年も……それも7日中1日だけの行動だけで採掘をしているとは思えない」


『別に今日はこの国にとって特別な日ってわけでもない。だとすると、本当に何をやってるんだ? それを探るのも今後は必要だろうが……とりあえず今は気にするべきじゃないな。本来の目的はライセンス試験だ。大災司(ファリストス)を倒すのも目的を探すのもその後だよ』


「……ただ、もしその()()があと少しで達成されるとしたら、それどころじゃないよね?」


「フィン? 急に何を……」


「ノルベンでもセプタでもプリングでも、俺たちが少しでも到着が遅れていたら悲惨なことになってたはず。もし姉ちゃんの運の良さで偶然間に合っていたんだとしたら、ノエルの見た呪いの強さからしても今回間に合わないって可能性も捨てきれない。可能性を捨てないのが魔女にとっては大事なんだよね」



 ノエルは言った。



『……確かに。その可能性は捨てられないか。だが、カンニングを成功させるには……』


「分かってる。あくまで俺は可能な限り急ぐに越したことはないって言いたいだけだから。俺たちに何かできることがあったら考えておこうよ」


「そうね、分かったわ。スティアにも伝えとく。魔具をどうするかって話も進めなきゃだし」


「よろしく。ちゃんと勉強も教えてあげてよ。お互いに」


「分かってるってば。あんたこそ、ちゃんと情報を掴んできなさいよね」


「もちろん!」



***



 それから時は3週間後まで進む。

 その日はセリスにとって4回目の試験日だった。

 フィンとノエルは試験所の外で2人を待っていた。



「成功する……よね?」


『アタシたちは全力を尽くした。全ての力を活用して、魔具も使って頑張った。あとは2人がミスったりしなければ……』



 すると、試験所の扉が勢いよく開かれ、セリスとスティアが駆け出てきた。



「あ、帰ってきた」


『どうだった……って、その顔は聞くまでもないな』


「当然、満点合格よ!」


「アタシも合格だ! 作戦がうまくいったな!」


「良かった! ってことは、もうペンダントに魔力入れてもらったの?」


「いや、そいつはまだだ。採点を行ったのは試験官の講師だからな。魔力の譲渡は大魔女本人にしてもらえってよ」



 ノエルは言った。



『じゃあ、早速ルカのところへ急ごう。セリスたちを労ってやりたいが、可能な限り次の行動に移さないとね』


「そろそろ大災司(ファリストス)に対抗するための魔法が完成してる頃……のはずよね? ちょうど良いタイミングだと良いんだけど……」



***



 塾長室に入ると、ルカが待っていた。



「聞きました。2人とも合格したのですね」


「はい。ですので魔力の譲渡をお願いします。あたしとスティアの分です」


「……良いでしょう。大魔女ルカの名において、セリスとスティア両名の試験合格を認めます」



 そう言って、ルカは淡々と2人のペンダントに魔力を込める。

 そして、そこから離れて椅子に座って言った。



「で、どんな手段を使ったんです?」


「はい?」


「あまり試験の結果に対して口を出したくはなかったのですが、流石に2人とも同時に合格というのは気になったので。まあ、今回の試験官の目を誤魔化した上で満点を取ったのであれば合格は合格。先ほどの魔力譲渡を撤回するつもりはありません」


『要はセリスたちがカンニングをしたと?』


「実力で満点を取ったのであれば申し訳ありません。ですが、これまでのあなた方の点数を鑑みると気にはなります。つまりは何をしたのか、ボクは興味があるんです。後学のためにも聞かせてもらいますよ」


「じゃあ、教えましょう。あたしたちが練り上げた3週間に渡る大作戦を! と言いたいところなんですが、その前に……」



 セリスはそう言うと、スティアに目配せする。

 すると、スティアはルカに近づいた。



「ちょっと失礼。その懐中時計、返してもらうよ」


「この懐中時計はあなたのものでしたか。以前、現在の時間と日付をすぐに知るためにフィンから借りた……って、まさかその時計!」


「あぁ、その通り。こいつは魔具だ。遠隔で魔力を込めると、時間と日付の数字を好きに変えられる時計。店頭に並んでいた名前は確か……『時導針(マギアグラフ)』だったか。2週間ちょっと前に店で見つけた時はこれだと思ったもんだね」


『フィンにはそいつが完璧に時間を教えてくれると念押しをさせていた。実際、ルカはそれを信じてこの2週間を過ごしていた』


「……ん? あなた方は何を言ってるんです? ボクがこれを借りたのは()()()()のことで…………」



 セリスたちはそれを聞いてニヤリと笑う。

 その顔を見た瞬間、ルカはぞっとした表情で叫んだ。



「ま、まさか……ボクは1週間分の記憶を失ってると!? でも、そんなことに気づけないはずが……!」


「だからこその大作戦なんです。もちろん、その1週間分の記憶の損失の穴はちゃんとあたしたちが埋めてあげますから」


「で、では早く教えてください! あなた方はボクに何をしたんですか!」


「焦らなければ簡単な話ですよ。落ち着いて聞いてください」



***



 2週間前の治し風の日。

 フィンとルカは治し風が吹いているエリアへと向かっていた。

 前日の忘れ風の日にフィンがルカに時導針(マギアグラフ)を渡していたこともあり、フィンにとっては魔具の機能が通用するのか見定める大事な日だった。

 その日は時間を動かさず、通常通りに時間を進ませて記憶を失った日付を印象付ける意図があったのだった。



「治し風……。俺は見るの初めてで緊張してます」


「最初は誰しもそうでしょう。ボクの魔法が成功したら記憶を失ったままにはなりますが、忘れ風にも通用すると思いますから問題ないですね。確か、この懐中時計でボク自身も時間を把握できるんでしたね?」


「ええ、そうです。日付もちゃんと今日のものに……なってますね。治し風で記憶が戻って今の記憶を失っても、前のルカさんはその時計のことを知ってますから大丈夫……だと思います」


「それなら問題なさそうですね。記憶が残るにしても戻るにしてもこの時計を信じましょう。そろそろ着きますよ」



 そう言って、ルカは魔導書を取り出す。

 そして、その中から魔法陣が描かれた紙を取り出した。



「では、過去のボクが作った魔法が果たして効くのか……。今は信じましょう。フィンは離れていてください」


「分かりました」



 フィンが後ずさったのを確認し、ルカは呪文を唱えながら魔法陣を服に張り付けた。

 そして、風域へと足を踏み入れる。

 フィンはしばらくルカの背中を見ていたが、やがてその姿が倒れこむのが見えた。



「ルカさん! 数分くらいしか耐えられない上に今回も失敗ってことか……。離れていろとは言われたけど、でも……」



 フィンは少し悩んだ後、ルカの元へと走ろうとした。

 しかしその瞬間、ルカはふらりと立ち上がる。



「……1日経過している。そして近づいてくる影……って、フィン!? こっちに来てはいけません!」


「っ、分かりました!」



 フィンは風域に入る直前で足を止めた。

 ルカは冷静な面持ちで風域から戻ってきて言った。



「なるほど、こっそりついてきたというよりは付き添いみたいですね。さっきまでのボクが苦労をかけましたね」


「いえいえ。それよりも、時計はちゃんと動いてましたか?」


「今日はこの日付で、今はこの時間で間違いないですか?」


「……ええ、間違いないです。ですが、失敗してしまったってことですよね……」


「言葉にされると不甲斐ないですね……。ですが、次に活かすとしましょう」



 ルカはそう言って、元来た道を戻ろうとする。



「あれ、もう帰るんですか?」


「ええ。深入りするのも良くありませんから。それに、フィンを連れて行くわけにもいきませんし」


「一応これでも戦えますし、忘風病になっていないなら治し風の影響は受けないはずですよね? 少し探索してみませんか? 連中の目的が分からないんじゃ、動きにくいでしょうし」


「いえ、連中の目的ははっきりしていますよ」


「えっ、分かってるんですか? じゃあ別に風対策しなくてもそこを叩けば良いのでは……っていうわけにもいかない理由があるんですね?」


「連中が狙っているのはこのエリアに隠してある、莫大な魔力を有したとある結界の魔法です。ですが、そこは国が管理している土地にあるのでこのボクであっても無闇に入ることができないんですよ」



 フィンは驚く。



「ちょっ、それ俺に教えて良かったんですか!?」


「協力関係にある以上、隠しごとはしない方が良いと判断しました。それに、ちゃんと話しておかなければこのまま突き進んでいきそうでしたから。とりあえず、帰りながら話しましょうか」


「分かりました。なるほど、国の管轄だから連中も探索に時間がかかっているわけですね。もしかして7日中1日だけなのってそれと関係が?」


「その通りです。まあ簡単に言えば警備が手薄になる日ですね。この付近は普通の住宅街に見えますが、国の研究施設に入るための地下通路が隠されているんですよ。その場所の警備の話です」


「地下通路の警備……。地上に吹く風とはあまり縁がなさそうな場所ですね」


「だからこそだとボクは思います。警備に何かあれば、それこそもっと早くに国にバレていたことでしょう。どうやって警備の情報を連中が知ったのかは分かりませんが、どうやら結界のある施設に繋がる場所までは突き止められていないようです」



 フィンは安心して頷く。



「その場所をルカさんはご存じなんですか? あ、答えられない情報なら良いですけど」


「知ってますよ、当然。だってその結界を作ったのはボクですから。連中がボクに手を出してこないのも、情報を引き出すために泳がせているといったところでしょう」


「……なるほど、だからあまりこの場所に近づかないように?」


「そういうことです。だからこそ、ボクはあの風に対抗することで連中に直接近づきたい」


「じゃあ、早く魔法を完成させないとですね! 俺ももっと頑張って協力しますから」


「そう……ですね。これからもよろしくお願いします、フィン」


「はい!」



***



「それが作戦の最初の一手? 確かにその時に時計を信用したのは間違いないですが……」



 話は現在に戻り、ルカは怪訝な表情をしている。

 セリスはルカに言った。



「ルカ様、ここまで聞いてそう言ってるってことは、もうアタシたちが立てた作戦が何か分かりますよね?」


「ええ、忘風病ですね。あなた方はそれを利用して、ボクの記憶を1週間分消した。実際、今の話がボクにとっては先週の話という自覚がある以上、それ以外に考えられません。ですが……」


『どうやってそれをテストと絡めたのか……だな?』


「そうです。いくらボクが記憶を失ったとはいえ、それがテストに影響するとは……」



 そう言った瞬間、ルカの目に数字がいくつか書かれた木の棚が映る。



「まさか……!」



 ルカは「30」と書かれた棚を引っ張り、中の書類を確認する。

 その中にはテスト用紙と思われる紙束が入っていた。



「今日取り出したのは30番のテスト……。ですが、よく見るとこの前見た時よりも明らかに枚数が減っている!」


「今日のテストを受けていたのは偶然にもあたしとスティアだけ。でも、先週のテストを受けていたのは10人以上いました。明らかに枚数が減っていて当然です」


「つまり……あなた方はただ試験を受けていたのではなく、()()()()()()()()()()を解いていた、と?」


「そういうことです! しっかり復習の講義にも参加した上で、ちゃんと間違えないよう徹底的に勉強し直しましたから抜かりはありません!」


「ちょっとズルしてる感は否めねえけどな。でも、魔法を活用したカンニング法だ。文句はねえだろ?」


「テストの結果についてだけは文句など言いません。ただ、1週間分の記憶というのはそう軽々しく消して良いものではないのは分かっていますね? ボクが魔法を完成させるために必要な期間が1週間伸びたのもそうですし、もしその間に国の機密に関わる情報を持っていたとしたら?」



 スティアは押し黙る。

 しかし、フィンはそれに言葉を返した。



「ルカさんはこの1週間、ずっとそっちにある研究室に籠っていました。国の伝令なども受け取らず、食事も俺や塾の講師が運んできたものをドア越しに受け取っていたほどです」


「え? なぜボクはそんなことを……」


『完成したからだよ。治し風を防ぐ結界の風魔法が』


「なるほど、完成……。えっ?」


「先週、ルカさんは俺の目の前でその魔法を完成させたんです。そして、あなたはそれを元にして忘れ風を防ぐための魔法を全力で研究し始めた。テストの準備とか、ある程度の自分の仕事だけはしっかりこなしてね」


「え、えええ!?」



 そうして、話は再度過去へと巻き戻る――。

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