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魔女セリスと8人の大魔女 〜この世で二度目の大厄災〜  作者: もーる
第6章 目指すべき場所

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45頁目.知識と不合格と回転と……

 次の日の昼。

 塾の授業が終わった後、セリスたちはスティアに作戦を伝えるべく空き教室に集まっていた。

 スティアは首を傾げつつ教室に入ってくる。



「急に来たと思ったら、一体何するってんだ?」


「何するって、今日も作戦会議するのよ。こっちで案が固まったから。考えたのはフィンだけど」


「ちょっと長くなるんだけど聞いてもらえるかな、スティアさん」


「ちょ、ちょっと待った!」


『うん? どうかしたのか?』


「セリスとその弟ってのは分かったし、その羽根ペンが使い魔なのも何となく理解した」


「んん……?」



 セリスはスティアの言葉に違和感を感じて怪訝な表情をする。



「あんた、急に何言ってるの?」


「作戦ってのはどういうことだ? そんなもん記憶にねえんだが……」



 その瞬間、セリスたちはハッとした。

 怪訝な表情は確信を得た表情へと変わる。



「まさかあんた、忘風病……!?」


「ぼうふうびょう? 何だそれ?」


「もしかして、昨日解散した後に忘れ風に吹かれた……? つまり、昨日俺たちと会った記憶がなくなってるってこと?」


『盲点だったな……。アタシたちの宿は影響を受けない地域だったが、スティアが泊まっている宿かその周辺がその風域の中だったんだ。つまり、今のスティアは少なくとも7日前までの記憶しかないってことになるのか?』


「お、おい、どういう意味だよ?」


『うーむ。ここで説明したところで、治し風に当たったら今日の記憶が全部なくなっちまう。今日は治し風の日らしいから、さっさと風域に連れて行くぞ!』


「場所はスティアの宿で良いとしても、治し風がいつ吹くとか分からないじゃない。それに、これって敵地に無策で乗り込むようなものなんじゃないの?」



 ノエルは少し考え、言った。



『じゃあ、その道の専門家に聞きに行くとしよう。いないのであれば、今がその時ってことだ。その時は別で作戦を考える』


「そ、そうね。塾長室へ急ぐわよ!」


「うん!」


「え、ええ? どういうことだよ……?」



***



 何も理解できていないスティアを引き連れ、セリスたちはルカのいるであろう塾長室前に来ていた。

 セリスはドアをノックし、ルカの名前を呼ぶ。

 すると、ドアが開いてルカの声が聞こえた。



「入ってどう……って、セリスにフィン? それとスティア、でしたか」


「時間がないので単刀直入に聞きます。今のルカ様は治し風を受けた後ですか?」


「その質問は……! ええ、その通り。今のボクは今日から見て2日前のボクです。用件を聞きましょう、セリス」


「スティアが忘れ風に吹かれたみたいなんです。今日って治し風の日ですよね? いつどのタイミングで吹くのか、ご存じですか?」


「ええ、それなら1時間前からずっと吹いていますよ。あと2時間くらいは吹くと思われますが」


『そんなに長い時間吹いているのか……。確かに治し風の記憶を完全に消す力の方が本命なんだし、時間をかけるに越したことはないな』



 ルカは頷く。



「あなた方のことは昨日のボクの日記で把握しています。ですが、とりあえず今はスティアの記憶を戻したいということですね。であれば場所を……」


「場所は分かってます。風が吹いている時間さえ分かれば大丈夫でしたから」


「敵地にあなた方だけで行くと? スティアはまだしも、セリスは連中に顔が割れているんですよ?」


『じゃあどうすれば良い? スティアを1人で行かせても記憶が混濁してしまって、少なくとも今日はここには戻って来ないだろう。時間が惜しいんだ』


「クロさん、あなたが行けばよろしいのでは? あなたほどのサイズなら闇の教団に見つかることはないでしょうし、スティアの記憶が戻ればあなたのことも分かるのでしょう? 使い魔の性能として単独行動ができるのであれば、ですが」


『アタシはゴーレムだから単独行動はお手のものだ。とはいえ無力な身体だからあまり単独行動はしたくなかったんだが、スティアなら何かあっても戦えると信じるしかないか。じゃあセリス、アタシがスティアの記憶を戻してくる。お前たちはさっきの教室で待っていてくれ』



 セリスとフィンは頷く。

 ノエルはスティアの目の前に飛んでいき、言った。



『さあ、お前の泊まっている宿に案内するんだ。そこに行けば何の話か全て理解できる。ルカのお墨付きももらったわけだし、信じてもらえるな?』


「ふーん……。よく分からねえけど、あんたの言葉には従った方が良さそうだ。アタシの勘がそう言ってる」


『あと2時間しかない。急ぐぞ、スティア!』



 スティアはノエルをカバンの横ポケットに突っ込み、外へと駆け出した。

 そして1時間ほどして、スティアはセリスたちがいる教室へと戻ってきたのだった。



***



 セリスとノエルは忘風病のことと、フィンが思いついたカンニングの作戦を伝えた。



「忘風病……。そして闇の教団か……」


「あたし記憶がずれるような経験したことないけど、急に夜が昼になった感覚ってどうなの?」


「びっくりしたに決まってるだろ。突然景色が変わったから幻覚か何かかと思ったら、目の前にそいつがいて全部説明してくれたから良かったもんだ。疲れが治ってたり空腹が満たされている状態だったのもあって、その話も全て信じられた」


「あれ? っていうか、自然な流れでスティアさんを巻き込んじゃってない? 例のカン……作戦の話をするつもりだったのに」


『結局巻き込む予定だったんだし、むしろ治し風を間近で見られたことも含めるとラッキーだ。テストとは別で、アタシたちはこの忘風病を生んだ闇の教団を倒さなきゃならないんだから』


「それもそうね。ただ、ルカ様にあたしたちとスティアの関わりを知られたのは少し誤算の元にならないかしら? 急に2人とも同時に試験で満点を取ったりしたら怪しまれない?」



 ノエルは答えた。



『大丈夫だ。疑われたとしてもバレなきゃ良い。フィンの作戦はそこも含めて絶対にバレることのない作戦だとアタシは思っているからね』


「ただ、怪しまれないことも大事だからちゃんと勉強はしてよね、2人とも。0点が急に満点になったらそれこそカンニングを疑われかねないんだから」


「誰が0点なんて取るか。アタシだって見習いの試験の時にちゃんと勉強はしてたんだから、こいつと違って3割くらいは取れるぞ」


「しれっとあたしと比べないでくれる? これでも特殊属性の魔法の知識は誰にも負けないんだけど?」


「ふん。だったら、アタシだって魔具使いとして基本属性の魔法の知識は負けねえ。呪文とかは苦手だけど……」


『そういや、お前たち2人とも得意なジャンルが被っていないんだな。分からないところがあったら教え合えば良いんじゃないか?』



 すると、セリスとスティアはお互いに顔を見合わせる。

 セリスは言った。



「こいつにあたしが魔法を教えるってこと? まあ、基本属性が苦手なのは確かだけど……」


「アタシ、教えるなんて経験ないから上手くできるか分かんねえぞ?」


「あぁ、2人とも教え合うのは気にしないんだね……。また口喧嘩でもするのかと思ってた」


「一緒に試験に受かるのが大事なんでしょ。そのための作戦なんだから協力しないでどうするのよ」


「その通りだ。それに、アタシだって魔具を作戦に絡めないことには手を貸す意味がねえ。セリスの知識があれば何かのヒントになるかもしれねえからな」


『2人がそういう考えなら安心した。セリスも作戦の詳細を理解したみたいだし、あと残っている問題はさっき言っていた魔具と……』



 フィンはそれに続いて言った。



「俺の行動……だね」


「研究の被検体とはいえ、ルカ様に近づけるのはフィンしかいない。魔具を仕込むにも、ルカ様が魔法を()()させるにも、フィンは作戦に必要な存在だものね」


『そして、期限は1か月。その間に行われるテストの回数は4回だ。その期間中にフィンには作戦の仕込みとルカの行動把握をしてもらう必要がある』


「可能であれば、ルカさんが風に対抗するタイミングにも立ち会った方が良いよね。その方が作戦の成功率は上がりそうだし」


『立ち会うなら治し風の時だけだな。忘れ風は防げなかった時のリスクがあまりに大きすぎる』


「それは確かにそうね……。でも、問題は治し風に対してもルカ様が対抗する気なのかどうかじゃない? 治し風自体は無害なわけだし」



 ノエルは少し考えて答えた。



『いや、ルカも大魔女である以上は治し風にも対抗するつもりだと思う。無害と思っている治し風すら防げないようでは忘れ風すら防げないだろうからね』


「それも含めて俺が行動把握しなきゃってことだね。ルカさんの行動次第でこの作戦の内容も大きく変わるだろうし」


「アタシたちが一番頑張るべきタイミングも変わるからな。まあ、アタシはアタシで魔具を見繕う必要があるから少し時間は欲しいもんだけど」


『とはいえ、次の試験は2日後だ。セリスにとっては初めてのテストなわけだし、そっちはそっちでちゃんと勉強しないとね』


「はーい……」



 結局、その日はスティアの件もあったため勉強会はすぐに終わってしまった。

 スティアには宿の場所を変えるように進言し、セリスたちは宿に戻るのだった。



***



 それから2日後の試験はセリスたちの努力も空しく、あっけなく終わってしまった。

 しかし、それは2人とも、というわけではなかった。



「まさか特殊属性の問題が出るとは思わなかったわ……」


「いやいや、何でお前に有利な問題が出てんだよ!?」


「こういう時に幸運が働くなんてね……」


「姉ちゃん、そう言いつつも2問ミスで不合格だけどね?」


『惜しかった……とは言えないな。紛れ込んでいた基本属性の問題に答えられなかったセリスもまだまだだ』


「9割取れたんだしもっと褒めてくれても良いと思うんだけど?」


『驚きはしたが、運で勝利を勝ち取った状態を手放しで喜ぶことはできないさ。その2問を答えられていたなら当然褒めてやっただろうが、アタシたちの目標を忘れちゃいないか?』



 セリスは悔しそうにしつつも答えた。



「あたしたち2人の合格……。そしてその先にある闇の教団を打倒すること」


「アタシは闇の教団に特段の恨みはねえけど、一度乗っかった勝負から降りるわけにはいかねえ。いや……一応恨むことはあるか。アタシが気に入ってた立地の宿に泊まれなくなったからな!」


『じゃあ、その意気で早速復習だ。アタシがみっちり教えてやるし、特殊属性ならアタシよりセリスの方が詳しいだろうさ』


「姉ちゃんも姉ちゃんで間違った問題のカテゴリは復習しといてよね」


「あら、どこか行くの?」


「ルカさんに呼ばれたからね。どうやらテストの返却が終わってからの3日間が俺の仕事の日らしい。こっちもこっちで仕事してくるから、ちゃんと勉強しててよ」


「そうだったの。じゃあ、お互い頑張るわよー!」



 フィンはセリスたちに手を振り、部屋から出ていった。



***



 それからしばらくして、ルカの研究室にて。



「まずは……ボクの研究の順序を教えておかないとですね。ボクは基本的に実体験をベースにした魔法の研究をしています。なので、体験→仮説→実験→実践……といった風に魔法の作成が進められます」


「俺はその実験に立ち会うことになる、ってことですね」


「そういうことです。ただ、先日のボクが言ったか分かりませんが、ボクが作っている魔法は風を風にぶつけることで打ち消す魔法です。実験とはいえ死に繋がる恐れもあるので、決して気を抜かないようにしてください」


「死に繋がる恐れがあるとまでは聞いた覚えないですけど、結構痛いっていうのは聞いてます。でも、連中の風の勢いに今の時点で勝ててないんですか? 話に聞いた限りではそんなに強い風じゃなかったって聞いてますけど……」


「風の強さの問題ではないんです。まずは風魔法の分類について教えて差し上げた方が良さそうですね。あなたの頭脳であれば数分で問題ないでしょう」


「ええ、よろしくお願いします」



 ルカは両手を霧吹きで濡らす。

 そして、右手と左手それぞれに見える風を起こした。



「あなたから見て右の方と左の方、何が違うか分かりますか?」


「回転の方向……ですね。右が右回転、左が左回転をしています」


「その通り。魔法の世界では右を『順転』、左を『反転』と呼びます。ただ、風魔法における回転の方向は方向以外の意味も持つんです」


「増幅と減衰、でしたっけ。単語だけは知ってます」


「知っていましたか。では詳しく教えますね。順転は特定の力を増幅する方向、反転はその逆で特定の力を減衰させる方向です。そして、それはどちらも回転速度によって強くすることができるんです。とはいえ、それがそのまま風の強さというわけではないのが難しい点だとは思いますが……」


「……つまり、連中の風魔法は順転の回転速度が速すぎて、ルカさんの反転の回転速度を上回っている。だから風の強さではなく、その風に含まれる要素の強さで負けている……ってことですか?」



 ルカは目を見開いて驚く。



「流石に驚きました。ここまで呑み込みが早いとは。そう、ボクの風魔法は忘れ風や治し風に対して回転速度が足りていないんです。そのために回転速度を上げる風魔法を新たに作っているのですが……」


「呪いの力がもし関係しているとしたら、普通のやり方だと負けちゃうかもしれないですね……。確か、呪いって基本属性の魔力を吸収する力がありましたし」


「そうですね。実際のところ、現時点で太刀打ちできるとは思えません。ですが、これでも4割の研究が進んでいるのにはちゃんと理由があります。ボクは実体験をベースに研究していると言いましたね? その結果に生まれたのがこれです」



 そう言って、ルカは部屋の奥から砲塔がついた鉄の塊を押してきた。



「え? 何ですか、それ」


「特定の要素を含んだ風を調整して打ち出すことができる魔法の大砲、『波弾砲(はだんほう)』です!」


「い、いやいや、何で今の流れで兵器なんて作ってるんですか!? っていうか、確かに死に繋がりそうな見た目してる!」


「ちゃんと理由はありますよ? ボクは忘れ風や治し風を身体に風魔法の結界を張ることで打ち消そうと考えています。であれば、ボクが結界を張っている間に代わりに風を撃ってくれる魔具があれば便利じゃないですか」


「そ、それはそうですけど……。これが4割の成果……なんですか?」


「魔具を作れるようになって20年……。その時と比べれば4割進んだと言えます!」



 それ、実質進んでいないんじゃ……という言葉をフィンは飲み込む。

 フィンはその瞬間まであることを忘れていた。



「(大魔女って呼ばれる魔女の中に、まともな人っていないんだった――!)」



 ルカの研究の日々がまだまだ続くことを、フィンは初日にして悟るのだった。

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