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魔女セリスと8人の大魔女 〜この世で二度目の大厄災〜  作者: もーる
第9章 闇の深淵

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95頁目.墓場と知恵とゴブリンたちと……

 王都へ向かうことに決めたセリスたちは、ルナリーをどうにか説得して村に残すことにした。

 危険がある可能性を考慮してのことだったが、それを察したのか、ルナリーも家の手伝いをしたかったとのことで快く残ってくれたのだった。


 村を出てから王都への道中、セリスとフィンはノエルに尋ねていた。



「『魔女の墓場』と『農園のゴブリン』について、ちゃんと詳しい話を聞かせてもらうわよ。特にゴブリンの方!」


『仕方ない。先に話すべきは【魔女の墓場】の方からかな。魔女の墓場ってのはメモラ王都の城下町の中に存在する、とある路地裏のさらに奥。四方を壁に囲まれた、一面が闇に覆われている不気味な地下空間だ。【魔女の墓場】なんて名前だが、別にお墓ではないし、そこで魔女が殺されたというわけでもない』


「そうなの? じゃあ、メモラで起きてたっていう『魔女狩り』の名残りとかそういう……?」


『いいや、魔女狩りが起きる前からそう呼ばれていたんだ。確か、魔女の亡霊の声が夜な夜な聞こえるとかで噂が広まって、勝手にそう呼ばれるようになったんだったか。未だに心霊スポットとして知られているということは、場所としての在り方は変わってなさそうだね』


「俺も噂だけは聞いたことあるよ。それで……クロとの関係は?」


『大魔女に任じられて間もなく、旅がひと段落したからサフィーたちと一緒にメモラに一度帰ったんだ。その時に魔法の研究のための場所を当時のメモラ王……ダイヤに用意するように頼んでね。その場所としてアタシが指定したのが、魔女の墓場だったんだ。闇の魔力に満ちていたから、アタシの工房にするにはぴったりな場所だったのさ。だから、当時から国の管轄になっているはずなんだがね……』



 セリスとフィンはお互いに見合って、ノエルの方を見直した。



「待って、魔女の墓場以上に気になる言葉があったんだけど……?」


「クロが当時の国王に魔法の研究場所を頼めるような立場にいたってことだよね? 大魔女って国王に進言できるほど偉くはなかったと思うんだけど……」


『旅に出る前、アタシはダイヤの教育係だったんだよ。あいつが王子だった頃の話だ』


「メモラ王家の教育係……? クロってば、一体どんな人生を歩めばそんなことになるのよ……」


『魔女狩りが起きていた頃の話だから、話すと長くなる。まあ簡単に言えば、魔女狩りを起こしていた当時の国王と、それに反対する彼の弟の派閥……その弟の側に匿ってもらっていてね。そして、その弟の息子がダイヤだった。そういうことがあったから、色々と頼める立場にあったというわけさ』


「うん、色々あったってことは分かったよ。魔女の墓場についてはそれくらい?」



 ノエルは答えた。



『特筆すべきことは特にないな。強いて言うとすれば、アタシたちの拠点にするために色々持ち込んだり結界を張ったりしていたものの、何にせよ国の管轄だったから簡単に人が立ち入れるような場所じゃなかったはずということくらいか。心霊スポット呼ばわりされているということは、アタシの死後に大魔女の誰かが荷物は回収してくれたんだろうけどね』


「今はさておき、数年前は普通に肝試しに使われてたって聞いたことがあるわ。だから、誰でも入れる状態になってたのは確かだと思う。国の管轄じゃなくなったのはかなり前からなんじゃないかしら」


「その辺りの噂についてはあんまり広まってなさそうだね。いつの間にか入れるようになっていた……みたいな感じなんだと思う。それじゃ、次は『農園のゴブリン』について教えてくれる? 父ちゃんがある程度言ってたからざっくりとは分かってるんだけどさ」


『ちょうど魔女の墓場を拠点に決めた頃だったか。アタシたちはお前たちの先祖であるルナリオと再会したんだ。そこでソワレ村に招待されたんだが、その時に(くだん)のゴブリンたちがソワレ村を狙って侵攻してきたんだ。元凶は災司(ファリス)……にされた召喚士で、狙いは今はお前たちが持っている例の【心臓】だ。悪魔の方じゃなくて本当に心臓の方』


「まああれが狙われるのは当然だとは思うけど……。召喚士……ってことは、そのゴブリンたちは召喚されたものだったのね。でもゴブリンってそんなに強い魔物じゃないでしょ? 村にある魔除けの結界があれば全然問題なかったんじゃないの?」


『呪いの影響でゴブリンたちは知性と力が強化されていて、さらに呪いで作られた鎧のせいで魔法がほとんど通じなかった。それに、ゴブリン側はソワレ姉さんを狙っていたこともあって戦況が面倒なことになっていてね。結局、姉さんが光魔法を使わないと解決しない事件だった。まあ、その時までアタシはその人が姉さんだと気づいてなかったんだけどね……。懐かしい話だよ』



 セリスは首を傾げる。



「姉妹なんだから、見て分からなかったの?」


『その時の姉さんはもう若魔女じゃなくなっていたこともあって、既に年老いていたんだ。数十年以上も顔を合わせていなかったから、アタシは気づけなかった。ようやく気づいたのはその光魔法を見たからさ。とにかく、災司(ファリス)に召喚されていたゴブリンたちはそうして解放された。そして、その召喚の術式を姉さんが受け継いだ』


「魔物なんだから、普通に召喚術式を破棄して返せば良かったと思うんだけど……。何か受け継ぐ必要があったってことなのかな?」


『呪いによって強化された知恵と知性は呪いが消えても消えない。そんな危険な個体を野生に返すわけにはいかなかった……というのは建前だ。ゴブリンが姉さんを狙っていたと言っただろう? あいつらは姉さんが自分たちの仲間を殺した理由を知りたがっていた。もちろん姉さんはあくまで魔物退治の一環で討伐しただけだったんだけどね』


「……ゴブリンたちは知恵を身に着けたせいで、その理由を知ろうと思ってしまったのね。そんなことを討伐した魔物側から聞かれたら、あたしは……何も答えられないかも」


『実際、姉さんもその自責に苛まれた。そして、少しでも魔物と共存することができる世界を目指そうと考えたんだ。その第一歩として、姉さんはゴブリンたちとの再契約を行った。そして、ゴブリンたちが人間と共存するために、後にダイヤ農園と呼ばれるようになる農園での労働をアタシが提案した、という経緯だね。ダイヤにこんなことを頼めるのはアタシしかいなかったし』



 セリスたちは歩きながらも、しばらく言葉を発せなかった。

 やがて、セリスはしみじみと呟いた。



「それが70年近く、ずっと続けられてきてたのね。それは間違いなくソワレ様と、クロの功績だわ。クロがメモラの大魔女だったって話、今になってやっと信じられたかも」


『これに関しちゃ、偶然の産物というほかないけどね。偶然、ダイヤの教育係になって、偶然、大魔女になって、偶然、こっちにいる時にゴブリンが攻めてきて、偶然、ソワレ姉さんと再会した。偶然に偶然が重なった、もはや奇跡と呼べる確率で起きた事件とその顛末だ』


「一部、明らかに偶然じゃない部分があったのはさておき……それって()()ってことじゃないの? あたしたちがクロとイースに出会ったのだって偶然だし、そもそもクロがこのタイミングでこの場所にいるのだって言ってしまえば偶然ってことでしょ? そんなの、普通のことじゃない」


『あぁ……そうだね。知らない記憶とはいえ、エストとの2年半もの研鑽は無駄じゃなかったようだ。本当に運命魔法と運命という言葉の解釈がちゃんとできるようになってるじゃないか。これでようやく、自分の幸運が運命魔法によるものだって理解できたんじゃないか?』



 すると、フィンは首を横に振って言った。



「クロ……姉ちゃんがそんなこと思うわけないでしょ? 多分、『それすらも運命』とか言い始めるよ、きっと」


「ちょっと、あたしのセリフを勝手に捏造しないでよ。あたしの幸運が運命魔法によるものかもしれないのは確かなんだから」


「かもしれないのか、確かなのか、全然はっきりしてないじゃん」


「これが魔法だって自覚ができないようになってるのよ、きっと。あるいは発動者があたしじゃないってパターンだけど……。とにかく、あたしはこの幸運を自在に扱えるわけじゃないってこと。この前のスターヴとの戦いの時は幸運に任せて剣を避けてたけど、いつ幸運じゃなくなってもおかしくなかった。そんな気がしてたの」


『幸運ってのは本来そういうものだからね。実際、セリスはフィンが死ぬ目に遭う事態を何度も経験している。そいつは幸運なだけでは起きえない最悪の不運だ。幸運な人間は別に不運にならないわけじゃない。だが、魔法なら……その幸運と不運のバランスを変えられる』



 フィンはハッとした。



「……結果的に今ここに俺が生きてることが、運命魔法の幸運のおかげってこと?」


「うん、多分。魔法のおかげ……なんて言いたくないけどね。誰の仕業か知らないけど、幸運なら幸運なままでいさせてくれても良いのに……」


『不運を経験しても、結果的に幸運を引き寄せられるかどうかは結局のところ、運命に巻き込まれた側の問題だ。セリスにはそれを叶えられるだけの力がある。それだけさ』


「運命に巻き込まれた側……。今回のゴブリンの件もそれに当てはまるのかしら」


「姉ちゃん?」


「呪いにまつわる運命に巻き込まれたゴブリンたちの未来は、誰がどうやって決めるべきなのかしら……。今から会いに行くっていっても、何をどうするのが正解なの?」



 再び沈黙が流れる。

 やがて、ノエルは言った。



『魔物との共存という姉さんの願いは今も生き続けている。だからこそ、未だにゴブリンたちは生かされているし、ゴブリン側も何もしていないんだと思う。そしてそれはこうも言えると思うんだ。ゴブリンたち自身も何をすれば良いのか分からなくなっているんじゃないか、って』


「正解なんてあるの? ううん、そんなのあったらクロがいなくても既に解決してるはずだものね」


「あれ? 俺たち、もしかしなくてもかなり重要な場面に立ち会おうとしてる……?」


「あら、気づいてなかったの? あぁ、あと……もう目の前に迫ってるわよ?」


「あ、えっ!?」



 話しているうちにセリスたちはメモラ王都の城下町に入り、通行人も全くいない、魔女の墓場に通じる道を歩いていた。

 フィンが足を止めて正面を見ると、そこには人ならざる二足歩行の魔物が立っていたのだった。


 背はセリスたちより小さいものの、緑色の強靭な肉体と角、尖った耳、そして人間の美的感覚に沿えば醜いと言うべき相貌。

 服は着ているが、腰には明らかにこん棒と思われる武器を提げている。



「いた。きっとあれが農園のゴブリンだ。見張り……にしてはあんまり警戒してなさそう?」


「一見するとちょっと怖いわね……って思ったけど……。もしかしてあれ、ただ日向ぼっこしてるだけじゃない……?」



 そのゴブリンは建物の影の隙間から差す日の光を浴びるように、気持ちよさそうに立っていた。

 あくびをしたり、うつらうつらとしたり、あまりにも無警戒。

 もはや、無防備と呼ぶべき様子だった。



『……とりあえず、話しかけるか?』


「え? どうするか決めてもないのに、もう行っちゃっていいの?」


『話を聞いてみないことには始まらないだろう。ほら、行くんだよ』


「分かった、分かったわよ。それじゃ、フィン。よろしく」


「ええっ!? 俺!?」



 その瞬間、フィンの声にびっくりしたようで、目の前にいたゴブリンはびくりと肩を跳ね上げた。

 そして、ゆっくりとセリスたちの方へ振り返って言った。



「びっくりしタ……。だ、誰ダ?」


「えっと……その、俺たちはソワレ村から来た、ソワレさんの子孫だよ。君は農園のゴブリンだよね?  俺は君たちと話がしたいんだ」


「ソワレ、ソワレ……? 聞いたことがあるようナ……あッ!? ちょ、ちょっと、待ってロ!」



 そう言って、そのゴブリンは道の奥の闇へと駆けて行く。

 すると、突然その場に地響きが起き始めた。



「えっ!? 何、何なの!?」


「何か、騒がしい声が近づいてきてるような……」


『魔女の墓場の方から、みたいだな…………って、うん!?』



 足音で地響きを生みながら、闇の中から現れたのはゴブリンの大群。

 総数は15体。

 セリスたちがその様子に驚いていたのは、脅威を感じたからではなかった。

 彼らは皆、嬉しそうな表情でそこまで走ってきたのだった。



***



 それから少しして、魔女の墓場の中。

 ゴブリンたちが好き勝手に厳つい装飾を施してはいたものの、中は魔具のランプで明るく照らされており、セリスたちはその中に案内されていた。



『まさかこんなにすんなりと話を聞いてくれるとは、予想だにしなかった』


「ソワレ様の魔力って、そんなに分かりやすいのかしら。あたしたちが子孫だって、すぐに信じてくれたわね……」


「召喚の契約って術者の血を使うんじゃなかったっけ。そのおかげでソワレさんの血が俺たちに流れていることも感知できる……とか、あるんじゃない?」


『召喚術は召喚される魔物側の意思を知ることはほぼ不可能だからね……。知恵ある魔物ならではの特性……といったところか。召喚術という学問的にはかなり価値のあるケースだろうさ。というわけで、こんな話をしているうちに全員揃ったようだが……どうしてアタシたちを囲む?』



 セリスたちは自分たちで持ってきた椅子に座ると、15体のゴブリンたちがそれを囲むようにして座った。

 その中の最も身体の大きいゴブリンは、セリスたちに言った。



「まず、長から名乗るのが礼儀ダ。ミゾガはミゾガ。前の前の前のリーダー、イダチの弟の弟の弟ダ」


「ややこしいけど、名前は覚えたわ。ミゾガね。それじゃ、あたしは――」


「違ウ。お前たちのリーダー、お前じゃなイ。そこに浮いている羽根、お前がリーダー。違うカ?」


「え、分かるの!?」



 すると、ノエルは答える。



『……アタシは、ノエル。闇の大魔女にして、かつてお前たちを召喚した災司(ファリス)・ディートと戦った魔女の1人だ』


「……やはり、そうだったのカ。懐かしい魔力を感じると思っていタ。ミゾガたちは、お前を待っていタ」


「えーと、あたしたちの自己紹介は要らないのかしら? 一応、ソワレ様の子孫代表なんだけど……」


「そうなると、ミゾガ以外の仲間、全員の名前を覚えてもらウ。それでも大丈夫カ?」


「……ノエル、どうにか説明しといて。全部任せたわ!」


『全く、お前なぁ……。まあ、仕方ない。こっちの娘はセリス。で、こっちはフィン。どっちもソワレ姉さんの子孫だ。今回はアタシの付き添いだと思ってくれ。そして、どうやらお前たちはアタシがここに来た理由も分かってるということで良いのかな?』



 ミゾガは頷き、その場で深々と頭を下げながら言った。



「頼ム。ミゾガたちに、()()()を、くレ……」



 その声は、その音の低さとは裏腹にどこまでも弱々しく、あまりにもか細い声だった。

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