表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
W線上のアリア  作者: 雪見桜
世界樹の勇者は悪の鎧戦士を倒したい
6/15

その1

 世界は白が支配していた。大地を埋め尽くす白い雪原。

 白によって支配された大地をさらに塗りつぶすかのように吹雪が叩きつけている。

 その強さはたった今作られた足跡を消し去ってしまうほどだ。


 足跡。

 そう。今ここには足跡を作る主体が存在している。

 少年だ。少年の足取りに迷いはなく、まっすぐ力強く進んでいる。吹雪のせいで三〇センチにも満たない視界であるにもかかわらず。


 彼の装備はお世辞にもこの猛吹雪の中を歩く装備には見えない。普通の旅装束におまけ程度のマント装備。手袋こそしているものの、それは防寒のためのものにはとても見えない。

 そして、彼は今、その手に何も持っていない。まるで近所に買い物に出るか、キャンプからうっかり迷い出てしまった遭難者のようだ。


 しかし彼のしっかりとした足取りはそのようには見えないし、彼の力ある瞳もその推測を否定するものだった。

 そして奇妙なことに、これほどの猛吹雪の中を歩いているにもかかわらず、彼の身体にはまったく雪が積もっていなかったのだ。まるで吹雪が意志を持って彼の身体に触れないよう、気を遣っているかのように。


 そんな一見普通に見えてどう見ても普通でない少年の、力強い足取りが突然止まった。

 まるで猛吹雪の中、そこに線があってそれ以上踏み出せないかのようにも見える。

 それは、一部は正しくて一部は正しくないといえた。

 少年の前を見る目は変わらず力強く、些かの迷いも感じられない。

 それでは何が彼の歩みを止めたのだろうか?


 少年は大きく息を吐いた。極寒の猛吹雪の中だというのにその息は白くはならなかった。

 決意を固めたかのように気合いを入れ直すと、それまで彼の足を止めていた線を跨ぐかのように大きく一歩を踏み出した。

 次の瞬間、少年の周りを取り囲む風景が一変した。そこには厳として境界線が存在していたのだ。




 それまでの雪の世界から一転、世界は赤く染められていた。

 夜空に赤く大きく輝く月。それがあたりを赤く染め上げていた。それまでの雪景色とは異なり、少年の足元は背の低い野草で覆われている。多くの木々で囲まれたちょっとした広場のようになっている場所のようだ。


 少年が少し上を見た。そこは少し小高い丘になっていて、少年が見据える先には人影があった。赤く光る月明かりが逆光になっているせいで詳細を見て取ることはできないが、その背丈は少年よりも少し大きいかと思われる、全身鎧の騎士のようであった。


 全身鎧の頭がゆっくりとめぐり、少年の方を見た。少年は腰を落とし、いつでも動き出せる態勢をとった。武器こそ持っていない――繰り返しになるが、彼は手に何も持っていない――が、戦闘態勢である。


「また来たの? いくつ持ってきてもあたしには……なんだ、子供じゃない」

 丘の上の全身鎧から声が聞こえた。女の――若い女の声だ。よく見ると、その黒い全身鎧は女性らしい柔らかなラインをしていた。

 言われた少年は表情をこわばらせ、全身鎧を睨みつける。

「オレは子供ガキじゃねえ!」

 そのリアクションこそが子供であることに気づきもせず、少年は声を荒げた。さらに少年は全身鎧を指差し、叫ぶように宣言した。


「世界征服を企む悪の魔王め! この『世界樹の勇者』フレスベルグが正義の名のもとにお前を退治してやる!」

 決まった……! と内心思っているのだろう。フレスベルグを名乗った勇者は全身鎧を指さしたままドヤ顔をしている。


「はぁ?」

 言われた側の全身鎧は腰に手を当てて呆れたような様子だ。

「何それ? あんたそんな設定に騙されてここまで来たの? これ見てみなさいよ。どう考えても侵略してきたのはそっちでしょうが」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ