第78話 悪意の収束点
汗を掻いた肌着は、美尊の柔肌へとへばり付き――身体のシルエットを際立たせている。
スレンダーでいながら出る所はしっかり主張している芸術的な迄に美しい身体が、そこにはあった。
〈うおおおおおおおお!〉
〈す、スゲェエエエエエエエエエエエ!〉
〈一瞬で全てを破壊した白星様ぁああああああ!〉
〈狐ロリ! 美尊ちゃんのセクシーお宝ショットおおおおおおお!〉
〈何が起きたのかわかんねぇえええええええええ!〉
〈もふもふロリぃいいい!〉
〈助かったんだよな!? 美尊ちゃん助かったんだよな!?〉
〈美尊ちゃんと命を賭けるあたおか、マジで最高最強の兄妹なりぃいいいいいいいいいい!〉
ヤバい!
このままじゃ、美尊のあられもない姿が配信で世界に晒されてしまう!
「美尊、俺のTシャツ着て!」
「うん。ありがとう、お兄ちゃん」
俺は自分が着ていた上着を脱ぎ、美尊へと渡す。
ズボンも脱ごうとしたが――。
「――そっちは要らない」
そうだよね~。
下は大きければ良いってもんじゃないし……。むしろ動きにくくなるか。
〈お兄様の腹筋、胸筋んんんんんんはぁああああああああん!〉
〈あたおか、絞られ方がエグいwww〉
〈傷だらけ、歴戦の猛者感がかっちょいい〉
〈ダンジョン10年の歴史か……。治癒魔法でも治らなかった傷の足跡。カッケェな〉
〈彼シャツじゃないけど、ぶかぶかなサイズの服を着てる美尊ちゃん……てぇてぇ〉
「視聴者の皆さんッ! ウチの妹を変な目で見ないでくれませんかね!?」
許せんよ!?
不埒者は、俺が直接鉄槌を下しに行くからな!
〈ふざけんな、どけ兄貴ぃいいいいいい〉
〈指紋しか見えねぇええええええええええ!〉
〈お兄様の指紋いただきしたぁあああああああああ!〉
美尊のドローンの前で、俺が必死にカメラのレンズを塞いでいると――。
「――お兄ちゃん」
クイッと、俺のベルトを美尊が引いた。
その瞳は真剣で――これから何が言いたいのか、俺は察した。
ドローンカメラのレンズから手を離し、俺は美尊の横に並び立つ。
「……さっきの戦闘でも分かる通り、私たちは開拓者です。何時死ぬかも分からない。……さっき、明確に死を意識した時に……私には、心残りがありました。――大切なお兄ちゃんと、2人の思い出が全然作れていないって」
美尊が真剣に訴えかける言葉に、俺と別れる迄は荒れていたコメントも――落ち着いている。
美尊にばかり任せていちゃダメだ。
俺だって――言わなければいけない。
「俺は……何年かけてでも、視聴者やファンの皆様に、美尊との仲を認めてもらおうと思っていました。頑張り続ければ、いつか必ず願いは届くと。……でも、それは自分は『死なない』と言う思い上がりでした。美尊と同じように、俺もあのまま死んでたら……。折角、10年振りに地上へ帰って来られたのに、心残りになっていたと思うんです」
〈あたおか……。俺は認めるぞぉおおお〉
〈ワイもだぁあああああああああああああああ〉
〈美尊ちゃんが心残りになるとか言われたら、俺らワンちゃんとしても悲しいけど……〉
〈お互いの為に命を賭ける兄妹の絆を邪魔するなんて野暮ってもんだろうがよぉおおおおおお!〉
〈認めるに決まってんだろ! さっきの命がけの激戦見て『認めない』なんて奴は赤い血が流れてねぇよ!〉
〈やっと再会が出来て、いつ死別するかも分からない兄妹かよ。ああ、もう!〉
お?
さっきまでは――取り付く島もないコメント欄だったのに、今は話が通じそう?
「俺と美尊が兄妹として仲良くするのを、どうか認めて下さい! お願いします!」
「お願いします」
腰を折って、深々と頭を下げる。
〈あああああああ色々ありすぎて分かんねぇけどアイドルなんだしダメだろおおお!?〉
〈反対派、マジで人の心あるの? ありえんわ……〉
〈美尊ちゃんは皆のアイドルなんだよぉおおおおおおお!〉
〈仲良くって、一緒にご飯食べたり街を出歩くって事だろ? 考えただけでキツい〉
〈えぇ……。同じ人間として恥ずかしいレベル〉
〈え、引くわ。ここで認めないとかいうやつがこんだけ存在するとか、同じ日本人として恥ずかしい〉
〈大神向琉さんや伊縫美尊さんが悪くないのは分かってます。でも10年前のダンジョン災害で私の娘は行方不明のままなんです。なんで私の娘が帰って来ないのにと、どうしても妬んでしまうんです。自分がみっともないとは分かってます〉
〈↑気持ちはお察しします。私も似た境遇ですが、それで奇跡の帰還を果たした大神さんたちの仲を切り裂くのは違うだろうと、複雑な胸中です……〉
2人で頭を下げ続けているが、意見は――やはり、賛否両論。
俺と美尊を認めるか認めないか。
絶対的な拒否という訳ではないけど――感情の整理が追いつかないらしい。
これは難しいかもしれない……。
そう考えていた時――。
〈オイ、お前ら! ニュース速報が出たぞ! 全ての元凶『大宮愛』がとんでもない事をインタビュー記事でゲロってる!〉
「――……ぇ」
思わず、顔を上げた俺たちの目に飛び込んで来たのは――1つのURLリンクだった。
それはコメントが流れる度に、何度も連投して貼り付けられ続けている。
そして、徐々にそのリンク先へ飛んで来た人が――情報を持ち帰って来た。
〈はぁあああ!? 10歳の大神向琉を親元と美尊ちゃんから無理やり離して天心無影流の後継にと進言したのは、当時師範代候補だった大宮愛だって!?〉
〈本来は成人するまで通いで良いのに、無理やり道場に住まわせたとか……。マジ大宮愛は最悪のクズ〉
〈死亡届を出させないようにしたのも自分。血の繋がった家族じゃなくて自分の手の元へ引き込んだのも自分って。マジで諸悪の根源じゃねぇか!〉
〈被災した2人を自分の元へ抱え込んで体の良い金稼ぎ道具にしたってこと? クズ過ぎて言葉もないわ……〉
〈功績のように得意げに語ってる写真が更にムカつく〉
〈なんだこれ、読めば読むほどゲス過ぎるだろ。胸くそ悪すぎ〉
〈つまりこうして美尊ちゃんと大神向琉さんが苦しんでるのは、大宮愛が全ての元凶って事か!?〉
「は……?」
呆気に取られる俺と美尊を余所に、コメント欄は1つの結論へと収束していく――。
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