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シティバトル5

 声をかけたのはスペーススーツを着込んだ一人の男だった。

 顎には髭を生やし、口には皮肉っぽい笑みを浮かべている。腕で警部の襟首を掴み、片手のナイフを首に突きつけていた。


「ぐっ……」

「ハァイ。How are you?」


 平然としたままでローザは男に声をかけた。


「Not too bad. ……美人に会うのは悪いもんじゃない。奴らはどこだ」


 ローザはその質問には答えず、ディアスの姿を上から下まで眺めた。そしてふうとため息をつくと、片手を額に当てた。


「幻滅……ね」


 期待はずれの感を込めた声でローザが言った。


「いくら古典的な格好って言ったって、一人前のダンディーが襟首掴んでナイフ突きつけるなんて。みっともないったらありゃしない」

「しかし一人殺すには十分だ。それにやたらめったらブラスターぶっ放せるほどうちの会社は大きかねえんだ。こちらさんみたいな国家公務員とは違う」

「ねえ? こっちに鞍替えする気なぁい? アレキス星系政府の情報部って羽振りいいのよぉ? 暴れたいのなら軍でもいいわ。将軍職ぐらいすぐに手に入れられるわ、あなたなら」

「それで最後にヴェルドゥの餌にする理由か」


 甘ったるい声を使っていたローザの顔が、女スパイのそれへと変貌した。


「……」

「それよりもお前なあ」


 ディアスは2、3回警部の襟首をゆすってみせた。


「俺の姿とこの格好を見て何か思わんのか?これはまずいかなとか、この男が危ないなとか、助けるためなら少しぐらい無理な要求でも飲もうかなとか」

「助ける?」


 ローザは持ち前の不遜な美しさでフンと笑うと、冷たい流し目で囚われた男を見た


「そんな男に助ける価値などあるものですか。たかが警部補の一人や二人、成り手などいくらでもいる。ただ首をすげ替えればすむだけのことよ。せいぜい今度は聞き分けのいい男を 殉 職 した警部補の後釜に据えればいいだけよ」

「少佐!」


 哀れっぽい声で助けを求める警部に、氷の声音でローザは言った。


「だから言ったでしょ? 私は国家に最も近い人間。お前などにどうこうされる人間じゃないわ」

「五十歩百歩」


 ディアスの口から漏れた言葉をローザは聞き逃さなかった。


「……なんですって?」

「人のことが言えるのか?」


 ディアスの言葉に何かを感じ取ったローザはふと振り向いた。振り向いたローザの視線の先には見慣れぬ男が立っていた、銃を持って。

 くぐもった発射音と共に左の方に焼け付くような痛みが走り、体を捻りながらローザはディアスを見た。


「一人じゃ……なかった……?」

「おやすみ、ベイビー。一人でいい夢見てな」


 力が抜けて倒れこんだローザの体を、はっしと受け止めてつぶやくディアス。

 周りの男達は馬鹿ではない。みな腕利きの情報部員だ。色めき立って懐に手を入れた。


「動くな」


 腹の底にまで響き渡るディアスの低い声は、一瞬彼女の部下たちの動きを止めた。


「死んじゃいない。睡眠弾だ。しかしお前さんだが何かしでかせば、すぐさま天国に、いや地獄か? とにかく旅立つ事になるぜ」


 ほとんど失神状態の警部を集まってきた2、3人の男たち……ノーマンの手下に渡すと、そのうちの一人の男のそばに口を近づけて囁いた。


「ありがとよ。おかげで楽に来れた。おたくらのボスによろしく言っといてくれ」

「ここは我らが。どうぞ中へ」


 頷いてディアスは家の中へとその身を滑らせた。

 階段を見るが早いか、両脇から二人の警官が警棒を振りかざして飛びかかってきた。相当の達人なのだろう。しかしいかんせんディアスにはかなわなかった。

 警棒を振り下ろした二人はふわりと体が浮くのを感じ、次に床に叩きつけられ、みぞおちと首筋に鋭い痛みを感じて気を失った。

 薄笑いを浮かべて階段を下りたディアスに下から何者かが声をかける。


「遅いっ」


 ディアスはその声を知っていた。彼の大切なマネージャーである。ゆっくりと降りてきたディアスは、その場の光景を見渡してため息をついた。

 扉は破られ2、3人の警官は床に伸び、アレックスは服の埃を払い、残りは今まで体を縛っていた縄を弄んでいる。ディアスはチッと舌打ちをした。


「お前らなあ……。少しは自分たちのキャップに花を持たせてやろうとかなぁ、そういう心遣いはねえのかよ」

「ないよ」


 当たり前だろ、とマイクは言った。


「いったい僕らがなぜここにいるか知らんだろ、こら」

「ヴェルドゥの野郎のせいだろ?」

「違う」

「それじゃあ、あのタコ署長とか?」

「誰だよ、それ」

「表の警部と女スパイ?」

「まあ、それもあるがね……。そもそも僕らが何の容疑で捕まったと思ってんだ。ロボットタクシー分解したりバイク盗んだりするアレックもアレックスだけど、それを黙認していたキャップもキャップ……」

「なんだ、そんなことか」

「そんなことかって、あのなあ……」


 呆れたように口を閉ざしたマイクとは反対に、ディアスはきっぱりと言った。


「とにかく話は後だ。ヘルメス号とハワードとセラがかっさらわれた。取り返して、とったやつらにい一発お見舞いしなきゃならん」

「知ってますよ」


 ドクが答えた。


「さっき警官達が言ってました」

「一発と言わず、2、3発やってやろうぜ」

「あたぼうよ。それじゃみんな行くぜ! ……と、誰だその坊主は」


 一人見知らぬ顔の男が、坊主と呼ばれてムキになったのは言うまでもない。


「坊主坊主と言うな! 俺は……!」

「あとあと。話はあとだろう?」


 また22歳のなんのというセリフをマイクのウィンク一つでかわすと、5人はあの悪夢の家から抜け出した。

 ……すると、悪夢の続きが待っていた。



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