シティバトル2
「……ドク」
「はい?」
「1アワーズたったよ。コーヒーまだかい」
「……めちゃくちゃ言わないでくださいよ、マイク……」
窓なし、明かりなし、入らなくて良かったとホッとしていたあの場所に入るとは。
後ろ手に手錠をかけたその上にロープで縛られている。一体僕が何をしたというんだ。僕は善良な人民じゃないか(どこがだとこが)。
「……言いたくもなるさ」
うんざりした顔でマイクは言った。
「本当にこのような、底意地の悪い老婆の顔した運命ってヤツがいるのかもしれないな。今更ながらにズシリとその実感がのしかかってきてさ」
すると、それまで黙っていた人物が突然口火を切った(なんかこのパターンばっかりだ)。
「すっ、すみませんっ!」
「へ?」
「僕が、僕がうっかり言ってしまったから! 俺、どうやってお詫びすりゃ……」
「あのねぇ、少年」
マイクは半ば茶化すように言ってのけた。
「これから何か物言う時には一人称統一してからにしなよ。僕、とか俺、とか、ごちゃごちゃしててようわからん」
が、少年にはそれがわからなかった。
「……すみません」
「それはもういいってのに」
とにかく傍目から見ててもアンドリューの落ち込み具合は酷いものだ。ドクはたまらず口を挟んだ。
「気にすることありませんよ。アンディ……で良かったんでしたっけ?」
「アンディ……。まあ、いいですけどね」
実はロビンソンは「アンディ」と言う呼び方が好きではないのだ。なんか、いかにも「ガキ」って感じがする。
だから仲間にもロビンソンで呼ばせていたのだが……まぁ、この人たちならいいか。
「そうさアンディ、気にするこたぁない。いざとなれば幸運なんてすぐに手に入る」
「そーですかぁ?」
「自分の人生は不幸の塊」と信じ込んでいるアンディには疑わしく思えた。
「あんまり気は進まんが……。まず声かけて次投げキッス、側によってまとわりついて、それでもダメならかっさらう」
「……女の子のかどわかし方聞いてるんじゃないんですけど」
「知らんよ。知り合いの台詞の受け売りなんだ」
……そういうことを言うとしたら、多分アレックスかキャップなんだろうなーとドクは思った。
言葉の内容にすべて賛成というわけではないが、とにかく今はアンディの気分を落ち着かせるのが一番だろう。
「そうだよ、アンディ。君のせいじゃない。今回私たちがちょっと運が悪いのはね、ヘルメス号の幸運の女神が連れ去られたからなんだよ」
「……女神?」
なんか急に話がずれたような気がしたアンディであったが、そう思ったのは彼だけであったらしい。
「女神……そうだね」
そう言うと、あまりにも優しくマイクは微笑んだ。ドクの笑顔についつられてしまったのだ、とマイクは思う。
「でしょう?」
白い衣に長い髪。女性、というのもちょっとおかしな気がするが、神格化されるには十分すぎる人物。セラ。今回は彼がいない。
「だから、ここから抜け出してセラを取り戻せばまた幸運は戻ってくるさ。まあ……そう勝手に思ってるだけなんだけどね」
ドクはそう言うと、少し照れたように微笑んだ。我ながらちょっとかっこつけたかな、と思う。
「……信じるよ」
アンディにもドクの気持ちが分かる気がした。
「信じないよりましだもんな」
ちょっとほっとしたような雰囲気が、全員の格好、扱いにもかかわらず流れた時だった。
「……しっ」
突然マイクが言った。
「誰か来た」
誰かが階段を降りてきた。牢の外の警官と何か2、3言いかわすと、軋んだ音を立てながら扉が開いた。
警官と、それからどちらかと言うと軍人というようなタイプの人間が、一人の男を部屋に放り込んだ。うつむきのまま男が床に寝転がると、警官(太った、国家権力を自分の力と間違えているかのような男)が嘲った。
「新入りが来たぞ。嬉しかろう?」
「嬉しいよ。これでやっと麻雀ができる」
マイクのセリフに一瞬きょとんとしたが、自分がおちょくられているのだと分かると警官はムッとし、そしてすぐに彼らが手出しできないのだと思いだして、せせら笑った。
「せいぜい強がりを言ってろ。明日のことは誰にも分からんぜ」
「そう、確かに誰にもわからんな」
事も無げに言い返されると、ヤケ気味に力一杯扉を閉めて二人は出て行った。
暗い地下、明かりも窓も無いが扉の隙間から少し明かりが差し込んでいる。その明かりの中にぐったりと横たわったままの男の姿が見えた。
「しっかりなさい。大丈夫ですか」
ドクは男に近寄っていき声をかけた。気を失っているらしい。
とにかくこのままでは、ということになり、3人で仰向けにすることにした。手が縛られているので足で、ということになるが、ずいぶん疲れる。なんとか仰向けになった男の顔を、光が照らし出した。
「お……おい。これは夢か幻か」
「夢だとしたら悪夢ですね」




