ファイターズ1
「暴れるんじゃない! 俺だからいいものの、ほかの奴らならこんなんじゃ済まないんだからな!」
ここはタクシーの中ではない。ではどこか。
ゴルゴダである。
荒野にいくつかテントが張ってあって、その一つにマイクはいるのだ。
テントの大きさは人が5人ゆうゆう寝られるぐらい。そこに制服を着込んだ少年が一人、体格のいい男たちが3人、縛られているマイクの周りに立っている。テントの周りにも5、6人、500アムル四方には何人の男たちがいるのだろう。
マイクの周りには溢れたオートミールとその器が転がっているのが見える。まあ察するところ、この少年が食べさせようとしたところマイクが抵抗したってところでしょう。
「……君ねぇ、少しは状況を考えたまえよ?」
口調はうんざりとした感じではあるが、意地の悪い教師ができない悪い生徒に難問を解説してやる時のような表情でマイクがのたもうた。
「僕は今、ただ今この瞬間、人質としてここにいる。その上両手足は縛られて。これじゃ頭もかけやしない。
その上、このごつい兄さん方の監視の上で食事ときたもんだ。これじゃあ、何か毒物のふりかけ入れと勘ぐるのも不思議じゃないでしょうに」
「ごちゃごちゃ言ってないで食べろって。……ああ、おかわりを持って来なけりゃ。食べろよ? そうじゃないと俺がV大佐に……あぁ、今はV将軍か……。(この時マイクはこの少年が嫌悪の表情を示したのに気がついた)殺されっちまう。お前を生かすことが命令なんでね」
「代わりを持ってきても僕は食べんよ? 宗教の関係上、絶食中でね。……とまぁ、いうのは冗談としても、僕は海賊の一味は信用せんことにしとるんだ」
「海賊だと!」
マイクのセリフを聞くとなぜか少年は怒り出し、マイクの襟首を掴んで引き寄せた。
「俺のどこが海賊だってんだ! あんな奴らと一緒になんかする……!」
ここで少年は周りの男達に気づきキョロキョロと見回すと、2、3段階トーンを下げてぼそぼそと言った。
「……じゃねーよ。そりゃ俺だって不満はあったぜ? だけど戦友を皆殺しにしたことは……意識的にはなかったし、上司に楯突いたことだって……見かけ上ではなかったんだぞ」
「言ってることのワケがわからんな」
呆れ顔でマイクは言った。
「ただ僕は、パレ・サルガッソーで出くわした海賊と君が、同じ制服を着ているからそう言ったまででね」
なるほどこの少年の着ている制服は、あのパレ・サルガッソーのH中佐だか大佐だか知らんが、そいつらの着ていたそれと同じだ。他の者たちは自由な服装だけれど。
「あ~……あれは……」
少し口篭っていたが、少年は意を決したかのように口火を切った。
「いいか? 誰にも言うなよ?」
「事と次第によるね」
「それはな、アラハン反乱軍なんだよ、実は。
いや言うな。お前の言いたいことは十分わかる。確かに俺も一般の船にまで手をかけるって言うのには反対だよ? だけど上層部の方で決めちまったことなんだしさ。しがない一兵士の悲しさだよな。どんなに嫌なことでもハイハイと聞かなくっちゃいけない……」
トルトニウム。アラハンの内乱。秘密兵器。アレキス政府。ヴェルドゥ。
この辺に鍵がありそうだな、とマイクは思った。
ふと気がつくとテントの周りが慌ただしくなったようだ。
人を呼ぶ声。大勢の人々が移動する靴音。通って行くモータージープ。ガチャガチャいう兵器。テントの中の男たちもソワソワしだした。
一人の男がテントの入り口から首を突っ込んで彼らに言った。
「おい、ボスのご命令だぜ。ターゲットが2キロアムル先まで来ているんだそうだ。餌を罠の上に持って行きな」
「餌ぁ?」
餌呼ばわりされて、少しマイクは腹を立てたらしい。
「チキンかポークかビーフかラムか」
「いや、マイクロフト・モーリーだ」
男の目の合図があったのか、マイクの周りの男たちが集まってきた。少年は後ろに押しやられているようだ。
マイクは男達に腕をがっちりと掴まれると、テントの外へと連れ出されかける。しかし最後の悪あがきとでも言うべきか、足に力を入れずに立とうとしないことで抵抗のデモンストレーションをしているマイクである。
「てめえ! 立たねえか!」
「やだね。車で揺られ揺られて2アワーズ。でこぼこ道だから眠れやしなかった。ちょっと休ませてくれてもいいんじゃないかい? エサは活きの良さが命だろう?」
「10ミニッツ待ちな」
入り口の男は入ってきながらそう言うと、マイクにレーザーライフルを向けた。
「たっぷり休ませてやる。永遠にな」
「……ふーん」
明らかに顔に不快の色を示すマイクだったが、ライフルには勝てなかったらしい。立ってから周りの人々に言ってのける彼だった。
「ホント、10ミニッツ後が楽しみだ。……で、足の紐を解いてくれません?」




