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危機から逃げ出せ8

「大佐! 何をするんですか!」


 思わずロビンソンは叫んだ。ワルキューレ号の司令室である。


「正気なんですか! 相手は友軍なんですよ!」


 大佐にかけ寄ろうとするロビンソンを他の荒くれ男たちが羽交い締めにする。それでもロビンソンは叫ぶ。


「大佐!」

「……それがどうした」


 V大佐の重い口からこぼれた言葉が、一瞬ロビンソンを静かにさせた。

 指令室大スクリーンに映っているのはワルキューレ号のイニオン砲の射撃によって苦しんでいる戦艦……H中佐の乗艦である。


「まだか」


 ヴェルドゥはとなりの片目の男に尋ねた。


「まだで」

「続けろ」

「へい」


 ヴェルドゥはスクリーンの戦艦を睨んでいた。いや、戦艦を通して別の何かを見てるのだ。それは何だ。


「ボ……V大佐」

「ボスでいい」


 不敵な顔でちらりとロビンソンを見ながら、ヴェルドゥはオペレーターに答えた。


「なんだ」

「敵から戦闘機が発進しやした。こちらからも出しやすかい?」

「……放っておけ。どれだけ集まろうと沈みはせん。攻撃に集中しろ」

「へい」


 このやりとりの間ロビンソンは大佐の顔を睨みつけていたが、絞り出すような声で言った。


「……分かりましたよ、大佐。つまりあなたは、反乱軍に反旗を翻すつもりなんですね」

「何を言っている」


 ロビンソンの台詞を鼻で笑って、ヴェルドゥは言った。


「今の俺と奴らとには何の関わり合いもない。俺は奴らに雇われた。その契約を奴らは破った。すでに俺はV大佐などではない。海賊ヴェルドゥだ」


 ロビンソンは大佐が、いや、ヴェルドゥが何を言っているかよくわからなかった。ただ彼にわかっていたのは、自分を含めた大きな運命の歯車がゆっくりとではあるが確実に回っているということだった。


「ボス!」


 部下に呼ばれてヴェルドゥは何の気もなしにスクリーンの光景を見た。

 H中佐の乗艦の一部より爆発が起こったかと思うと、そこから一つの宇宙船が飛び出してきたのだ。

 白い、白銀の船体をヴェルドゥは覚えている。たとえあれから20年近くが経っていても。


「奴 ら だ」


 その一言には何が込められていたのだろう。喜び? 怒り? 悲しみ?


「他の奴らを相手にするな。オレ達の相手はヘルメス号だけだ」

「へい」


 海賊ヴェルディに対して「しかし」は許されない。それを部下たちは知っている。

 今すぐ方向転換をし、追えば追いつくと踏んだのだろう。攻撃を中止し、ヘルメス号へと向かった。

 その時、部下の一人が言った。


「ボス! さっきのやつらが俺たちに向かって全砲門を向けてますぜ! 後ろから打つ気なんじゃねーですかい!」

「しつこい奴らだ」


 舌打ちするとヴェルドゥは指令を下した。


「方向転換。スーパーユニオン砲用意。一気にカタをつける」


 ワルキュール号が大きくカーブを描きながら方向転換をし、艦隊に対して正面を向いたかと思ったその時。

 宇宙は白い色で塗りつぶされた。

 影が次々と消えてゆく。影一つにつき何人がいるのだろう。

 元の宇宙に戻った時、ワルキュール号の前に戦隊はいなかった。


「片付いた。ヘルメス号は捕捉してあるな?」


 ヴェルドゥの声が司令室に響く。しかし誰も答えない。


 ……一体、誰がボスの怒りを買うと分かりきった返事を言えると言うのだろう。



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