攻撃5
宇宙船ワルキュール号はロビンソンにはただの小型の商船に見えた。
しかし、その考えはV大佐と一緒に乗り込んでみて一掃された。
商船にスーパーイニオン砲があるか? 対宙ミサイルがあるか? レーザー撹乱装置防止システムのついたレーダーがあるかぁ?
これはもう、ちょっとした軍艦である。しかしロビンソンの知る範囲内ではこんな船は反乱軍にはなかったはずだ。
はずというのは、自分は反乱軍全部の船を知ってるわけではないし、秘密裏に作られたものかもしれないのだから。しかし乗組員中で反乱軍の制服を着てるのはV大佐とロビンソンだけだった。もしかしたら反乱軍ではないのかもしれない。
ロビンソンは大佐が彼らを「知り合い」と言っていたことを思い出した。
とすると、これは大佐のコネか何かで手に入れた船かもしれない。こんな船をコネで手に入れられるとは、いったいV大佐とは何者なんだ。
「ここがお前の座席だ」
さっきいた若い男が、指令室の片隅の席へロビンソンを案内した。
「いえ、小官は大佐の一従卒に過ぎませんので、大佐の後ろに立たせておいてくだされば結構です」
「ほう、そうかい」
若い男の声に笑いの他に何か隠れているような気がしたロビンソンだったが、気にも留めないうちに男は言葉を続けた。
「坊主。いいか? 俺たちは14日前に出発したヘルメス号を追わなきゃならんのだぜ。やつらと同じく1ヶ月もかけて、ちんたらちんたらと歩いてるわけにはいかねえ。
奴らに一週間で追いつく。体にかかるGは7から8Gぐらいあるだろう。……まあ、坊主が標本みたいに壁にへばりついていたきゃいいんだがな」
「い、いえいえ、結構です。喜んで座らさせていただきます」
周りの爆笑に恥ずかしい思いをしながら、内心彼は舌を巻いた。
14日前の船に7日で追いつく? そんなスピードで船が動いたら、中の人間は7、8Gなんてもんじゃとてもすまない。それが7、8Gで済むというのだから。改めてこの船に感心してるうちに、若い男から坊主呼ばわりされていたことをすっかり忘れてしまった。
それから一週間はハードな毎日だった。
朝起きて1アワーズ30ミニッツ高速で飛び、機械や体の調子もあるので10ミニッツ休憩、それからまた1アワーズ20ミニッツ飛ぶと、1アワーズ朝昼兼用の食事、それからまた1アワーズ30ミニッツ飛んで10ミニッツ休み。1アワーズ 20ミニッツ飛んで1アワーズ夕食、そして3アワーズ寝るとすぐにまた超高速で飛ぶ。
他の人は慣れてるんだろうか。どうしてあんなにぴんしゃんしていられるんだろう。ロビンソンの場合超高速に入るたびに気絶してるので、他の人間が化け物に見えた。
それだとしたら、その合間を縫って部下たちと計画を立てていたV大佐などは、その親玉だろう。
「狼が」
次の一回の超高速飛行によってパレ・サルガッソーにいるヘルメス号に追いつくという時、V大佐、元海賊のヴェルドゥは旧部下たちの中の主だったもの達を集めて話し合っていた。ワルキューレ号の会議室である。
「海の近くで狐の待ち伏せを食らう」
ヴェルドゥの手が宇宙図の上をすっと滑り、一点をさして止まる。取り巻く部下たちにはそこがパレ・サルガッソーであることがわかる。
「接触が船内時間で7:35。狼が狐をむさぼり食うのに1アワーズとかからん。そこへ虎がやってくる」
周りの部下たちが含み笑いをする
「戦場は多分海の中になるだろう。その用意は」
「へぇ。ボスに言われた通り、みっちり部下たちに仕込んでありやす。手動装置に切り替わっても戦闘に支障はありません」
「ヘルメス号のことだが」
ヴェルドゥが言う。
「できれば無傷で手に入れろ」
「そんな無茶な」
思わず部下の一人が叫んだ。
「それがだめなら」
その男を横目で睨んだヴェルドゥが言った。
「再生不可能なまでに叩き潰せ」
一瞬、会議室が沈黙に閉ざされた。
この中でヘルメス号を知らない者はいない。あらためてあの船がどういう船で行ったかを思い出したのだ。
急ぎ気味のノックがあり、それに続いて入ってきた男は、とても良い知らせを持ってきたとは見えなかった。
「ボス」
「……」
「今、偵察機が戻ってきたのですが……」
「……なんだ」
「へい。ヘルメス号がH中佐の隊に捕まったそうで……」
一瞬、彼は自分の身の上に何が起こったのかわからなかった。が、二瞬後彼は自分のボスに壁に叩きつけられた後、襟首を掴まれ宙吊りにされた自分を見出した。
「う……くる……くるし……」
「……え? なんだと……?」
ヴェルドゥのゆっくりと地の底から響くような低い声だけが部屋に響く。
「何と言った?いいか? ゆっくり思い出せ……。一字一句正確にな……」
そういう間にもヴェルドゥの腕に力がこもっていく。とても話せるものではない。
「……ボス」
見るに見かねて、部下の一人が助け船を出した。
「そいつは、奴らがH中佐に捕まったと言ったんで」
ボスは振り返った。
振り返ったヴェルドゥの眼光にはすさまじいものがあった。それが何かは分からない。しかし少なくともおせっかいな部下の口を閉ざすだけの効力は持っていた。
ゆっくりヴェルドゥの両手から力が抜けていった。男がボスの腕の呪縛から解放され床に沈み込んだ。男は失神していた。
それを確認すると同時に、沈黙の呪縛が解けた……ヴェルドゥを除いては。
「おい、タンカだタンカ!」
「誰か医者を医務室から引きずり出してこい!」
「首の骨が折れてるんじゃねーか?」
「おい! しっかりしろ、聞こえるか!?」
この周りの喧騒とは裏腹に、未だ沈黙の呪縛から逃れられないヴェルドゥの心の中もまた、絶叫に満ちていた。
嘘だ嘘だ嘘だ! やつは狼ではなく、狐に劣る野ネズミだったのか!? 俺は、それを、狼と思っていただけだったのか!? ならば、それを狼と思っていた俺は、何だ!!
今あらためて、ヴェルドゥの心の中を暗黒の炎が燃え盛っていた……。




