50、鋼の精神力
……なんでテストをリングで受けなきゃならんのだ、と。
私は人工的に作られた大きな池に浮かべられたリングを見て、げんなりする。
正確には、観客席からばっちり見える、リングの上にあるテーブルと紙に、げんなりした。
……会場は、水族館でのイルカショーをやるような所をイメージしてほしい。それが大きな規模で、プールの上にはまぁまぁ大きなリングがあると考えてもらいたい。
なんで戦う場所でテストを受けるんだ?
ペーパーテストっていうのは、静かな部屋でカリカリやるからペーパーテストでしょ!?
なんでワーワー歓声がうるさいリングで、しかも太陽(なのだろうか?)ジリジリ照らされながら、テストを受けなければならないんだ?
『それでは、選手の入場です!』
少し高いバルコニーにいた実況者らしきお姉さんが言うと、歓声が更にワッ! と強まる。
観客席を見上げると、そこには凄い数の観客。やはりここはどう考えてもテストを受ける場所ではない。テスト観客に環境を見られるテストなんて
『選手の皆様は、それぞれ事前に配った番号札と同じ番号が書かれている机に座ってください!』
ぞろぞろと番号札を見ながら、リング上で席を探す屈強な男達。なんだこれ。
『ペンは机の上にあります。各々で持ってきたペンを使うのも自由ですが、筆箱はきちんと机の中にしまってください。問題用紙は合図があるまで開かないでください』
受験生か!
心の中でツッコむと、レンも同じようなことを思ったのか、肩を震わせて笑っていた。
『もちろん、不正行為は禁止します。行為自体はもちろん、不正と疑われるような行動を取った選手は、即退場となりますので、お気をつけ下さい。証人は観客の皆様です!!』
うおおおぉぉ、と観客が沸き立つ。
気合入ってるなぁ。
ぞんなに気合入れなくても、こんな見られてる中でカンニングする奴なんていないから、大丈夫でしょ。
というか、カンニングやったらそいつが勇者だ。レンは勇者を代わって貰えばいいと思う。
『それでは、
____始め!』
実況のお姉さんの合図で、ババっ!と紙をめくる音がリングに響いた。もちろん、さっきまで騒いでいた観客は静まり返り、じっと私達の方を見ている。その証拠に、やたらと視線を感じる。
集中できるかっ、こんなの!
眉を寄せながら羽ペンを持ち、私も問題用紙をめくる。問題用紙と解答用紙が別れてるなんて、ほんとに模擬テストみたいだな。
そんなことを思いながら、問題を見ると。
《数多の人間の国が統一され、聖ミスリル統一王国となるまでの歴史を、歴史上の事件を踏まえ、その経済効果などを記しながら、解答用紙に示しなさい》
それだけ、書いてあった。
即座に無表情になった私は、解答用紙を見る。
そこに書かれていたのは、どでかい四角の欄。それが一つ。
……私はゆっくり深呼吸した。
待て待て待て。まさか、問題がこれ一問しかないってことはないよねぇ?
いや落ち着くのよ愛美。
どうしてペーパーテストすべてが記述式問題なんだ。そんなはずはない。
と、私はもう一度問題用紙を見直してみる。
結果は変わらなかった。
「…………」
落ち着いても駄目だったか……。
私は羽ペンを一度机に置くと、ふうーっと息をつく。そして心の中で叫んだ。
わ か る か !
ふざけんな、私はこの世界に来てからまだ5日しか経ってないんだぞ!!
羽ペンを真っ二つに折って、前の席で鎧を着こみながらも必死にペンを動かしている騎士に、それをぶん投げたい。それができないのが残念。
傷害事件を起こして、目立って、地図が手に入れられないのはともかく、次期魔王だとばれて殺されるのは御免だ。
ここは仕方ない、鋼の精神力で我慢しよう。




