48、王子馬鹿疑惑
私が聞くと、レンははぁ、と深くため息をついた。なんだそのため息。どういう意味だ。
「権力分立はわかるよな?」
「そりゃ、もちろん。これでも高1ですから」
権力の分立ってたしか、国家権力を抑制することで、国政の均衡を保ち、国民の権利を守るシステム、のようなものだったよね。
平たく言えば、国家権力をいくつかに分けて各々を異なる独立の機関に担当させて、権力の集中・濫用を防止するということ……のはず。
日本では、司法・立法・行政。つまり裁判所、内閣、そして国会。それぞれが権力を分け合うことで、国民の自由が保障されやすくなる……、
「それがどうかしたの?」
「俺たちの国もその権力分立の理念に似た形態を保ってて。少し日本とは違うけど、その分けられた機関を担うのが教会、統一王府議会、裁判所なんだ」
なるほど。
でもやっぱりわからない。
「……それでなんで、地図を無条件で譲ってもらえないことになるの?」
「聖剣や始祖の時代に深くかかわるものを手に入れた場合に限って、その情報はその機関のものになることになるんだ。下手に干渉はできない」「そこが日本とは少し違うんだね……」
始祖の時代や聖剣の情報を独占できたら、そのせいで権力がその機関に集中してしまうことになりそうだけど。
……始祖の時代や聖剣の情報って、そこまで秘匿されるべきものなのかな。それも国中に知られたらかなりマズイ、ってくらいに。
おそらく真の歴史は、きっと。
影夜国に流通しているものとも、聖ミスリル統一王国に流通しているものとも違うんだ。
「ただ、聖剣や始祖の時代の歴史に関する情報は滅多にないし、聖剣を使うのは、魔王を倒す時だけ。だから普通なら、もし裁判所や教会が情報を手に入れたのだとしても、実際に聖剣を扱える可能性のある勇者側の機関……つまり統一王府に譲渡されるだろうな」
「……そうなんだ……」
でもなんで、今回教会はわざわざ地図と石板を闘技場の試合の賞品にしたんだろう?
歴史を秘匿したいなら、闘技場の試合の賞品にすることとは矛盾する。
それをレンに聞くと、意外にもあっさり答えが返ってきた。
「真の始祖の時代の歴史の秘匿、か……。それが、情報を王府に譲渡しない理由と、闘技場の賞品にした理由にするなら、石板か地図が、神聖文字で書かれていた可能性が高いな」
「!!」
なるほど。
歴史を隠したいけど、神聖文字は王族以外の人間には読めないから、別に賞品にしても問題ないんだ!
「それに試合の賞品にした理由なら、また他に考えられる。勇者があっさり敵に捕まったから、多分、国民の王族に対する信頼は落ちてる。教会が、闘技場の試合で優勝した強い者に、聖剣の情報を託したいという気持ちもわからなくもない」
レン……それ、めちゃくちゃ自虐ネタ……。
哀れだな、と思いながら私は唇を歪める。
すると、レンはまたさらりと言った。
「教会か王府に情報を渡したくないなら、きっと騎士団のやつらが優勝するのは難しい」
「だろうね。騎士団は王族お抱えだもん」
「でも、俺たちはどうやってもその情報が必要だ」
「うん……ん?」
嫌な予感がして、私は思わずレンの顔を覗き込んでしまった。
「闘技場の試合に出るぞ」
……ちょっと前から思ってたんだけどさ。
この子馬鹿なの?
「ねぇ、あんなにバレたくないって騒いでたのはどこの誰だっけ。それとも私をまた使って、命をかけさせようっていう魂胆なのかな?
それならそれで、今この場で魔王VS勇者の最終対決演じてもいいんだけど」
「いや、俺も出る」
「やっぱりレンってバカだよね??」
私もよく美咲先輩に、「頭のネジ緩んでるわよね」と言われたことがあるけど、レンは最早頭のネジがぶっ飛んでるよね。私なんかメじゃない変人だよね。……それとも王子ってみんなこうなのかな。
「変人でもバカでもない」
しかし美貌の王子サマは動じない。
「目的のためなら、いくらでも打てる手は打っておく。……念には念を、だ」




