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14才の萌  作者: らう゛ぃ
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3-5 港の船

 そのとき、階下からざわめきと共に数人が上ってきた。今まで騒いでいた反動もあり、四人は急におし黙る。

 微妙な空気の中、黙々とハンバーガーを片付けていく。たった今来たのは、大学生ぐらいの女性四人組だった。賑やかさを全て向こうに取られたかのように、萌達の一角は異様な静寂に包まれる。さっきまでの騒々しさが嘘のようだ。


「萌……」


 ラヴィが恐る恐るといった様子で口を開いた。


「茶化して済まなかった。本当に申し訳ない」


 妙にしんみりしてしまった。萌は頭を振ると、意気消沈したラヴィの肩を優しく叩いた。


「まぁ、食べようよ」

「――ありがとう。ごめんなさい」

「大丈夫、気にしてないよ」

「はぁ~、甘いですなぁ、萌御大(おんたい)は。俺はそれほど優しかねえぞ?」

「いいじゃないの、別に。それでこそ岩崎君よ」


 四人は食事を再開した。 


「ところで、先ほど言っていた必殺技についてだがな」


 飲み物と食べ物を両手にしたスタイルで、ラヴィがぽつぽつと喋り始めた。


「コーチ剣を出現させた状態で『アシズリムロト・スラッシュ』と叫んで一閃すれば、どんな敵だろうが一撃必殺だ」

「そりゃ強ぇな。格ゲーだと真っ先に修正食らう技だぜ」

「元ネタは、足摺岬と室戸岬だね」


 萌はバーガーをぱくつきながら、ふと、ラヴィの食事スピードの異様さに気が付いた。


「あのさぁ、ラヴィ。それ何個目?」

「ん、三個目だが」

「速っ!」


 見ると、確かに包み紙が二つ転がっている。ラヴィは一見ゆっくりと食事しているようだが、一口が大きいため、結果としてハンバーガーの処理速度が半端無く速いのだ。


「お前なあ」


 俊平が呆れ気味に言った。


「よくそんなに食えるな」

「おなごの神秘というやつだな。美味しいものは別腹」

「そうよ。そして、オスカルと言ったらベルばら。古典にして不朽の名作ね」

「かなり強引に絡めたね、伊藤さん」

「そりゃあもう、普及の為ですもの」

「姉御……。俺達ゃもう、コテンコテンですぜ」


 結局ラヴィは、ハンバーガーだけで四個を腹に収めた。無論、他の面子もちゃんと食事を摂って満腹になっている。


「んむ、何だかトレイの上が寂しくなったな」


 食べ終わったあとのテーブルを見て、ラヴィがぽつりと呟いた。


「なあ、財布」

「せめて名前で呼べよ」

「じゃあ、ヴィトン」

「そっちじゃねえよ!」


 俊平が怒鳴った。


「ったく、しっかりチェック入れやがって」

「出来る女じゃろ?」

「なら、我慢も出来るよな?」

「それは無理」

「……」


 俊平の唇が醜く歪んだ。ちえりは頬杖をつき、ニヤニヤしながら二人のやりとりを見守っている。

 ラヴィは俊平を上目遣いで見た。


「なあ俊平、ハンバーガーをもう一個処理したら、完全回復できると思うんだ」

「そうかそうか、行くぞ」

「飲み物とセットで処理すると、お得感は倍増だ」

「俺が払うんだもんな。そりゃ倍増だろうよ」


 俊平はラヴィを指差した。


「俺達はな、お前にメシ食わすために来てるわけじゃねえんだぞ」

「んむ、もちろん萌のピンチを助けるためだ。大丈夫、分かっとるぞ」


 ラヴィは立ち上がって、俊平の腕を両手で掴んだ。


「というわけで、ベストコンディションで戦うために栄養補給だ。行くぞ」

「へいへい」


 ここで言い争っても時間の無駄と思ったのだろう、俊平はラヴィに大人しく連行されていった。

 ちえりは苦笑した。


「弱いわねぇ、百万石は」

「うーん」

「ちょっと相手が可愛いと、すーぐデレデレしちゃって。女で大失敗するタイプね」


 否定材料が見つからず、萌は失笑した。


「じゃ、今のうちに、ちょっとお手洗いに行くわね」

「分かった」


 萌は一人ぽつんと残された。急に静かになると、周囲の音が賑やかに感じられる。席も埋まってきたようだ。

 萌は、起きてから今までのことをざっと振り返ってみた。

 ――こけしを見つけて手から離れなくて、爆弾騒ぎになって、女の子が空から降ってきて、輪入道かと思ったら狐で、少女かと思ったら狸で……。って、おいおい。荒唐無稽にも程があるよ……。

 感傷に浸っている萌の元に、俊平とラヴィが戻ってきた。


「あれ、萌。ちえりの奴はトイレか」

「うん」

「そっか、じゃあ丁度いいぜ」


 ラヴィが追加のハンバーガーを退治している間、俊平は携帯を取り出すと、慣れた手つきで操作し始めた。ストラップには、糸魚川に行った時に買ったという翡翠が付いている。


「うぁー……、下がってやがる。損切りライン突き抜けちまったよ」


 画面を見ずとも、俊平が何をやっているのか分かった。


「やっぱり駄目だな、張り付いて見ないと。流れがさっぱりだ」

「ごめん、俊平」

「え?」


 俊平はきょとんとした顔で萌を見た。


「いやいや、別に萌が謝る事じゃねえよ。出発前に手仕舞いすりゃ良かっただけだからな。俺に未練があっただけさ」


 椅子に深く座り直した俊平は、深々と溜め息をついた。


「しっかし、難しいよなぁ。自信満々にエントリーしても、あっさり思惑とは逆に動いて損切りだしな。次こそはって意気込んでも、やっぱり駄目で損切りって事はザラだ。しかしそうなると、なまじ自信があっただけに、三回目はかなり臆病になる。何をやっても駄目になるんじゃないか、それなら行かない方がいいんじゃないか……」


 俊平は頭を掻きむしった。


「んで、エントリーに躊躇しちまうんだなぁ。そしたらよぉ、そういうのばっかり想定通りの絶妙な動きになるわけだ。そうなるともうグダグダさ。何で行かなかったんだって猛烈に自分を責めた挙げ句、ますます臆病になっちまう……」

「俊平……」


 俊平は携帯を仕舞った。大きく息を吐いたのち、窓の外を見つめて目を細める。


「『船は港にいる時、最も安全であるが、それは船が作られた目的ではない』」

「え?」


 萌が聞き返すと、俊平は照れ臭そうに笑った。


「株で気持ちが挫けそうになったとき、俺がいつも自分に言い聞かせてる格言さ。パウロ・コエーリョって作家のな。――行くべき時に迷わず行く。そういう奴になりたいぜ」


 そう呟く俊平の顔は、とても年下には見えないほど大人びたものだった。


「なるほどのぉ」


 すでにラヴィは食べ終え、ハンバーガーの包みを折り畳んでいた。


「思ったよりも考えとるんじゃな、俊平」

「当然だろ。どこかのお気楽な幽霊と違って、とかくこの世は銭がモノを言うからな」


 皮肉な笑みを浮かべつつ、親指と人差し指で円を作る俊平に、さっきの面影はすでに無かった。


「ふぅ、お待たせ」


 ちえりが戻ってきた。


「……って、ラヴィってばもう食べたの?」

「んむ、恐怖に見事打ち克ったぞ」

「それじゃあ、行きましょうか」

「あ、待った」


 俊平が手を挙げた。


「俺トイレ」

「早く行きなさいよ」

「誰かさんが出るのを待ってたんだよ。――おっと、ちえり」

「何?」


 俊平は立ち上がると、ちえりの耳元でこっそりと呟いた。


「大きい方だった? 臭い?」

「――あんた、今日死ぬわ」


 俊平は大笑いしながらトイレに行った。

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