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4話 勇者、洞窟の外に出る

 

 外に出ると、ここは戦場かと見間違うほどの有様だった。遠くには兵士らしき集団が血を流して倒れているのが見え、そこら中に何かの破片が散らばっていた。また、周りを覆う壁には所々に大穴が空いている。


 ……ん? まてよ? なぜ壁に囲まれているんだ? そもそも俺はどこかの峡谷の横穴に入り込んだはずだ。何故こんな空間にいるんだ?

 それに、遠くには薄っすらと扉のようなものも見える。一体ここはどこなんだ?


 まさか、俺は拉致されたのか? 思えば、それほど走った感じはなかったのに、いつの間にか峡谷にいたっけか。それに、魔王戦の後で魔力もそれほど回復しておらず、俺の魔力に依存している加護の力も完全なものではなかったはずだ。何か強い幻覚でも見せられていたのかも知れない。


 後ろにいる二人も、見た所お貴族様のようだしな。勇者の存在をよく思わない貴族がどの国にもいることはわかっている。反勇者派と呼ばれているが、そのメンバーだとするとある程度納得できる部分もある。あの茶番劇も俺の油断を誘って情報を引き出そうとしたのかも?

 女の方は、少々不器用ではあったが俺を誘っている風だった。男の方は、きっと従者役なのであろう、俺に露骨に嫌悪感を示していたから、女が俺をかばうという図式を立てていたと考えると、辻褄があうのではないか?


 幸い、あの聖剣は離れていても呼び寄せることができる。いざとなったら、脱出する方法はあるからな。ここは慌てず冷静に対処すべきだ。なに、魔王と比べたら、こんな奴ら怖くもなんともないさ。


「救援はまだのようですね」


 救援? 予め仲間を呼び寄せていたのか?

 後ろの二人がなにやら話をしている。


「ええ、離脱魔法は1日一度だけ。こちらに来るには、敵の強さも相まって歩いてくる方法がありませんからな。空はワイバーンやドラゴンがうじゃうじゃいましたから、ここにくるにも一苦労でしょう」


 離脱魔法? なんだそりゃ?


「こんなことなら、ポーションを用意しておくべきでしたね」


「いや、ポーションは高いですから。この人数を回復させるには、到底予算が足りませぬ。魔力の回復を待って、魔術を行使した方が色々と楽でしょう」


 ポーションが高い? そりゃ、駆け出し冒険者等の貧乏人からしたら高いとは言えるけど、こんなお貴族様が愚痴をこぼすほどの代物ではないはずだ。

 何かのアピールなのか? それとも暗号?


 俺は、相手の情報をもっと得るために、後ろを向いて話しかけようとしたのだが。



「な、なんだ、これは?」



「サバト様?」


「なに、どうしたのだ?」


 二人が俺の様子を見て話しかけてくるが、目の前の光景に釘付けになる。


 俺は、洞窟の中にいたと思ったら、変な建物の中にいました。


 ……意味がわからん。やっぱり拉致されたのか?

 いや、それよりも、この建物。見たことのない材質で出来ているようだし、何より綺麗すぎる(・・・・・・)。金属なのか、それとも違う材質なのか、真っ白に輝いている。いや、正確には、汚れやムラが一つもないため、輝いているようにみえるのだが。そして真四角だ。


「……その反応を見るに、ご自分で入られたのではないのですね?」


 殿下、ことシャルロッテが話しかけてきた。


「……少なくとも俺は、洞窟、というか横穴に入ったはずだ。こんな奇怪な建物は知らん」


「なるほど」


「それに、周りの兵士はなんだ? そちらも気になって仕方がないのだが。後、この岩のようなもの。こんな材質は見たことがないぞ?」


 俺は、近くに散らばっていた何かの破片を拾い見せつけた。


「それは……わかりません」


「わからない?」


 どういうことだ? もしかしてこいつらも、ここに来たのは初めてなのか?

 いや、このやり取りだけで判断するのは早計だ。


「はい。この者たちは、この建物を覆っていた外壁が爆発して怪我をしたのです」


「ば、爆発ぅ!?」


「はい。正確に言いますと、弾けた、といった所でしょうか。初めはタイルのように建物に張り付いていたのですが、宙に浮いたかと思うと、高速で回転し始め、轟音とともに弾け飛んだのです。見たことのないスピードでしたので、撃ち落とすこともできず防御魔法で防ぐので精一杯でした」


 タイルってあれか、お貴族様が浸かるという風呂の床に敷かれているやつか。風呂に入ったことはないが、見たことは何度かある。風呂があるかないかで、貴族としてのステータス()が決まるとかなんとかで、勇者として貴族邸を表敬訪問した際は、よく案内されたものだ。


 思考がそれてしまった。ええとつまり、この建物の周りに、そのタイル状に壁が付いていて、それが宙に浮いたかと思えばいきなり弾け飛んだと。


 なるほど、わからん。


「ううん、にわかには信じがたいが、実際に人が倒れているしなあ……そういや、防御魔法を使ったんだったな? 回復魔法は使えないのか?」


「いえ、使えますが、まだ魔力が……でも、一人二人くらいなら」


「へえ、折角だし使って見せてくれよ」


「え?」


「駄目か?」


「いえ……わかりました」


「殿下! 余計なことはせず、魔力を回復させることに専念した方が!」


 この男も中々飽きないな。演技かもしれないが、従者って奴は雇い主に楯突いてもいいのか? コウジョっていうのがどのくらい偉いのかはわからないが、見た感じそこそこ位は高そうなんだがな?


「いいえ、勇者様の御前なのです。私の力をご覧に入れましょう。これでも魔法は得意なのですよ?」


「へえ、だったらよろしく」


「……御意」


「こほん! 〜〜〜〜、ヒール!」


 詠唱だと!? 魔法が高いというのは嘘ではないようだ。




 魔法は何よりイメージが大切だ。そのため発動する方法は人によってまちまちだが、大抵は頭の中でその形や威力、距離、持続時間等を想像し発動する者が殆ど。それを呪文として言葉に載せられるのは、自らの中で発動方式が確立している奴だけだ。

 少しでも間違えれば発動しないし、同じ魔法でも人によって句が違う。魔法のイメージを言葉にする、人に伝えるというのは、頭が良くなれければできない事でもある。つまり、詠唱はエリートの証なのだ。


 詠唱は魔法の威力を底上げする。その分、集中力が必要だし、何より言葉にするというのは、その一字一句に魔力を込めなければならないため、頭の中で想像するよりも多くの魔力が必要だ。


 自惚れているわけではないが、俺も詠唱ができる。そういうわけで、ちょっと前に使ったエクスプロージョンも、俺の切り札の一つなのだ。


 ……バタバタしていて忘れていたけど、入り口を塞いでいた岩はどうなったのだろう?あの二人組が壊したのか? でも、どうやらここは部屋のようだし、岩が落ちてくる環境ではない。色々と矛盾しているのだが。



 シャルロッテが魔法を発動し、兵士の一人を光が包み込む。傷がだんだんと癒えていき、やがて元気な姿になった。


「……あれ?」


「ふふっ、どうですか、勇者様?」


「えっ? これで終わり?」


「えっ?」


「えっ?」


「なにそれ怖い……」


 一人だけ? 詠唱したのだから、もっと沢山の兵士を回復させるのかと思ったのだが。あいつ(サクラサク)のヒールはこんなもんじゃなかったぞ?


「えっと、今のがヒールなんだよな?」


「ええ、そうですよ?」


「本当に?」


「本当です」


 ……マジか。



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