3話 勇者、だらだらと話をする
視点がコロコロ変わりますが、文章から察していただけるとありがたいです。
勇者様!? あの伝説の勇者様!?
10000年、忌まわしき悪の大魔王ヤミネスを討ち滅ぼしたと言われている、あの勇者様!
いえいえ、待つのです。もしかしたらただホラを吹いているだけかも知れません。しかもこの男は、私のおっぱいをいきなり揉みしだいてきたのです。普通なら即座に打ち首です。
ですが、この建物らしきものは10000年もの間、開かずの扉の奥に封印されていた。その中にいたのですから、このサバトと名乗る男は十中八九言い伝えと関係があるに違いありません。
もしかしたら盗賊の類かもしれませんが、この部屋に入ってきたとしたら、おそらく私たちでは勝ち目はないでしょう。幸い、男がなんらかの魔法を使っているのか、洞窟の中は少し明るい。ある程度の視認性を確保できていることから、ある程度の状況判断はできるでしょう。ここは賭けに出るべきだと、私の聡明な頭脳がそう結論付けます。
ですが、まずは相手のことをきちんと確認しましょう。
そうです、どうせなら、カヨワイ女の子らしく振舞ってみましょう! この前読んだザッシには、男はブリッコ? とやらに弱いと聞いたことがありますからね。淑女の嗜みとして、皇女の教養として、その手の本も読むのです。交渉には、まず相手の警戒心を解くことが大切だと教わったこともありますからね。折角なのでここは試してみるべきでしょう。
「ゆ、勇者様〜〜!!」
「は、はい?」
私は、満面の笑みで男に近づきます。猫なで声も忘れずに。腕をカマキリののように上げ、蜘蛛のようにすり足で素早く近くのです。
……あれ? いえ、これであっているはずです。最近市井で流行りのレンアイマンガとやらには、こういう絵が載っていましたから。モンスターの真似をするのが可愛いなんて、最近の男の人は変わっていますよね。
「サバト様は、勇者様、なんですよね?」
「あ? ああ、そ、そうだが……」
サバトとやら……いえ、サバトは、なぜかびっくりした顔のまま固まってしまっています。どうしたのでしょう? こうしたら、男の人は間抜け面で答えてくれると書いてあったのですが。まさか、あのザッシとやら、民に嘘をばら撒いているのでしょうか? それならば、即座に問いたださなければなりません。第八皇女といえども、それくらいの権利はあるのです。
「殿下!」
我が従者、バーンアウトが慌てて近寄りますが、私は目で制します。
「ここがどこだか、おわかりですかにゃん?」
私は、再びサバトへと目を向け、語尾に必殺のにゃんをつけ問いかけます。男の人は、こういう動物の真似をしたら喜ぶと書いてありました。勿論、手を丸めることも忘れません。ついでに、首を少し傾けるところがポイントです。
「にゃん? ……お前、頭大丈夫か?」
「なあっ!?」
な、なんですかこの男は! 私が危険を省みずして近づいてきたというのに、それを無碍にするとは!
焼き殺しましょう、ええ焼き殺しましょう。
「貴様ぁ! もう許さん、ここで死ねっ!」
……はっ!
「ま、待つのです、バーン!」
ガチャリ。私は後方から聞こえてきた鎧のこすれる音と怒鳴り声を聞き、慌てて腕を横へ広げ、サバトを庇います。今ここで殺してしまっては、なんの意味もありません。骨折り損です。
それに、私の目で見た所、サバトは魔力の塊といっても過言ではない魔力を有しています。もし盗賊であった場合、戦いになったら死ぬのは間違いなく私とバーンの方でしょう。それもあって、先程から手を出させないようにしているのです。
「こほん、失礼いたしました。普通に話しますね?」
「はあ……お前らがなにをしたいのかよくわからん。だが、俺が勇者であることは事実だ。コウジョ? とやらはよくわからないが、その鎧のマントに護衛がいるところ、髪や肌が荒れていないところをみると、それなりの身分なんだろ? ということは、勇者のことは知っているはずなのだが」
サバトは、私の見た目から上流階級であることを察したようです。少なくとも馬鹿では無いでしょう。鎧にマントをつけるのは一部の人間だけが許されるという昔からの不文律。一定の知識もあるようです。
ですが、髪や肌は評価基準になるのでしょうか? 大昔ならいざ知らず、現代では一般市民もこれくらいが普通なのですが。
だんだんと期待が膨らみます。少しずつパーツが揃っていくパズルのような感覚です。
私は、横を向き、バーンに目で合図する。バーンも渋々だが了承したようだ。
「サバト様、一旦外に出ませんか?」
「外に? 別にいーけど、俺もそろそろ仲間のところに戻りたいしな」
「仲間?」
仲間、というと、もしかすると伝記に出てくる三人の従者のことでしょうか?
「ああ、喧嘩しちまったんだ。疲れていたからか、イライラしてしまって……って、見ず知らずの奴にこんなこといっても仕方ねえか。行こうぜ」
そういうと、サバトは腰掛けていた岩から立ち上がった。
「待て、その剣を渡せ」
「ああん?」
歩き出そうとしたサバトの前にバーンが立ちはだかり、自らの剣に手を掛けながら、サバトの腰にあるやたらと豪奢な鞘に納まった剣を指差した。
「念のためだ。外には我らの仲間がいる。不要な真似はよせ」
「勇者様も信用されてねーな。わかったよ、ほらっ」
サバトはカチャカチャと音を立て、鞘を外す。そしてバーンへと渡そうとした。が。
「待て、床におけ」
「はあ?」
「床に剣を置いて下がれ。これは勇者だろうがなんだろうが関係ない。護衛としての命令だ」
「バーン! 今更なにを! もしサバト様に殺す気があるのならば、とっくに二人とも殺されていますよ!」
幾ら魔力が見えないとはいえ、相手の力量も計れないとは、バーンらしくありませんね。先程からイライラし続けているようですし。
「ぐっ、しかし……」
「いいよいいよ、おけばいいんだろ。余計な言い争いはやめようぜ、殿下? さんよ」
「いいえ、シャルロッテで構いません。勇者様はどなたにも謙ることはないと聞いておりますので」
洞窟はそこまで明るくはない為よくはわかりませんが、今一度サバトの顔を見つめてみます。
なんと私好みの顔なのでしょう。キリッとした中にあどけなさが残っています。母性をくすぐるとはこのことか。私はすぐさま名前を呼び捨てすることを許可したのでした。隣でバーンがむっ、やら得体の知れない、やらぶつぶつと呟いているが、無視をする。この男は一度気に入らないとなかなか強情なのです。
本当はもっと明るくした状態で確認したいのですが、光を二つ出すのは、一見明るくなったように見えるが、影が多くなるので、こういう洞窟などでは悪手なのです。それをわかっているのか、バーンも出してはいない。ここにいてもことは進まないし、外にいる護衛達の様子もそろそろ気になってきたので、早く外に出たいのですが。
「ふん、分かればいいのだ」
バーンがサバトの剣を手に取ります、とすぐに私は、サバトの手を取って、外に向かって歩き出します。
「え、ちょっと、シャルロッテ、さん?」
「なにか?」
「手、手が!」
振り向くと、サバトの顔が赤くなっていました。うふふ。
「勇者様は、見かけによらずウブなのですわね」
「う、うるせーやい、魔王討伐で、恋愛なんてしてる暇なかったんだよ。それにあいつらが……」
「あいつら?」
先程述べていた仲間のことでしょうか? 喧嘩したといっていましたが、人間関係を結構引きずるタイプみたいてますね。
「いや、なんでもない、行こうぜ」
そういうと、サバトはさりげなく私の手を払い、さっさと歩き出してしまいました。少し残念です。
あれ? 私、さっきからなにを考えているんだろう? こんなことしている場合じゃないのに……変な私。




