第一話 追放
「お前を、このパーティーから追放する」
男はそう言った。
そのあと、しばらく誰も喋らなかった。
酒場の二階にある個室だった。
窓際に一人。
向かいに一人。
その隣に一人。
男は立っていた。
「……何だ?」
誰かが言った。
男はそちらを見る。
「何が」
「いや」
少し笑う。
「今、何て言った?」
男は答えようとした。
自分が何を言ったのかは覚えている。
お前を、このパーティーから追放する。
間違いない。
「追放するって」
「誰を?」
別の誰かが聞いた。
男は黙った。
部屋を見た。
人がいる。
自分もいる。
それだけだった。
「……いや」
男は椅子に座った。
「何だろうな」
「疲れてんじゃねえの」
「かもな」
それで済ませようとした。
テーブルの上に紙が一枚あった。
男はそれを裏返した。
自分の字だった。
《パーティー離脱について》
その下に、
《指示に従わないことが多い》
《単独行動が目立つ》
そして、
《一緒にいると》
そこで文章は途切れていた。
「何それ」
誰かが覗き込む。
「知らない」
「お前が書いたんだろ」
「俺の字だな」
「誰について?」
男は紙を見た。
分からなかった。
別の誰かが紙を取った。
「俺じゃねえぞ」
「分かってる」
「何で分かる」
男は顔を上げた。
「……分かるだろ」
少し笑い声がした。
誰が笑ったのか。
男は見なかった。
しばらくして。
「俺たち」
男が言った。
「何人だったっけ」
誰かが眉を寄せた。
「何だよ急に」
「いや」
男は部屋を見た。
椅子。
テーブル。
窓。
扉。
人。
「数えれば分かるだろ」
誰かが言った。
男は答えなかった。
数えようとした。
やめた。
「まあいい」
紙を二つに折る。
さらに折る。
捨てようとして。
やめた。
鞄に入れた。
「明日の依頼どうする?」
誰かが聞いた。
「北の廃鉱でいいんじゃない?」
「危険度低いやつ?」
「ああ」
「じゃあそれで」
話は変わった。
それからしばらく。
明日のことを話した。
集合時間。
持ち物。
報酬。
道順。
普通の話だった。
やがて。
一人が立った。
「じゃあ俺、先帰るわ」
「おう」
扉が開く。
閉まる。
少しして。
また一人立つ。
「私も」
「また明日」
扉。
閉まる。
そのあと。
男はしばらく座っていた。
向かいに誰かいる。
たぶん。
何か話した。
内容は覚えていない。
そのうち。
静かになった。
男は立ち上がった。
部屋を見る。
誰もいなかった。
そう思った。
鞄を持つ。
扉へ向かう。
手をかける。
そこで。
なぜか振り返った。
四人掛けのテーブル。
椅子。
紙はもうない。
何もない。
男は部屋を出た。
階段を下りる。
主人がカウンターにいた。
「お帰りですか」
「ああ」
「明日も早いんでしょう」
「たぶん」
「頑張ってください」
男は少し笑った。
「ありがとう」
店を出る。
夜だった。
しばらく歩いた。
途中で。
誰かと一緒に歩いている気がした。
隣を見る。
誰もいない。
男はそのまま歩いた。
宿へ着く。
部屋へ入る。
鞄を置く。
中から紙を出す。
《パーティー離脱について》
《指示に従わないことが多い》
《単独行動が目立つ》
《一緒にいると》
男は最後の一行を見た。
続きを書こうとした。
筆を取る。
《一緒にいると》
その下。
しばらく。
何も書けなかった。
やがて。
筆を置いた。
紙を裏返す。
白い。
男はその白い面を見た。
長い間。
それから。
小さく。
《楽しかった》
と書いた。
自分でも。
なぜそう書いたのか。
分からなかった。
男は紙を折った。
灯りを消した。
横になる。
目を閉じる。
明日は北門。
集合。
何時だったか。
誰が決めたか。
分からない。
でも。
行けば。
たぶん。
揃っている。
そう思った。
男は眠った。




