僕と君なら。
あれから、ずいぶんと時間が経った。
小春と一緒に、夏を越えて、秋を過ごして、今は、2年の3学期、冬の時期になった。
席替えで離れても、僕は必ず休み時間になると、小春の所へ行く。
「小春!返ってきた国語のテストは、どうだった?」
「別に…。」
「え、素っ気ない。僕は、84点だったよ。」
「…」
「93点じゃん!すごい!」
「勝手に見ないでよ!」
小春が声を大きくして、僕に言う。
「…ごめん。もう、二度としないよ。」
「でも、そんな怒る事じゃないのに。点数だって、小春の方が高いのに。」
小春が無言で席を立った。
「え、どこ行くの?」
「お手洗いに行くだけだから、着いてこないで。」
「…分かった。」
最近、僕と話す時、物憂げな表情を浮かべることが増えた。
もしかして、嫌われたのかな。
…
…
点数も問題ない。
身長が伸びたから、今は174cmはある。
全部、小春の理想に近いはずなのに。
どうしてだろう。
放課後。
「ねぇ、小春、一緒に帰ろ。」
「…今日はちょっと、用事があるから。先に帰って。」
「じゃあ、用事終わるまで待つよ〜。一緒にいたいからさ。」
「…そう。」
小春と職員室に行った。
簡単な用事だったらしく、すぐに小春と帰ることになった。
「用事終わったんだね。今日は、どっちの家に行く?だいたい、小春の家だけど、僕の家でもいいよ!」
「…ちょっと、来て。」
「ん?うん。いいよ。」
小春に着いて行った先は、僕たちの教室だった。
小春は、何も言わないまま教室で立ち尽くしている。
というより、何かを躊躇している感じがした。
「小春、どうしたの?僕にできることなら、何でもするよ?」
「…夕日はさ、」
「うん。」
「もっと、友達とかと話さないの?」
「ん?小春と一緒にいるのが一番楽しいから別にいいかな。」
「それって、私以外の人と仲良くしない。ってこと?」
「もちろん!僕は、一途な人間だからね。」
「ねぇ、夕日。」
「何?小春。」
「このままだと、私のせいで夕日の選択が減っちゃう気がするの。」
「それでもいいよ!将来は、小春のために時間もお金も使いたい。それに、体だって自由に使っていいよ?」
「…ダメだよ、それは。良くないよ。」
「え?どうして?」
「夕日には、もっと色んな事に目を向けて欲しいし、将来もちゃんと考えて欲しい。」
「将来?小春の旦那さんになることだけど?あ、まだ、理想の彼氏じゃないってことね!それなら、もっと頑張るよ!」
「パンッ!」
「…え?」
小春に頬を叩かれた。
でも、それよりも、
「小春!何で、泣いているの?」
「…」
「あ!泣くくらい辛い事があったんだね。
いいよ、この体、自由に使って。殴っても、蹴っても、首を絞めても。慣れているし、今はもっと頑丈だから!」
「…」
「少し距離を置きたい。」
小春はそう言い残して、教室から出て行った。
暖房のついていない、教室は酷く寒いのに、叩かれた頬だけがジンジンと熱を帯びていた。
久しぶりかな、独りで帰るのは。
僕の隣には、いつも小春がいた。
ねぇ、小春。
どうして?
僕には、小春がいないと生きていけないのに。
小春。
寒いよ。
…手、冷たいよ。
「ガチャ。」
玄関に着いて、ドアを開ける。
「あら、おかえり。夕日。」
「うん。ただいま、お母さん。」
「いつにもまして、今日は、元気そうね。」
「うん、毎日が充実しているからかな。」
「そうなのね。最近は、成績も上がったし、やっぱり離婚して正解だったね。」
「…うん。そうだね。僕、勉強してくる。」
「そう。頑張ってね。この成績ならいい所も狙えそうね。」
「うん。勉強、頑張るね。」
僕は、音を立てずに2階の自室まで行く。
…そっか、LINE。
小春とのトーク画面。
「え?」
アイコンは、アニメキャラの画像に変わっている。
…
…
「ねぇ、小春。今日のことは本当にごめん。許して欲しい。僕に、足りないこと、できることならなんでもする。勉強だって、運動だって、小春のためだと思えば、学年1位にだってなれる。だから、お願い、僕を必要として欲しい、僕と一緒にいて欲しい、僕を愛して欲しい。小春のためなら、時間もお金も体も全部提供する。だから、また、小春の温度が欲しい。寒いよ。冷たいよ。僕は、もう凍えて死んでしまいそうなんだ。もう一回でいいから、チャンスが欲しい。小春以外の人間なんか、どうでもいい。全部全部小春のために、尽くすから。もう一度、手を繋ぎたい。それで、手を握り潰したって、体が壊れたっていいんだ。今日、何が悪かったか教えて欲しい。小春だけを愛しているよ。」
…
…
…
既読ついた。
…
…
…
返事がない。
…
ねぇ、どうして返事してくれないの。
僕は、小春が愛してくれないと、
僕でいられないのに。
小春に必要とされることが存在意義なのに。
小春。
小春。
…瞼が、重い。
こ は る ……
お ね が い ぼ く と い し ょ に い て 。




