第8皇女
「シャール伯爵領の魔物暴走は、人為的に発生させられているものですわ」
淡いブルーの髪の娘はそう言った。
「シャール伯爵領からトゥレット山脈を挟んだ先にある共和国で造られている薬で、魔物の本能を刺激し、意図的に暴走を発生させるものです。
我が帝国に於いては、新兵の教育の為に良く利用していますわ」
生態系を大きく乱さない様に、薬師と皇帝の検閲の元に厳しい監視下で使用されるその秘薬は本来、簡単に手に入る様なシロモノでは無いのだと言った。
「では、手引きした者がいる、と?」
「シャール伯爵家は家系を辿れば勇者に行き着く血筋です。代々、曲がった事を嫌う性質を受け継いでいる、と聞きますわ」
娘は「ユディト子爵ですわ」と口にした。
「ユディト子爵は20年前にシャール伯爵領の魔物暴走の収束に尽力した、その時の栄光を忘れられないのですわ。伯爵家との繋がりを失いたくないあまりに、共和国の薬を極秘に入手したのでしょう」
数年おきに、怪しまれない程度の魔物暴走を発生させる。
ユディト子爵自ら先陣を切り、シャール伯爵領の魔物暴走を収束させる。
シャール伯爵は微かな不信を抱きながらもユディト子爵に深い恩義を抱き、一部流通品を融通していた。
「今回は、加減を誤りましたのね。魔物暴走にてシャール伯爵、ユディト子爵の両名が命を落とし、現場に混乱が起きている。その収束の為に国軍が動いたと聞いておりますわ」
15歳の若さで家督を継いだ両家の当主は、亡き先代子爵の不審な動きを洗い出し、真相を見出したと言う。
「子爵が欲したのは名声。結果として国の安寧を脅かす事となった」
遺体は魔物に喰われ、骨のひとつも残ってはいないが、責任は問うべきだろう、と娘は言った。
なあなあで終わらせるべきでは無い、と。
「感謝する、―――イザベル皇女殿下。確かに、示すべきものは示さねばならないな」
20歳前後の姿を見せているイザベルだが、現実のイザベルは
「いつまでも、何も知らぬ無垢な赤子でいて欲しい」
と言う両親の願いを受けた結果、漸く3歳を迎えた幼女の姿をしている。
見た目は幼女とはいえ、その精神は紛れもなく皇族に生まれた淑女そのものだ。
このまま、幼子の姿のまま、生涯を過ごさせるのは惜しい。
「私の弟の妻として、王国に来るつもりはないか?」
帝国と王国の恒久的な和平の象徴としての婚姻の証が望まれている事を、イザベルは勿論承知している。
「分かりましたわ、我が弟、帝国第12皇子マクシミリアンから父上に進言して貰えないか、脅、...頼んでみますわ」
イザベルの姿は霞の様に消え、代わりに私は朝日の訪れと共に目を覚ますのだった。
「...脅す、と言いかけてなかったか?」




