王弟の婚約者
今年で35となる王弟には、社交の場に出ない婚約者がいるらしい。
何処か影のある憂いを帯びた黒髪の王弟ジョンは若き日には浮いた話のひとつも無かった故に男色の噂も流れたものだが、真相は歳の離れた兄王が
「ジョンはまだ子供なのだから、婚約等まだ早い」
と宣い、兄王のお眼鏡に適う令嬢がなかなかに見付から無かったと言うものであり、2年前に漸く婚約者を迎えたと言う。
何処の令嬢か、と誰もが噂したが婚約者を迎えた後もジョンは婚約者を伴って社交の場に出る事は無く、
「溺愛するあまり、他の者の目に触れさせたくないのだろう」
と言う話に落ち着いた。
社交の場は、腹の探り合い。
せめて令嬢の名を、家名を、と話題となった。
ジョンの妻となる令嬢や、令嬢の実家と懇意となる事で王家との繋がりを強固にしたい、と言う思惑から誰もが「あの令嬢に違いない」「あの貴族に違いない」と噂した。
婚約式には姿を見せるだろう、と言われていたが、王家から式は身内だけで内密に執り行うとの正式声明が出され
「はたして、その令嬢は実在するのか?」
と言う疑惑を呼んだ。
影からの報告を耳にしながら、ジョンは膝で眠る幼女の頭を撫でた。
淡いブルーの髪をシニヨンに纏めているこの幼女、―――イザベル・アジャーニこそ、王国との和平の証に帝国から訪れた第8皇女であり、ジョンの婚約者である。
イザベルの母、現皇帝フィリップ16世の側妃のひとりジェーンは伝説とされる神竜の血を引くらしく、娘であるイザベルにはその血が色濃く現れた。
イザベルの実年齢はジョンと同い年であるが、神竜は長命であるが故に成長が著しく遅い。
恋をすれば成長速度は人のそれに近くなり、20歳前後の姿まで成長すると以降は成長しないと言う。
見た目はようやく3歳になったかと言うイザベルは肉体に引き摺られるのかそれは良く眠る娘である。
イザベルを社交の場に連れて行けばジョンに幼女趣味が立つ事を危惧した兄王含め王家一同の計らいで彼女の存在は筆頭公爵家であり、宰相を勤めるグレーヴス公爵にしか伝えられていない。
しかし、何時までも隠し通せる事でもない。
良い時期となればお披露目の場を設けなくてはならない。




