資格なき貴族たちの末路、そして新たな想い
そして。
完成した堤防と水路に、領民たちの歓声があがった。
「これで安心して仕事ができます!」
「領主様、本当にありがとうございます!」
領民たちがそう言うのに、ガレスは少々くすぐったく思った。
「いや、治水工事が遅れて申し訳なかった。順調にいけばもっと早く」
「何を言ってるんですか! 遅れた事情は知っております!」
「そうですよ。こうして工事は無事に済んだんですから、充分です!」
「そう言ってくれると救われるよ、ありがとう」
微笑んで礼を言うと、領民たちも同じく笑ってくれた。
さらさらと音をたてて流れる水路に、陽の光が反射している。その光景が眩しくて、そして嬉しくて、思わず目が細められた。
あの裁判の後、責任の擦り付け合いをしていた2人は、まずセレーネの生家であるブラックウッド家に泣きついた。
しかし既にガレスから報告を受けていたこと、さらに判決の内容を知らされていたセレーネの両親は激怒し、セレーネを除籍することを告げ、屋敷から文字通り叩き出したらしい。後から謝罪の言葉と共にその経緯が記された旨の手紙がブラックウッド伯爵から届き、両親と跡取りの兄はまともなのに、何故セレーネはあのように……としみじみ思ったのはここだけの話だ。
それならばブランシェ領から、と思ったが、裁判中に『領民の命を軽んじている』と捉えられる言動が領民たちへ明るみになり、『こんな領主が収める土地にいたくない』と大半が領地を去っていった。
付き合いのある家から借りようとしても、同じく裁判中の言動及び判決が響き『信用できない』と突っぱねられる始末。
そして期日の一か月は容赦なく経ち、ブランシェ家が有している屋敷や美術品などの保有財産は全て差し押さえられた。それでも金貨12万枚には足りなかったため、エリアスは爵位を返上し、その後の行方は不明。
そしてセレーネは、執拗に復縁の手紙を送って来ていたが、ガレスは目を通すことなく引き出しの奥底に突っ込んでいる。捨てないのは証拠保全のためだけに過ぎない。
ただ、その手紙も最近は届かなくなったため、セレーネの行方も分からなくなった。が、今のガレスにはどうでも良いことの一つとなっている。
それよりも今は。
「りょうしゅさま、おはなをどーぞ!」
まだ年端もいかない少女が笑顔で赤い花を差し出してくるのに、ガレスは微笑んでしゃがみこみ、目線を合わせた。
「ありがとう」
礼を言って受け取ると、少女は嬉しそうに笑ってくれた。
(この子が……領民たちが快適に、そして笑顔で過ごせる環境を整える)
それが領主として最も大切なことだと、ガレスはもう亡くなってしまった先代領主の父親から教わった。
(治水工事は一段落した。次は、道路整備と市場の開設を進めていこう)
予算は、支払われた賠償金をあてることにしよう。
(曰く付きの金は、さっさと使ってしまうに限るからな)
そんなことを思ってしまう自分にガレスは苦笑し、貰った花を大切に持ち直して、青い空を見上げた。
(終)




