ネオ・ナインボール
ネオナインボールではありませんが、普通のナインボールのルールは
https://ncode.syosetu.com/n4597ei/1/
こちらのURLを参考にしてください。
「それじゃあまずバンキングでブレイク権を決めます」
テーブルの上、私の前には1番、イツキさんの前には2番ボールが置かれている。このボールを正面の短クッションに向かってショットして、跳ね返ったボールが手前の短クッションンに近い位置に止まった方が勝ちになる。
まあジャンケンでもいいらしいけど『ナインボール』の予行練習って事で、正式な感じでやってみる。
結果はイツキさんの勝ち。
「いえ~い、じゃあ沙樹っちみたいに、いっちょスパーンとやっちゃうよ!」
「ラックの組み方はこんな感じで先頭のボールをフットスポットにセットして9番は真ん中、他のボールの場所は決まってないのでこんな感じに菱形になる様に・・・」
沙樹ちゃん先生が説明しながらラックシートと言うフィルムの上にボールを並べていく、9個のボールを並べ終えると、トランプのダイヤのマークみたいな形にラックが組みあがった。
今回はブレイクショットから自分達でやるって言う事で、やり方やそのためのブリッジなどの説明。
「まず左右どちらでもいいからブレイクゾーンのこの辺にボールを置いて・・ブリッジはレールブリッジ、こんな感じでココにキューを通して」
実際に沙樹ちゃんがやって見せてくれるのを、二人でまじかに見て真似してみる。
「後はあの先頭のボールに正面から当てれば大丈夫、ラックがちゃんと組めていればそんなに思いっ切りじゃなくてもちゃんと割れますから」
そんな感じの指導を受けて、ブレイクゾーンの左隅に手玉をセットしたイツキさんは、やる気満々でブレイクの態勢に入る。
素振りを何回かして「こんな感じ?」と沙樹ちゃんに確認、OKが出ると嬉しそうにラックに向かい「せーの!」って声が聞こえる様なスイングでブレイクショットを放った。
全身を使った体重移動で凄いブレイクを放つ沙樹ちゃん先生みたいにはいかない、それでも勢いよく先頭の1番ボールに手玉が当たると「パキャ―ン!」って音がしてキレイにボールが散らばった。
「ナイスブレイク!」
「いやー、流石に沙樹ちゃんみたいに『どっかーん』って感じにはいかないね」
イツキさんはそういうけど、ちゃんと入ってるし奇麗に割れてる、初めてでコレなら普通にすごいと思う。
コーナーポケットに3番がイン、そして「普通のナインボールでもそうですけど、ポケットが成功したら連続でプレイできますから、続けてイツキさんどうぞ」って事らしいので私はまだ待機。
イツキさんは「よーし、えっと~この4番とか簡単じゃん?」と言いながら4番をポケット、更にイツキさんの番。
「あれ、沙樹っち―?これって途中で9番入ったらどうなるの!?」
「もちろんその時点で9番を入れた人の勝ちですよ?」
「え、じゃあ9番狙った方が良いじゃん!!」
イツキさんは早速8番9番のコンビネーションショットを狙いに行くみたいだけど、その考え方ってあの「全く参考にならない漫画」と同じ理論で、実際のプロの試合は違うって言ってたしダメな考え方なんじゃ・・・
案の定8番は9番に当たる事すらなく、ようやく私に順番が回ってきた。
「うーん9番意外だと比較的簡単なのは・・・1番・・かな?」
ちょっと距離が有るけど、一番角度的に簡単そうに見える1番をコーナーに狙ったんだけど入らず、再びイツキさんのターン。
「ここから9番狙うにはぁ、あ、これ7番をこの辺のクッションに跳ね返らせれば、こう来て9番に当たって入るんじゃね??」
何か凄く都合のいいスーパーショットを宣言。7番に向けてショットするが、当然の様にかすりもせず「あー、やっぱコレダメかも。素直に入れてった方が楽しいかぁ・・・」って、まあ多分それが正解でしょう。
それから何度かお互いボールを入れ合って、テーブルの上のボールは手玉を除くと3球、1,5,9番となった。
そして順番は私、狙うのは1番。さっき沙樹ちゃんのレッスンで練習したのと似たような角度だ、違うのは手玉がクッションにピッタリとくっついていて物凄く撞き辛いという事。
「こういうボールを撞くときはレールの上か、人差し指と小指をレールに引っ掛けてオープンブリッジを組むといいですよ」
「こんな感じで」と実際沙樹ちゃんがやって見せてくれるのを真似してみるが、これがなかなか難しい。
それでも何とかやり方が分かったので、ショットの前にチョークをたっぷり塗る。またちょんまげとかしたら滅茶苦茶笑われそうだし。
まずイメージボールを考えて・・そこに向かって真っすぐ狙いを定めてっと。
さっきやった事を思い出してよく狙ったつもりだったが、1番はポケットすることが出来なかった、そう1番は。
1番がギリギリ外れて「あ~あ」と思った瞬間、9番がコーナーポケットに落ちていた。何を言ってるか分かんねーと思うが・・・じゃなくて。
単に1番に当たった後の手玉が9番に当たって偶然9番が入ってしまったって言う、ただそれだけなんですハイ。
「ええと、1-9のキャノンショットでタマさんの勝ちですね」
「えぇ~!?何それズルい!って言うかキャノンショットって何?なんか強そうなんだけど!!」
突然の負けにイツキさんが騒ぐ、今のは狙った訳じゃ無くホントに偶然だっただけどねー。
でも・・・「コンビネーションじゃないんだ??」
今みたいに何かに当てた後、別のボールを落とすのは「コンビネーション・ショット」って言うのかと思ってた。
それについての沙樹ちゃんの説明。
「えーと、今みたいな1-9で言うとですね・・・1番に当てた後1番で9番を落とすのが『コンビネーション』、手玉で行くのが『キャノン』、1番を9番に当てて1番を落とすのが『キス・ショット』って言うんですよ」と、実際にテーブルの上に1番9番を配置して実演して見せてくれる。
「へー、なんか同じ「複数のボールに当てて落とす」って言うのでも落とし方によって呼び方が違うんだねぇ、勉強になったわー」
「じゃなくて!!」
「今日はまだ時間あるし!もう一回よもう一回!!」
沙樹ちゃんの説明を感心したように聞いていたイツキさんが、我に返ったようにテーブル上にボールを戻し始める。
まあ明日も休みだしちょっと遅くなっても良いんですけど。
「じゃあ勝者ブレイクって事で、次はタマさんからのブレイクでやりますか」そう言って沙樹ちゃんがボールを並べ始める。
そうしてその日は、普段よりちょっとだけ長く「ネオ・ナインボール」を楽しんだのだった。
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・・・余談。
「しゃあぁぁ!!!!」
最後の9番を沈めたイツキさんが吼える。ちょっと女子にあるまじき雄叫びで「なんかキャラ崩壊してない?」って思ってしまう様な気合の声だ。
っていうか2ゲーム目以降のプレイ中、イツキさんはずっと本気と書いてマジだった。
なんか遊びって言うより運動部が大会に臨むような、そんなテンションでプレイを続け・・そして9番を沈めた瞬間の、この気合である。
しかしその後すぐ脱力して「はぁ、やっと勝てたぁぁぁ~」とかメチャメチャぐったりしていた。
・・・いやどんだけ勝ちたかったんですか。