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勝利の味と一人練習



 タマっちとのネオナインボールを終えた日の夜、お風呂から出たアタシはそのままベットにダイブする。


「一回だけだけど、何とか勝ててよかったぁ~」


 しっかしタマっち強いなぁ、上手さはそんなに変わんないと思うんだけど、なんか()()()()ってヤツ??


 ネオナインボールの1ゲーム目のキャノンナインは言うに及ばず、隠し玉の時もブレイクで持ち球が死亡する確率がやけに低かったり「コレはチャンス」って時はやけにタマっちの番が多い気がする。


それでも最後のゲームではラスト2球の4番、9番を連続でゲットして勝利、その時の事はバッチリ思い出せる。4番がちょっと薄くて角度が見にくくて、メチャメチャ真剣に狙った。そんで4番が何とか入って、手玉が止まったところがすっごいチャンスボールだったんだよね。

 嬉しくてソッコー撞こうとしたら、緊張して手が震えてヤバかった・・遊びなのに。


 深呼吸した後、覚悟決めてショットしたら9番が「スパーン」って・・・めっちゃ気持ちよかったなぁ・・

 隠そうとしてたみたいだけど、タマっちも凄い悔しそうな顔してたし。


 思い出して「にひひっ」って変な笑いが出てしまった。


寝ころんだ姿勢のままスマホを操作して「ビリヤード」で検索してみると周辺の店舗情報などが上位に表示された。


「違うー。そうじゃなくてー」


 検索範囲を「動画」に絞ってみるとレッスン動画やプロの試合らしい動画が何件かヒットする。


「あ、コレナインボールだ」


 タイトルからしてプロ同士の試合の動画らしい。えーと世界選手権?片方が日本人で片方が外人。投稿日時からして古そうだけど、なんか「解説付き」とか書いてあるのでちょっと見てみることにする。


_________________


 とりあえず前説っぽい所をスキップして観ること5分。



 アタシはそっとブラウザを閉じ、ちょっと横になって目をつぶる。


 違う、そうじゃない。


 確かにプロは凄かった、何しろ全くミスらしいミスが無い。ブレイクから順番にしか狙えないのに1~9までノーミスで取りきるとかありえない。でも何がどうなってそうなるのかサッパリだったし、解説者が言っている会話の内容も専門用語が多すぎて全く分からなかった。


 結論、この動画はアタシにはまだ早い。


 気を取り直してもう一度体を起こし、今度は「ビリヤード 初心者」と入力しようとしたら、予測変換に「ビリヤード 初心者 練習」ってのが出てきたのでポチっと検索してみる。


 箇条書きに出てきたページの上から順に斜め読みしていくと、フォームについての説明は沙樹ちゃん先生に教わったのとだいたい同じ、その後の練習メニューはそれぞれ書いた人によってマチマチだったんだけど、1つのサイトの初心者用メニューが目に留まった。


 イラストが多くて解りやすいし、あんまり難しくない(様に見える)のでこれならアタシにも出来る‥と思う。

 早速このサイトをお気に入りに追加して、次にクロスに行った時、すぐに見られるようにしておく。


 ヤバい、なんかもう早くビリヤードやりたい。


 そんな気持ちを紛らわすために、もう一度試合の動画を見てみる。今度は女子プロ同士の試合にしてみた。

 相変わらず「何でそんなに正確に入るの?」って言いたくなる位シュートが正確、あと入れた後の手玉が変な動きをして次に入れやすい場所に寄っていく・・・コレってわざとやってるよね?


 今はチョー初心者だけど、練習してコレくらいバシバシ決められる様になったらゼッタイ楽しいよ、間違いない。


 それからその日は、ビリヤード関係の動画やら何やら色々検索したり見たりしていたら、かなり夜更かししてしまった、朝起きると寝不足でボーとする。


 朝ご飯を食べながらアタシは「放課後クロスに行くまでに寝不足を何とかしなきゃ・・うん、よし授業中に寝よう!」とか、かなりダメな方向の決意をしていた。



_________________________________

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___________



 翌日。


 もう一刻も早く昨日検索したことを試してみたかったアタシは、学校帰り制服のままクロスを目指した。


 同じ学校の生徒がまばらに歩いている通学路をクロスロード方面へ向かうと、最近見慣れた後ろ姿・・というか後頭部が見えたので声を掛ける。


「沙樹っちー、クロス行くのー?」


 振り返った沙樹ちゃんが笑いながら言う

「いや、行くというか帰るんですけどねw自宅ですから」


 そりゃそうだ。目指す場所が同じなんで並んで一緒に歩く、っていうか沙樹ちゃんの制服姿ってちゃんと見たのは何気に初めてかもしれない。「いやホントに同級生だったんだねっ」って感じ。


 サイズ感的には中学生だしなぁw


 たわいのない話をしながらブラブラと歩いて行くと、クロスロードの前に着いた。

 沙樹ちゃんは「本当は16:00からなんですけど入ってて下さい、着替えたらすぐ行きますから」と言って奥に引っ込んでしまった。


 そんなワケで開店前のビリヤード場、その中に一人で立っているんだけど、何だか不思議な感じがするなぁ。

 やや薄暗い中に西日が差し込む店内は、普段流れている音楽も無くシーンと静まり返っている。空調も動いていないため熱気が籠っていて少しムワッとした感じがして、外を通る車の音がやけに大きく聞こえる。


 そんな非・日常感はいつもの店員ルックの沙樹ちゃんの登場と共にリセットされた。まず電気が付いて、その後良く知らないけど聞いたことある様な洋楽のBGMが流れ始める、エアコンも入って空気は流れ始めたけれど室温が下がるまではまだ暫くかかりそうだった。


沙樹:「えーと、今日はとりあえず一人で入りますか?私が入って合い撞きしてもいいですけど・・」


イツキ:「今日はチョット練習したいコトがあるんでー、最初は一人で、また後で教えてもらうカモ」


沙樹:「了解です、それではお好きなテーブルにどうぞ」


 言われて一番隅っこのテーブルに移動する、今日は一人錬のつもりだしね。

 トレイに入っているボールを15個全部テーブルの上に準備して、スマホを取り出すと昨日お気に入り登録しておいたページを出して見やすい位置に置く、あとはキューを持ってきて準備完了っと。


「えーとまずはセンターショットは難しすぎるのでもっと近いボールで入れの感覚を・・か」これって一番最初に沙樹っちが「やってみて」って言ったヤツだね。


 スマホ画面とにらめっこをしながら、課題を一つずつ試していく。


 沙樹ちゃん先生の指導でやったようなフォームやシュート練修が一通り終わると、次は撞点の撞き分け・・つまりトップスピンとバックスピン、ちなみに「捻り」という横回転は難しいので、まずは上と下をちゃんと撞ける様になってからだって。


 一番わかりやすいのが真っ直ぐ狙った時上を撞くと追っかけて行って、下を撞くと戻って来るってやつかな?それが角度によって変わるらしいけど・・・


 課題が進むにつれて角度が付いたり距離が長くなったり難しくなっていく、最初は失敗するとげんなりしたけど成功した時はその分嬉しかった。

 そうして黙々と一人で練習を続けたていたらあっという間に2時間が経過していた。


 もっとやりたいけど、高校生の小遣いと、週2のファーストフードのバイト代では1回のプレイは2時間ぐらいに止めておかないと金欠になっちゃう。


 終了する前、最後に沙樹ちゃん先生に聞いてみた。

「ねー沙樹ちゃぁん、下撞いた時さー、1ポイント位だとちゃんと戻って来るんダケド、ちょっと離れるともう戻ってこないの。やたら外れるしさー、なんで??」


 今までなんかニマニマしながら見守ってくれていた沙樹ちゃんは、それを聞くとやたら嬉しそうに「それはですね・・」と先生モードに入る。

 アタシはそれをフムフムと聞きながら、あーやっぱビリヤードって何か奥が深いわー、でも「ソレがイイ!」って思うのだった。




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 同日、古賀沙樹


 今日も今日とて実家でバイト、って好きでやってるから良いんですけどね。


 帰宅部なので、学校が終わり真っ直ぐ家に向かっていると、後ろから声を掛けられた。


 声の主は猪熊五姫さん、最近ウチのお店に来るようになってくれた同級生だ。


 家に着き、バイトの制服に着替えて店に出る。照明・BGM・エアコンのスイッチを入れて開店準備をしつつイツキさんに対応しようとすると「今日は一人で練習するから」という答えが返ってきた事に思わずガッツポーズしたくなる。


 正直ビリヤードの一人練習って一人カラオケ以上に普通の人はやらない、何事も無いように一人練習をしてるのはビリヤードの魅力に取りつかれた人、所謂「()()()()」の人だけだ。


 イツキさんは今、()()()()の扉を開けかかっているんだと思う。

 スマホを見ながら練習課題に取り組んでいるイツキさんを見ていると、思わず頬がゆるんでしまう、出来れば近くに行って色々指導してあげたい。

 しかしあんまりゴチャゴチャ口出しをしをして、ウザがられてしまっては本末転倒だ、我慢我慢。


 結局時間一杯メチャメチャガチな練習をして、帰り際イツキさんが質問してきた内容は「引き玉が上手く行かない」だった。

 こっち側に来る人が誰しも必ずぶつかる壁だ。


 帰っていくイツキさんの後ろ姿を見送りながら思わずニヤリと笑ってしまった。


「イツキさん・・・ようこそ()()()()()(笑)」



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― 新着の感想 ―
[良い点] 女子それぞれの視点で同じ時系列を描き分けられているのが斬新で面白く感じました。 [気になる点] この手法が通じるのは、一話二人までですよねぇ。 三人になると混乱しそうです。 [一言] 主人…
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