多磨の休日2
今、手元には届いたばかりの通販の段ボール、それを開封しながら思う。
「ビリヤードの教本って何でこんなに見つからないの?」
バイト先の本屋で探してみたけれど見つからず、ちょっと遠出して、街の大きな本屋さんで探してみたけれど1冊も無かった。
盆栽とかですら月刊誌があるのに、ビリヤード雑誌は無いし。
仕方なくインターネットの通販で探すと、やっと中古の教本を見つけることが出来た。送料はかかってしまったけど、元の値段が高いので中古で安く済んだ分、新品を買うより安く済んだかもしれない。
梱包材を取ると出てきたのはB4サイズの書籍が2冊、それをパラパラめくる。
「んー、やっぱり紙媒体はいいっ」
今時本なんか買わなくてもインターネット上を調べれば、同じ様な情報なんてタダでいくらでも閲覧できるだろう、だけど違うのだ。
この「手元にある感」がイイのですよ!
去年のクリスマスに買ってもらった「人をダメにするビーズクッション」にぐでっと寝そべりながらまずは初級編を頭から眺めていく。
「ほうほう、やっぱり最初はフォームからですか、でもこの辺はもう沙樹ちゃん先生に習ったからなぁ」
シュート力養成講座、スキルアップ講座の押し玉編・引き玉編、脱ビギナートレーニング・・・
沙樹ちゃんから聞いたような内容から全く聞いたことのない内容まで、夢中になって読み進めていくが半分まで読んだあたりから「あれ?この本初級編だよね」っていう内容が増えてきた。だけどまあ出来るかどうかは別として、言いたいことは何となく理解できる。
何より私、こういう理屈っぽい内容の本は大好物だし!
「初級編でコレって、上級編はどうなっちゃうんだ・・・(笑)」
私はまだ手を付けていないもう1冊の「上級編」に軽い恐怖を覚えつつ、更にページをめくった。
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最後に載っている「ビリヤード用語集」まで「初級編」を全て
読み終えるのに1時間ほどかかった。
読み終えた感想は、ほぼ7割くらいが「ポジショニング」とか「出し」とか言われる手玉のコントロールについて書いてあるって事だった。
「あれ、もしかしてビリヤードって入れるだけなら簡単なの?」
って一瞬思ったけどそうじゃ無いよね、難しいボールはやっぱり難しいわけだし。
だからこそ、少なくとも自分がプレイしている限り難しいボールにならないようにポジショニングが大事って訳か。
この前「ネオナイン」をやったし、次に本格的な「ナインボール」をやる様になるとすれば「ポジショニング」は更に大事になるよね。
イツキさんも何か凄いやる気だし、ちょっと次に備えて練習した方が良いかな?
最初は違和感しかなかったけど、もうイツキさんとビリヤードするのに何の抵抗も無くなっている、って言うかむしろ楽しい。
よし、取りあえずこの「シュート力養成講座」と「スキルアップ・押し玉編」を試してみよう。
この前のイツキさんの様子だと、そんなに間を置かずにまた行こうって言ってくる気がするから、それまでに練習して万全の態勢で迎え撃っちゃおうかな。
私はやりたい練習課題のページを熟読しつつ上機嫌で、次練習に行くのはいつにしようか考え始めるのだった。
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数日後:古賀沙樹
店番をしている私の視線の先で練習にいそしむ少女が一人。
私はそれを見てか頬が緩むのが抑えられない。
彼女の名前は百合園多磨さん、先日のイツキさんに引き続き今日はタマさんまで一人錬に来ている。イツキさんと連れ立って来たのではないって事は、完全に自主的にビリヤード場を訪れたって事だ、しかも一人で。
練習内容も理にかなっているし、アレは自分で調べてきたっぽいですねー。
正確にポイントやボールを使って距離を測り、同じ配置を作って練習を繰り返すのを見てると、理論派タイプというかまず知識から入ろうとするタマさんらしい。
「あ、あの練習私もやったことある!」
そんな風に見守っていると、ドアベルが鳴って新規のお客さんが。
「いらっしゃいませ・・って四季先輩!」
私の声に反応したタマさんが振り返ると、慌てた様にあいさつした。
「こ、、こんにちは」
四季先輩は私に「やあ、また来ちゃったよ」と言うと視線をタマさんへ向け、「タマちゃんも来てたんだね、良かったら一緒にやる??」っと声を掛けた。
ふらっと一人で入ってきて、先に撞いている顔見知りに声を掛けてナチュラルに会い撞きとか完全に常連さんムーブである。ナイスです四季先輩、そのまま2人とも常連になっちゃいましょう。
「解りました、じゃあ3番台のタマさんと合流でいいですか」「それで頼むよ」話はとんとん拍子に進む、なんかタマさんはアワアワしてたけど。
そうして3番台では今、タマさんと四季先輩が一緒にビリヤードを楽しんでいる、ゲームとかで対戦しているわけでは無く、今の時点で少し経験の多い四季先輩がタマさんに教える形で練習してるみたいなんだけど・・・
「ほらタマちゃん、的玉をよく見てね、体は動かさないように」
背の高い四季先輩が、私程では無いけど背の低いタマさんに覆いかぶさるようにしながら、耳元で囁いている。
「ふぁ、ふぁい」
それに対するタマさんは真っ赤になって俯いていた顔を必死に上げて、的玉を見ようとしてるけどあれって逆効果だよねぇ?
うちの店、そういうお店じゃないんだけどなぁ(笑)
一部ホストクラブみたいになっている店内を横目で見ながら、私は店内の清掃を再開した。
まあ、仲良きことは美しいですよね!!




