第58話 セルどうしよう?
フェルドさんは翌日、旅立っていった。
行く先は決めてあり、マルオリ共和国だという。少し遠いところらしいけど、奥さんの妹が移り住んでいるらしい。
いつかお店が出来たら必ず行くからね、と言って、涙を流すことなく、笑って別れた。
さて……。
セルどうしようかしらね。
薄情と思われるかもだけど、代わりになる人間は見つけないと。
でもね、やっぱり、フェルドさん。あなたの代わりはいないのよ。
またオーディションしようかとも思ったけど、すぐにそんな気になれないわ、さすがに。
そんな時、トータ姫がピクシーのところに報告に行きたいと言ってきた。
ピクシーね……。
結局、世界の環境を取り戻すことは、出来ていない。
恐らく、巨大樹も、なにも変わっていないだろう。
ルネボレーの王様は約束はしてくれたし、アステラ王国など、賛同してくれる国も増えているようだけど、すぐに良くなるものじゃない。
何の成果も挙げられていないのに、どんな話をしたらいいんだろう。
ただ、何も言わずに時間だけが過ぎていくのは避けたいと姫は言った。
ピクシーは食事もしなければ、財宝にも興味はない。
もっとも今、姫の国に余裕があるわけじゃないし、喜ぶような『モノ』を贈れるとも思えなかった。
ただ、国を建設する際に予定を変更して、出来るだけ多くの海底の花や木々を植えようということになったらしい。少しでも『いたずら』の種になるようにと。
――わたし……。わたしに出来ることは……。
歌しかない!
新しいステージが出来るまでメイシャたちも歌えないんだけど、どうにかして歌ってもらおう。
ハンサムボーイズにもせっかくだから、演奏してもらってもいいじゃない。
ジュゲンさんには今までのことを一切隠したままだったが、もう言ってもいい頃かもしれない。案の定、少し驚きはしたが、愉快愉快と笑ってくれた。
そう。みんな、大喜びだったの!
で、ステージがないんだけど、どうしようかなと。古代樹の周りだと、ピクシーちゃんたちを踏みつけにするようで、かわいそうだし。
そんなことを話してたら、ドワーフのガリアさんが海の上にステージを作ろうと提案してくれた。
波があるのでグラグラするんじゃないか心配したけど、揺れに合わせて動くような仕掛けで、地面の上にいるのと変わらないように出来ると言ってくれた。そう難しい技術でもないという。
「ヒロダーのお披露目もしてみたいしな!」
ガリアさんが、アンプを使って、全体の音のバランスを取る役もやってくれるそうだ。
歌詞はどうしようかなぁ。
キャハ語はさすがにハードル高すぎる。
ジュゲンさんメインで、歌なしのも何曲かやってもらおうかしら。歌詞がなくても、メロディなら、伝わるかもしれない。もし、歌じゃダメだった時のためにね。
わたしたちは、三日ばかり準備の期間をもらって、リハーサルを行った。
みんなのモチベーションの上がりようは半端なかった。
メイシャは一曲だけ、バンドなし、自分のセルだけで歌いたいとも言った。わたしがセルを弾きながら歌った姿、とっても印象に残っているらしいんだって。かわいい子だわ。
そして当日。
ごめん、寝坊した……。
毎日のリハーサルや準備であんまり寝てなかったのよね。
って、うん、言い訳なんだけども……。
みんなはすっかり準備万端で、いつでも飛ぶ準備ができていた。
あー、もう。わたしってバカ。こんな時に!
姫がぶうぶう文句垂れてるのを聞き流し、大人数すぎて抱えきれないので、ゴードンさんが私も行くと言い出したのも含めて、えいやっと魔法でみんなを小さくして、楽器やアンプなんかも手当たり次第に全部小さくしてワープした。
最初は魔族の国へ。直接ワープで行けるんだけど、一応、ピクシーとの仲を取り持ってくれたので、挨拶がてら寄ってから行くことにした。
また魔王に「宴会か?」と言わるのを華麗にスルーしようと思ったんだけど、ピクシーの国で演奏すると話したら、魔族全員、行きたいと言い出したの。
ガリアさんに言ったら、もう一つ予備のステージがあるので、それを海に浮かべて『客席』代わりにできるかもと言った。
もっとも全員は無理そうなんで、行く人を選んでくれと言ったら、戦闘で決着をつけると物騒なことを言い出したんで、急遽あみだくじを作って選ぶことにしてもらった。
ジャンさんもいたんだけど、残念だけどここで待機してもらうわ。
で、魔王様……、ごめんね、当たらなくて。
泣きそうな顔の魔王をほっといて、あみだくじ大会で時間も押しちゃってるんで、早々にまた小さくした。
今日は、プリンシペさんが残り、フェリペさんが来るらしい。大事そうにあげたセルともども小さくなってもらう。
ワープ!
思っていた通り、ピクシーの国、巨大樹に大きな変化はなかった。
トータ姫の『贈り物』はありがたいとは言ってくれたが、小さな国だし、目に見えての影響はないだろう。落胆しているように見えた。
「少し期待してたんだけど、予言は私達のことではないのかも知れないわね」
トータ姫が寂しそうにつぶやいた。
真偽のほどはさておき、ほらっ、そんな悲しい顔をしないで! まだこれから始まったばかりじゃない!
姫は「そうね、頑張る」と言って微笑んだ。
最初の世界で、頑張ってるつもりなのに『もっと頑張れ』って言われた時は辛くて仕方なかったけど、いいわね、こういう時の『頑張る』って言葉。
一番大事なのは、自分がなにをしたいかってことよね。
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