プロローグ
ーーーー私には、何がある?
どこまでも続く暗闇の中、私は問いかける。
ーーーー私には、運命というものはある?
ーーーー私の魅力って何?
ーーーーーー私って、何?
答えは出ない。その代わり、悲しみも苦しみも湧いてこない。あるのはただ、闇だけ。
ーーーー何処にいる?
ーーーー私は、どこにいる?
ーーーー何を、求めている?
ーーーー何と、繋がりを、求めている......?
「わっ!」
聞き慣れた大声が、ぼくを現実世界へ引き戻す。
「わ、わあっ!?」
自分でも目が覚めそうな大声をあげて、ぼくは飛び起きる。そんなぼくの視界に映ったのは、栗色の長い髪の毛。
「あ、アリサ・・・・・・?」
「あら、今日は寝起きがいいのね。放課後は雨かしら」
さんさんと眩い光をたたえた緑色の大きな瞳を緩やかに縁取るまつげ。その縁取りと同じ金色で腰まで伸びる髪を、耳の後ろあたりから編み込んで高部のポニーテールに結びあげるオレンジ色の髪留め。その派手な外見すべてを脇に押しやるような、これまた眩しい笑みを堂々と浮かべる唇。
東雲アリサ。優京国際音楽中学校の二年生。担当はフルートorボーカル。ぼくの幼馴染。
「なんで雨なの。ぼくいつもそんなに寝起き悪い?」
「もー、いっつも私が起こしてあげても、えっいまどこー?とか言って全然動かないじゃない。こないだとかぼくってだれー?とか言ってて大変だったんだからね」
「そうなの?」
こくっと首を傾けるぼくに、「覚えてないのかー」と頭をふるアリサ。
「ま、いいわ」すっと腰に手を当て、「今から発表会のリハーサルよ。チューニングしてないんでしょ。早く行くわよ」
手渡されたのは、ぼくの両手を広げた長さくらいの大きめのバッグ。この中には、ぼくの愛用の楽器が入っている。昔世話になった人に買ってもらったもので、もう10年以上使い続けている。
「わかった、行こう」
そう言ってぼくは立ち上がり、二人手を繋いで教室を飛び出した。
ぼくは思う。芸術は武器ではない。そうであってはならないのだ。