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狐日!!  作者: すずらん
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Ep.5

 第一回琥珀神社総会議を終え、拝殿から茶の間へ移動してきた三人。時刻はすでに10時を過ぎ、気持ちの良い空が広がる。

「んじゃ、今日やることをやってこう」

「今朝あんなことがあったのに元気なのな...お前」

 既に今朝起こったことから復活した鈴の様子に早くもあきれる瑠璃。有希はあまり関心がないのか、いつの間にか狐になっていた琥珀を抱いて、モふっている。

「今日はですね、二つの班に分けたいと思います」

「なんで?」

「一つの班は、食料調達&このあたり一帯の調査。もう一つは家電や日用品の買い出し」

「ちょっと待て。え?なに?食料調達?」

「そう、いくら貯金があるとはいえ、使えばなくなっていくでしょ?せっかく近くにいい感じのポイントがあるんだからこれを活用しないわけないでしょ?」

 鈴の頭の中には今朝行った例の滝の姿。表情がすでに好奇心のメーターを振り切っていることを物語っている。それを見た瑠璃はいつもの鈴が戻ってきたことを察知し頭を抱えた。自分が気になるだけ、遊びたいだけだろとか、そもそもなんで文明の発展したこの世界の日本でサバイバルをしないといけないんだ、ってか道具もないだろといった言葉をグッと飲み込む。

「んじゃ、調査は?何する訳?」

「この琥珀神社の敷地にあるものから、山の周りの確認。できることなら街まで見て回りたいけど多分無理だね」

 鈴の言う通り、三人とも琥珀に連れられてショッピングモールに出掛けてはいるが、とりわけ徒歩圏内のことはまだよく知らないため、この近辺に何があるのか早めに地理を把握しておくことに越したことはない。しかし瑠璃は、一見すると正論に裏打ちされた行動計画の裏に潜む鈴の思惑を正確に読み取っていた。

「なるほど、分かった。要は散歩がしたいってことね」

 瑠璃のもの言いたげな目を向けられた鈴は、目を泳がせながら散歩したい訳ではないとアピールしてくるが瑠璃はそれを聞き流しながら、新しい場所に来たら自身の周りに何があるのか早いとこ確認しておきたいという鈴の行動が、引っ越した後のペットみたいに感じ、心の中で犬猫かよと突っ込む。

「ま、まぁとにかく、私は神社境内の確認と釣り場...もとい周辺調査にいくよ。有希はどうする?」

「私はどっちでもいいー」

「毎回思うけどそれが一番困る...」

 瑠璃に本心を見抜かれていることを悟った鈴は開き直ってこれ以上何かを言われる前に強引に話を進めることにした。結局、神社境内と周辺調査は鈴と有希が担当し、瑠璃が買い出し担当となった。

「いやいや、こっち一人で荷物運べる訳ないから」

 ただでさえバスを使わないと行けないのにバス停から家まで戻ってくる際、長い参道や石段を歩かされることが確定している。その上、荷物まで自分で持たなければならないともなれば人数の比率に文句も言いたくなる。不満気な表情をあらわにする瑠璃を宥めながら鈴は有希に抱きつかれている琥珀に目を向けた。

「大丈夫だって。そっちには琥珀をつけるから。いくら私らの中で一番背が高い瑠璃ねぇでもその見た目じゃ家電は売ってくれないだろうし」

 だとしてもどうせ買い物に行くなら全員で行ったほうがいいと食い下がる瑠璃に対し鈴は駄目押しとばかりに続ける。

「それに当面必要な物は昨日の時点であらかた揃えたし、家電だって今配送無料がほとんどでしょ。細々としたものだけで荷物も多くならないはずだから、ね?お願いしますっ!」

 両手を合わせ頭を下げる鈴に諦めた瑠璃は、ため息を一つつき渋々引き受けた。

「ありがとう!じゃ、琥珀と瑠璃ねぇが買い出し、私と有希が周辺調査ってことで」

 足早に準備に向かおうとした鈴を瑠璃が引き留める。

「日用品は何となく分かるけど、家電って何買ってくるの?」

「んーとりあえず冷蔵庫。後はドライヤーとか?その他いろいろ、足りないやつ全て買ってきて」

 あまりにも雑な指示に鈴の意識が逸れ切っていることを感じ、こちらで判断することにした瑠璃はざっと必要だと思う家電をリストアップした。

「わかった、性能に関しては?」

「よくわかんないから瑠璃ねぇの好きな物でいいよ。あーでも琥珀、しっかり値切ってきてね」

 いよいよ雑になった鈴はそれだけ言い残し自室へと消えていった。そして、さりげなく琥珀に値切ってくるよう指示するあたり、さすが金の亡者である。瑠璃はそれを見送ることもせず、どこからか取り出した裏紙にぶつぶつ言いながら今のこの家に必要なものを書き出していくがそれは強制的に中断された。

「言い忘れたー!お昼ごろにご飯買って一度帰ってきてね」

「お前らがとってくるんじゃなかったの?」

 どたどたと足音を響かせ再び現れた鈴に目もくれず適当に返す。その言葉に若干の嫌味が乗ったのは気のせいではない。

「いや、流石に食料調達は冗談だって。道具もないしさー。仮に上手くいってもせいぜい一品増えるだけだって」

 鈴はそう言いながら微睡まどろみの中にいた有希を琥珀から引き剥がす。静かにしていると思ったらずっと寝ていたらしかった。

「そもそもメインを飾れたことの方が少ないだろ」

「そーだっけか?」

 冗談の仕返しも受け流された瑠璃は色々諦め、メモを再開した。

「そうそう、お昼は瑠璃ねぇの好きなやつでいいから。んじゃよろしく~」

 瑠璃は、返事も聞かずに有希を引きずりながら茶の間を後にした鈴を尻目にメモを書き上げ、一連の流れを聞いて同情の目を向けてきた琥珀と共に、漏れがないか家の中を見て回ることにした。


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