◆エピローグ
真子が目を覚ますと、そこは自分の部屋では無く、つい最近見知った場所――伊河総合病院の病室だった。
頭の中に霞がかかっているようで、まだハッキリと目覚めてはいなかった。
なぜ病室のベッドで寝かされているのか疑問に思いつつ、起き上がろうとすると頭・腕・足といった体全身に、身悶えるほどの痛みが奔った。
その痛みが記憶を呼び覚ます。ギン、中神烈、雫に浸食した電脳生命体との一連の騒動を。
夢のような出来事だっと思ったが、その夢はすぐに空しくも砕け散ることになる。
真子のお腹辺りに、銀色の毛並みをした一匹の猫が鎮座していたのだ。
『おや、起きたか。どうだ体の調子は?』
「千代田佳‥‥!?」
すかさずギンは真子の口を塞いだ。
「モガモガ(なにすんのよ)‥‥?」
『そのことは暫くは他言無用だ』
「モガ(なんで?)」
『電脳生命体などの連中に知られると面倒になるぞ。あの友達の騒動が良い例だろう』
「モガモガ(そうか)‥‥。モガモガ(というか、解ったから手をどけてくれない)?」
『おっとすまん。という訳で、暫くはわしの事はギンと呼べ』
「う、うん‥‥。そうだ! 雫ちゃんはどうしたの?」
『看護師の話しを又聞きする限りでは、浸食の気配はなくなり、電脳化レベルも2以下になっているらしい』
「そう、良かった‥‥」と、真子は胸を撫で下ろした。
『それで、真子はどうする?』
「どうするって?」
『このBコードは電脳生命体に対する通用する対抗策でもあり、それを自分に使えば、わしをフォーマットして普通の人間に戻れることは出来るぞ?』
「‥‥夢で千代田佳那さんに託された気がしたの。それに、このままほっといたら電脳生命体が人類に代わって支配するんでしょう。だったら私は‥‥」
■□■
真夜中。
ビル群が立ち並ぶ中、軽々とビルの屋上を飛び越えて移動していく人影があった。
街灯によって照らしだされたのは、両足が鹿のようになっており、その目つきも野獣の鋭い眼光。電脳生命体に浸食され、変態していた人間だった。
そして、それを追いかける二人の影。
その二人も変態で姿を変えていた。
一人は頭の上には猫の耳のようなものが生え、もう一人は右腕が異形な形となっていた。
電脳生命体は逃れるのは不可能だと判断し、反転して襲いかかるも、猫耳の人間は見た目通りの猫のように俊敏で、軽快の動きで避けていく。
猫耳の背後にいたもう一人は右腕から火球を放ち、援護射撃で電脳生命体の動きを止めた。
その隙を逃さず猫耳の少女が接近すると、浸食された人間の額に掌底(猫パンチ)を食らわせた。
激しい電気がほとばしり、電脳生命体はもがき苦しみ、やがて自分のあるべき姿‥‥ただの人間に戻っていた。
火球を放った人物が猫耳の人間に歩み寄る。
「藤宮、大丈夫か?」
「もちっ!」
藤宮真子が選択した道は、電脳化対策チームの一員……電脳生体士となっていた。
「しかし、カウンセラーになったのは良いとして。藤宮も戦闘部隊に所属するとはな」
「まあね。今の所、Bコードが使えるのは私だけだし、電脳化レベル3以上の発症者が危険だからね。私がこうやって頑張らないと」
「‥‥今さらだけど、なんで元に戻ろうと思わなかったんだ?」
「普通に戻っても、電脳生命体が存在がする限り危険は無くならないんだしね。だったら、危険なのは承知だけど、こうやって一つ一つずつ片付けないと。私たちが電脳化を治すのは、全ての問題を解決した後で良いでしょう」
『おうおう、一丁前に言いよって』
ギンが姿を現してチャチャを入れた。
「良いじゃない。こういう正義ヒーローも良いじゃない」
烈は発症者の状態を確認しようとすると、電子情報端末機からメロディ音が響く。
「げえ。また、出現したみたいだぞ」
「解ったわ。そっちは私が行くから、烈くんはここを後始末よろしくね! ギン、行くわよ!」
電脳化を解消できても、電脳生命体は在り続けている。電脳生命体を完全に抹消するために真子たちは戦い続けるのであった。
―おしまい―




