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ネコタマR  作者: 和本明子
第4章 千代田佳那と猫魂
19/23

② 千代田さん自身が電脳生命体に?

  ②


 一通り千代田佳那についての説明を受けて、真子は硬直していた。


 佳那が早逝していたのは知っていたが、その死因については全く記載されていなかった。その理由は、ペア社による情報規制だと察した。


 背広を着た中年男性が口を開く。


「ペア社の見解としては、千代田佳那がネコタマRを開発している段階で電脳生命体を生み出したと考えている。それを考慮すれば、今では千代田佳那は電脳化を発症してしまい、電脳化レベル3の狂変になってしまい飛び降りてしまったと考えるのが一般的ではある。この電脳化問題は、他人事で言ってしまえば不幸な事故のようなものだ」


「そうですか‥‥。ところで、千代田さんの研究資料とか残ってないんですか? その電脳生命体に関わる何かとか?」


「電脳生命体に関わるどころか、千代田佳那が亡くなった後に千代田佳那に関するデータが、何者かの手によって全データ削除されてしまっているのです。削除したのは電脳生命体か、もしくは千代田佳那自身の手によってかは解りませんが。存在しているのは、ある社員が遊びで撮った一枚のポラロイドカメラの写真だけなんだよ」


 真子の近くにいた成員がカラー印刷されたプリントを机に置いた。それにはロングヘアーの美人が自分のデスクで、優雅にラーメンを食べている姿があった。


「これは?」


「それが生前の千代田佳那を写す、唯一の写真です」


「これだけ? 誰かの携帯カメラとかに千代田さんを撮ってないんですか?」


「さっき言った通り、デジタルデータは全て削除されてしまっていたんだよ。SNSやオンラインストレージに保存されていたものも全て。個人の電子情報端末機に入っていたデータも。デジタル社会が仇となったケースだよ」


「そんな、わざわざ‥‥」


「そう、まるで千代田佳那という存在を消そうとしているかのような‥‥。こういった不可解な出来事から、ある一つの仮説が生まれた。もしかしたら、千代田佳那は電脳生命体となり、電脳の世界で存在しているのではないかと」


「千代田さん自身が電脳生命体に? それって可能なんですか?」


「おっと、失礼。前に述べていた通り、仮説の話しです。少々オカルト過ぎますが‥‥実際にオカルトな事象が藤宮さんたちに被ってしまっているので、何とも言えないものがあります。なにはともあれ、現在解っていることは千代田佳那が電脳生命体を生み出し、その電脳生命体がウィルスのように増え続けて、我々人類に実害を与えている、ということ。その対策としてペア社と日本政府は対策チームを結成して、対処しているところです」


「そうですか。そういえば、その対処って具体的には何をしているのですか?」


 バーチャル症候群についてはニュースなどで取り上げられているが、具体的にどういう対処しているかは、よく知らなかった。病院に入院した時、簡単な検査を受けたぐらいだ。


「もちろん、バーチャル症候群や電脳化の治療方法確立や電脳生命体の駆逐のための調査、研究。ちなみに発症した患者の入院費や被害による修繕費などはペア社が負担しています。そして、藤宮さんみたく、電脳化を発症してしまった方たち協力を求めています。特に、変態メタモルフォーゼ化してしまう方はね」


「協力?」


「さて、長々と説明したところで、本題に入りますかね。藤宮真子さん、あなたもCCTのカウンセラーの一員となりませんか? もちろん、このことは社外秘として極秘事項であり、他言無用です。その見返りとして治療などについて優先的にさせて頂きますし、ペア社の設備や製品を自由に使用しても良いなどの特恵があります」


「カウンセラー‥‥って、何をするんですか?」


「説明は私からしましょう」と、会議室に居た唯一の女性が立ちあがり、話しを始める。


「もちろん、基本電脳化についての研究や調査の協力です。研究‥‥といっても解剖などの非人道的な人体実験は行いません。人間ドックのような簡単な検査程度ぐらいですね。それと時々、電脳化‥‥特にレベル3の狂変化してしまった発症者を取り押さえたり、現場に調査へ向かって貰ったりします」


「取り押さえるって‥‥」


「とは言っても、藤宮さんは既に二度も狂変となった発症者を取り押さえているではないですか?」


「あれは成り行きというか、ギンが‥‥」


「危険なのは重々承知です。ですが、ご自身で経験したから解るかと思いますが、狂変となった者の身体能力は飛躍的に向上してしまい、一般の方では手に余る状態です。現に、家族や入院先の病院の看護師たちに被害を受けております」


 二度も襲われている身として、もし自分がギン化‥‥変態していなかったらと、背筋が冷たくなる。


「出来れば、是非とも藤宮さんにはご協力して貰いたいです。それに貴女は電脳生命体が分離しているという初めてのケースの方ですから」


「分離?」


「中神くんから話しを聞く限りでは、電脳生命体と思われる存在が貴女の身体に居ると」


「ええ、はい‥‥。あれ、あなた達もギンの姿が見えるのですか?」


 と言っても、今ギンは真子の身体に入り込んでしまっていて、この場に姿は無かった。


「いいえ。私は健全者なので、電磁波の揺らぎを見ることは出来ません。こにいるメンバーの内、中神くんを含めて電脳化のレベル4を発症しているのは五人居ますが‥‥どうですか?」


 一同、首を横に振る。その中で唯一ギンの姿を見ている烈が真子に話しかける。


「……藤宮、悪いがあの猫を呼び出してくれないか。証明する必要がある」


「う、うん‥‥」


(ギン、ちょっと姿を見せてくれない?)


 と頭の中で念じてみたものの、応答無し。


(ちょっとギン、どうしたのよ? いつものみたいに姿を現しなさいよ!)


 強く呼びかけるもギンは一向に姿を現さなかった。

 会議室に重い沈黙が流れ、年配の人たちから冷ややかな視線を向けられて、いたたまれなくなってしまう。


 女性成員は、ふーと息を吐いた。


「まあ仕方ないでしょう。こんな大勢の前に姿を現して貰うには、まだ私たちと信頼関係を築けてないからでしょうか。なにはともあれ藤宮さん。貴女と、貴女に宿っている電脳生命体の協力が必要になります。もし、貴女の電脳生命体とも協力して頂ければ、電脳化の解明がかなり前進すると考えています」


 真子は考えた。現状とこれからのことを。

 電脳生命体という謎の存在が身体に宿っていて、あまつさえ変態と呼ばれる身体が変化してしまう異常な状態ではある。


 ギンには幾分かは慣れて、それほど害があるものでは無いが、自分の意志とは別の意志が存在していることに不気味ではあった。


 どう考えても対策チームからの申し出を受けた方が良いのは明白。ならば迷う必要は無い。


「無理強いは出来ませんが、ゆっくりとお考えください。返答は中神くんに言ってくだされば‥‥」


「解りました。私、CCTのカウンセラーの一員になります」


 真子はきっぱりと言ったのであった。


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