赤神さん、おこる
春休みも終わり、高校三年生になりました。
この学校は二年から三年に上がる際はクラス替えがないようで私は大分安心しました。
「三年になってもなんも変わらないもんだにゃー。」
「そんなもんだよね。」
廊下ではるかと話しながら教室に向かっています。
最近ははるかと登校することが多いのです。
「うにー!うちはもっと刺激がほしいのだよ、かがみさん!」
「うーん、平和が一番だよ、はるかさん。」
なんでもない会話。
いつも通りの日常です。
今日もいつも通り楽しいいつもの一日になると思ってました。
こういうことは唐突に起きるものみたいです。
「ちょっと!!なによこれ!!」
教室から西条さんの怒鳴り声が聞こえてきました。
「……西条さん?どうしたの?」
「ひひひ、なおにゃん!カルシウムが足りないんじゃないか?」
「………つちうら……」
「………え……」
教室に入って空気の重さと黒板に書いてあるものを見て言葉がでなくなりました。
黒板にははるかの悪口や罵ったものが書いてあります。
言葉にするのも嫌なものが書きてありました。
はるかは誰とでも仲がいいはずなのに。
誰とでも笑えるはずなのに。
「誰がやったのよ!?出てきなさいよ!
こんなことやってバカじゃないの!?」
「なお!!」
「……な、なによ…?」
「うちは大丈夫だからさ、気にしないで。
ひひひ、ありがとね。」
「つちうら……」
「どうせやったやつもすぐ飽きるって!
大丈夫大丈夫!」
「……はるか……」
私は西条さんのように声がでませんでした。
だって私には犯人がわかってしまったからです。一番前の席にいたからです。
神山さんです。
はるかとよく話しているのを見かけたことがある人です。
「かがみん…大丈夫だから…
どうせすぐ終わるから…」
はるかも誰が主犯なのか大体の見当がついているみたいです。
それでいてなにも言わないのなら私も何も言えません。
どうかはるかの言う通りになってくれるように祈ることしかできません。
あれから4日ほど経ちました。
私の願いとは裏腹に神山さんのいじめはエスカレートしていきました。
机に落書きされていたり、
教科書が破かれていたり、
靴が隠されていたり、などなど。
「…わ…私は大丈夫だから…気にしないで!」
そのたんびにはるかは私たちの心配をするのです。
かなぎくんや西条さんも誰がやったのか探しています。
でも見つからないんです。
そりゃそうなのです。
クラスのほとんどがグルでやっているんですから。
誰もが口を閉ざすのです。
私ははるかの意思を汲みたかったのです。
はるかと神山さんの間になにがあったかなんて私にはわかりませんが
あのはるかが心を殺しているのに私が勝手をするわけにはいかないのです。
「あ…………」
朝、はるかが自分の机を廊下から運ぼうとしていました。
「ご、ごめんね!
今日用事あって先に学校来てたんだ!!
あ…あはは…嫌なとこ見られちゃったにゃ!
でもこんなんへっちゃらだからかがみんがそんな暗い顔しないでよ。」
でももうがまんの限界です。
「……ごめん、はるか……」
「え?かがみん?
ちょっ…待って!どこいくの?!」
もちろん神山さんの席ですよ。
「いい加減にしてよ!!」
「……いきなりなによ、赤神さん。」
「これ以上はるかにいじわるしないでよ!!」
「はぁ?」
「か…かがみん……。」
クラスが静寂に包まれます。
はるかが不安そうに私を見ています。
気にしません。
私の勘忍袋は破裂してしまったのです。
「…ばかじゃないの?
私がやったっていう証拠もないじゃない。」
「は?」
こんな馬鹿なことを言うもんですから私は神山さんを思いっきり蹴り飛ばしてしまいました。
もちろん私はもやしっ子なのでそんなにダメージはないと思います。
むしろ私が痛いです。
「……かはっ……い…いきなりなに…すんのよ……」
「ゆるさない…」
私は別に説得する気など、いじめをやめてなど言うつもりもありません。
ただただ許せなかったのです。
殺してやろうかと考えているくらいです。
なんの解決にもならないのはわかっているつもりです。
はるかに逆に迷惑をかけるのも承知です。
でも私は私を抑えれませんでした。
私は神山さんが転げ落ちる前に座っていた椅子を頭より高く持ち上げました。
「ころす…」
「ひっ……や…やめて……」
「あかがみ!やめなさいよ!!
とりあえず落ち着いて!」
「………西条さん……でも…」
「いいからとりあえずこっち来なさい!」
「かがみ、いこう…」
「かなぎくん…」
私は西条さんとかなぎくんに止められて屋上に連れていかれました。
最後にかなぎくんが神山さんの机を蹴り飛ばしてくれたのが逆に冷静にしてくれました。
「はぁ…あかがみ…あんた相当な大馬鹿者ね…。」
「……だって……」
「わかってるわよ…でも犯人知ってるんだったら先に相談してほしかったわ。
私たちだってはるかの友達よ?」
「………ごめん…」
「まぁ、でも土浦に対してのいじめは止まるんじゃないか?
あそこまでされてまだやるやついないだろ。」
「そうかもね。
でも私はあかがみが心配よ。
つちうらもクラスで浮いちゃうかもしれないし………。
……まぁ口で言って聞いてくれたかもわからなかったものね。
やりすぎだとしてもあれはしょうがないとしましょう。」
私にいじめの矛先が変わるかもしれない。
このままはるかがいじめられるかもしれない。
いじめはおさまってもはるかは孤立するかもしれない。
私がとった行動はきっと正解ではなかったですね。
じゃあ正解ってなんだったんでしょう。
誰も傷つかずいじめを止める方法ってなんでしょう。
「…ごめんね……迷惑かけて…
二人も変な目で見られちゃうかも……。」
「……相変わらずウザいわね、あかがみ。
そんなもん上等よ。」
「友達だしさ、一人で無茶されるよりは一緒に無茶したいよ、俺らは。」
「西条さん……かなぎくん……」
私にこんな目なんかなきゃいいのに…。
心の底から言ってくれてるのにいちいち二人の感情を確認してしまう私はほんとに嫌なやつです。
「落ち着いたみたいだし、とりあえず教室もどろっか。
カバンとって今日はもう帰ろうぜ。」
「かなぎはあかがみ送ってあげなさい。
私はもう少しかみやまと話してみるわ。」
「………殴んなよ?」
「約束はできないわね。」
「…………へへへ……」
なんてことはないのです。
二人も友達が心配なだけなのです。
友達が傷つけられて怒っているのです。
きっと二人に相談したらたぶん立場が逆になって私が止めに入る側だったと思います。
私の周りはみんな相当な大馬鹿者ばかりなのです。
「みんな!!」
「あ…はるか…」
「げっ……」
西条さん、当人を前にその反応はどうかと。
そういう私はかなぎくんのかげに隠れてます。
はるかは私が勝手なことをして怒ってるかな…?
「かがみんは?!」
「…………ここにいるよ、はるか……」
「ばか!!」
私は思いっきり無い胸をぶたれました。
「……いたいよ、はるか。」
やっぱり怒ってるみたいです。
「ばか!!ばかばか!!
ばかばかばかばかばかばかばかばかばかばかばかばかばかばか!!!!」
「………いたいってば………」
「………巻き込みたくなかったんだよ……」
「……うん、わかってるよ。
でもどうしても許せなかったんだよ。」
「……わかって……ないよ……」
「…わかってるよ。」
「……うっ…うう……だって……だって……ううああああああ…」
はるかが泣くのを私ははじめて見ました。
いつも笑顔で私を元気づけてくれたはるか。
私はこのときに決意しました。
「かなぎくん、はるかと一緒にいてくれないかな?」
「あ、ああ。……かがみ……?」
「西条さん、手伝ってほしいことがあるんだ。詳しくは後で話すけど。」
私は知っています。
神山さんを先頭にクラスのみんなではるかをいじめていたことを。
神山さんがクラスの中で強い地位にいること。
クラスのみんなは本当はこんなことしたいと思っていないこと。
私はこの四日間で全て知り尽くしているのです。
「ちょ…まってよ、あかがみ!
あんた、そんなことしたら……」
だったら周りを説得すればいいんです。
「お願いだよ、西条さん。
私は西条さんに断られても一人でやるよ。」
一人でいじめを抜けるのが怖いならみんな同じだって教えてあげればいいんです。
信じてもらえないなら私の目のことを全部話して信じさせればいいんです。
そうすれば神山さんは孤立します。
はるかには悪いけど知ったこっちゃないのです。
神山さんは一人でいじめなんて続けれるはずがないんです。
「だって…あんたの秘密ばらしたら…
みんながみんな私たちみたいに受け入れてくれるなんて絶対ないわよ!?
それに信じてくれるかもわかんないし…このままいじめもなくなるかもしれないし少し様子を見ましょうよ!
こんなのあんたが辛いだけじゃない!!」
「やだ。私はもう決めたんだよ。」
私はいつも思っていました。
全知全能の神様がいたとして
何故私はこんな目を持っているのかと
何故私に人生を与えたのかと
何故私は生まれたのかと
「私ははるかを助けるんだよ!」
「………あかがみ……」
「ごめんね!はるか!」
「……え?」
次の日、クラスの人たちは神山さんを除いてみんなはるかに謝っていました。
ここまでになっても神山さんは謝りません。
ある意味尊敬します。
あの後、私と西条さんは手分けしてクラスのみんなを説得しました。
高校生なんてまだまだ子どもですね。
特殊能力とか異能の力とかそういう日常外のものが好きなんでしょう。
案外、簡単に私の目のことを信じてくれました。
結果は見ての通り、私が希望した結果になったわけで。
そして今私と西条さんは授業をサボって屋上にいます。
「……これでよかったの?」
「うん…ありがとね、西条さん。」
私の目のことを知った人たちはきっとこれから私に近づくことはないでしょう。
私に対する視線も変わるでしょう。
きっとこれからたくさんの人に広まっていくでしょう。
でもいいのです。
私はこの結果に満足していますから。
「そう………あんたがいいならいいわ。」
「あはは…その割には怒ってない?」
「………当たり前じゃない…」
「……ありがとう、西条さん。
でも私はかなぎくんとはるかと西条さんがいれば大丈夫だよ。あとあゆみちゃんもいるしね。」
昔とは違います。
私のことを好いてくれる人がいるなら世界中に嫌われても私は大丈夫です。
「……なにか食べたいものあるかしら?」
「え?食べたいもの?」
「今日くらい晩ごはん作ってあげるって言ってるのよ。察しなさいよ、ばか。」
いきなり難しいことを言う人です。
でも西条さんはこういう人です。
「んー、じゃぁステーキとか。」
「調子乗りすぎよ。」
「へへへ。」
「まったく……ふふ…」
なんとなく。
ほんとになんとなくですがはるかと話すのが気まずくてその日は別々に帰りました。
はるかも同じみたいで一日話しかけてくることはありませんでした。
きっと誰かに私がしたことでも聞いたんだと思います。
はるかは今日は別の友達と帰るみたいです。
仲なおりできたみたいでほんとによかったのです。
というわけで今日は三人で帰ります。
晩ごはんに西条さんにハンバーグを作ってもらい三人で食べて解散しました。
かなぎくんもちゃっかりちゃんといました。
お風呂に入ろうかと思っているとチャイムがなりました。
「あれ?かなぎくん、忘れ物?」
「そこの公園にさ、土浦がいたよ。」
「え……?」
はるかの家はここから全然遠いはずなのに…。
「…あいつ、泣いてた。」
「………はるか………」
「たぶん俺じゃなくてかがみがいってあげたほうがいいと思うんだ。」
「………うん!ありがとう、かなぎくん。
私行ってくるよ。」
私にはなんとなくわかっちゃったのです。
はるかはどうしようもなく自分に正直でいつも人のことばっかり心配してていつも笑ってて…
でも誰かが助けてあげないと、声をかけてあげないと立ち止まって動けなくなっちゃうやつなんです。
根本は私と大差のないやつなんです。
「はるか!!」
そしてその誰かはきっと私なんだと思います。
「……か…がみ……ん…?」
よかった……はるかはまだ公園にいました。
公園のベンチでうつむいていました。
「私に会いに来てくれたんだよね?」
「………うん……
一言……かがみんに謝りたくて………
迷惑かけて…取り返しのつかないことになって………
謝っても謝りきれないことだけど……
う…うちこれしか…!!」
「………ひ……」
「……かがみん?」
「ひゃひゃひゃ!!
わかってないから言うけどさ!
はるりんはうちの親友だよ!!
親友のためにやれることがあるならうちは何だってやるよ!!」
「か…かがみん?!」
「全世界を敵に回したって嫌われたって変な目で見られたってはるりんを救うよ!
なぜならば!
はるりんはうちの大事な大切な大好きなかけがえのない大親友だもん!!
救って当然!!
だから謝るなんてお門違いだよ、はるりん!!そんなことよりお礼を言いなさい!!
はるりんには泣かないで笑っててほしいにゃ!!」
「………か……かがみんが壊れちゃった…」
「ってはるかだったら言うんだと思うんだ、私。」
「かがみん……」
「私は言葉にするのは下手だけど同じだよ。
はるかのこと大好き。
だからはるかにはいつもみたいに笑っててほしいな…。」
「………でも……」
「私ははるかのためになれたかな…?」
「あ…当たり前だよ!
かがみんがいなかったらうち…」
「ならいいの。
はるかを救えたならそれでいいの。」
「かがみん………」
「西条さんにも言ったけど私ははるかたちがいてくれればそれで幸せだよ。」
「………うん……うん………!
ありがとう………かがみん………ありがとう………」
後々冷静になって振り返ってみると私はなんて恥ずかしいテンションだったんだと思います。
顔から溶岩がでる思いです。
はるかは毎日あのテンションなんだと考えると尊敬せざるを得ません。
「しっかし、うちって周りから見たらあんなんなんだね…。」
「いやいや、もっとひどいよ、はるかは。」
「えー…まぢかにゃー…」
「私は好きだけどね。」
「にゃにゃ!?
ひひひ、じゃぁいっか!!」
とりあえず私ははるかを駅まで送りました。
「じゃぁね、はるか。
また明日、いつものとこでね。」
「うん。かがみん。
ほんとにありがとう。」
「へへへ、元気になってよかった。」
「ひひひ、かがみんといればうちはいつだって元気だよ!」
友達ってなんでしょう。
親友ってなんでしょう。
自分よりも大切なものなのでしょうか。
一人のときはまわりで仲良くしている人たちをみてよく卑下したりもしました。
でも今ならはっきり言えます。
自分よりも大切なものってあるんですね。
後の話ですがこの日から一週間後、
はるかと神山さんがぎこちなくですが笑いあって話してるのを見かけました。
喜ばしいことなんだと思いますが私は少し複雑な気持ちになるのでした。
はるかは優しすぎるのです。
「………あれ、かなぎくん?」
「あー、おかえり、かがみ。」
はるかを見送って家に帰るとまだかなぎくんが待っててくれました。
「もう帰っちゃったんだと思ってたよ。」
「いやいや、かがみ鍵開けっ放しで全速力で出て行ったじゃん…帰れないよ。」
「あ……あはは…開けっ放しで帰ってよかったのに。」
「さすがに危ないだろ、それ。」
「んー…でももう夜10時だよ?
大丈夫?」
「…まぁ終電には間に合うかな。」
「うちからのほうが学校近いしよかったら泊まってく?」
「え?………ええ?!いいのか?!」
「…………やっぱりだめかな。」
「あっ……待って!!いまのなし!
いま考えてるのなしで!!」
「あはは…やっぱりかなぎくんはエッチだね。」
「………お前に言われたらしょうがないだろ……」
「……えっと…まぁかなぎくんはヘタレだから変な心配はしてないんだ。
制服で寝ることになるけどそれでもいいなら泊まっても大丈夫だよ。」
「ヘタレっていうなよー、かがみー…」
「へへへ…」
私はかなぎくんとの時間が好きです。
私が私でいれるような気にさせてくれます。
私はいつの間にかにかなぎくんに惹かれてしまいました。
かなぎくんだから私は泊めてもいいと思えました。
かなぎくんになら襲われてもいいかもと思いました。まぁあり得ませんが。
私はかなぎくんが好きです。
異性として好きです。
私はこんな気持ちを持つこと自体初めてです。
私はこれ以上は望みません。
私と付き合うのは友達でいる以上に過酷だと思います。
かなぎくんの気持ちは知っているつもりですが…。
「いつもありがとね、かなぎくん。
私はいますごい幸せだよ。」
そしてごめんね…。
私はかなぎくんの気持ちに応えることができません。
「………かがみはたまによくわかんないこと言うな……。」
「…へへへ…いいの…かなぎくんはそのままでいいんだよ。」
「……んー…?よくわからん!
まぁかがみが幸せならいいのかな。」
その日、私は初めて友達を家に泊めました。




