087 風呂騒動と報告書
第87話 風呂騒動と報告書
俺が札について話すと・・・明らかに挙動不審になる女性・・・アグリスさんだっけ?俺はそのわかりやすすぎる反応を見て、じぶんの無実を証明するだけで終わりにしようかと考えたのが・・・
「ふ、札が有ろうと無かろうと・・・覗かれたのは事実です!」
わっきり言おう!この言葉にカチンと来ましたよ!!絶対ボコってやる(精神的に・・・)
「まあ、ちょっと確認してからお話しした方が良さそうなんですが・・・アグリスさんの言動を考えるに、女性入浴中の札を出し忘れて入浴していたようですね~私も見た記憶がないし・・・ケビンさんに確認して頂いてもかまいませんが・・・」
「ぐぅ・・・」
俺達の様子を見ていたケビンさんが・・・
「入浴中の札を出してないなら・・・事故・・・」
そんなケビンさんの言葉を最後まで言わせず・・・
「自分が入浴してるのに女性入浴中の札を出さないで入浴してるって言うことは・・・アグリスさんが痴女で自分の裸を自慢したいか、馬鹿だから忘れただけか・・・僕に限らず誰かに因縁を付け暴力をふるう目的があるかですね~」
「な、そんなつもりは・・・」
「だって、実際に僕は叩かれたし、切られそうになってるんですが・・・こっちに非はないのにね・・・」
「そ、それは・・・」
俺の言葉を聞き・・・かなり慌てたようで・・・思考が追いついていないようだな・・・
(そろそろ終わらせるか・・・面倒くさくなってきたし・・・)
「まあ、アグリスさんが非を認めて謝罪する気があるなら・・・今回はうっかりミスって事で終わらせても良いですが・・・まだ僕が覗きを目的としていたって主張するなら、自警団にでも領主の館にでも付いていきますから・・・カタを付けましょうか?」
「坊主!やりすぎだ!!それにアグリスも坊主に謝れ!今回はどう見てもお前の方が悪い・・・だいたい覗かれたぐらいで人を切ればどうなるか判らん年でもないだろう・・・」
「ぐぅ・・・判りました・・・勘違いで斬りかかってしまい申し訳ありませんでした・・・」
「謝罪を受け入れます。・・・ところで、お風呂にもう女性は居ませんか?居ないなら僕は入浴したいのですが・・・」
「居ないわよ!」
「じゃあケビンさん・・・そう言うことですので、僕は風呂に入ってきます。」
そう言い残して俺は無人になった風呂へ向かった・・・
「ふぅ~~~やっぱり風呂は良いな~~」
身体をきれいに洗い、湯船に浸かってそう呟いていると・・・
「おう!アレン・・・早いな~」
「ん?ケントか・・・他のみんなは?」
「知らね~自分の部屋にいるか買い物にでも出てるんじゃないか?うちの親父は寝てたし・・・それよりも、さっき宿で何かあったらしいぞ!」
「何か有ったって?何だよ?」
「いや・・・宿の入り口あたりで、ここには泊まらないとか・・・出て行くとか揉めてる客が居てさ~仲間は泊まる気なのに1鳥沢出でる女が居たんだ~ここは安全で飯ウマなのにな~」
(さっきの女性だね!これ以上俺は知らん!!)
「そうだ!ケント・・・入り口に男性入浴中の札をかけておいたけど・・・気が付いた?」
「そう言えば、何かぶら下がってたな・・・」
そう、俺が風呂に入ろうとした時・・・気になったので札を探してみると、有ったよ!有りました!・・・入り口のすぐ脇に『女性入浴中』って書かれたモノと・・・『男性入浴中』って書いてあるのが・・・男の分も有って驚いたけど・・・まあ確かに無いとまずいよね!
俺は裸を見せる趣味なんて無いし・・・キチンとぶら下げて間違いがないようにしてから入浴しましたよ!
「ふぅ~~良い湯だった・・・ケント先に上がるぞ!」
「おう!判った・・・」
俺はケントに一言断ってから風呂から上がり・・・自分の部屋に戻って報告書を書くことにしたが・・・途中で見た宿の入り口には揉めてる人は居なかったな・・・
さらさらと報告書を書いていたが・・・途中でちょっと考え、評価を変えることにした。結果として、俺がもっとも適していると書いたのは・・・南西の門に近い広い土地だ!
最初に一番高い評価を付けた商店街ど真ん中の物件・・・あれも良いのだが・・・今回の場合、この町単独で終わらせるのではなく・・・王都や他の領地にもチェーン展開というか、商売を広げることも目標になってるからね!
商店街のど真ん中には及ばないものの・・・この町の南西にある門は、王都-領主町-ウッド村を含む付近の村の街道に面しているし・・・行商人などを含めて一番人が通っていく門の近くだからそれなりに売り上げも上がるだろうし・・・
そんなことを考えながら報告書を書き上げ、余った時間で読書をしていると・・・
---ガチャ---
「不用心だな~鍵ぐらいかけておけよ!」
「飯に行こうぜ!飯~」
ケントのヤツがノックもせずに入ってきて文句を言ったあげくに、俺の手を引っ張りながら飯に誘ってきた・・・
「ふぅ~もうそんな時間か・・・じゃあ行くから、そんなに引っ張るな!」
他のメンバーも誘って5人で下の食堂に行き夕食を待つ・・・
「ん~良い匂いだ・・・コレは今夜も期待できそうだ!」
「はいは~い!お待たせお待たせ!持ってきたよ!」
オルドさんが巨大な木皿で山盛りのパスタを持ってきた・・・
「「でかい!」」・・・皿の直径は、一抱えほど70cm程だろうか・・・その上にトマト系のソースが絡んだパスタが40cmは盛られている。
(ここの飯は美味いけど・・・こんなに誰が喰うんだ?)
結局は杞憂に終わるのだが・・・俺はそんなことを考えていた間に、オルドさんはサクサクと取り皿用の木皿も配り終え・・・
「今日は後スープとサラダが付いてるけど、朝の残りならパンもあるし・・・お茶も用意してあるから好きに飲んでね~」
「あ!お酒は昨日と一緒だけど・・・別料金でエールも有るよ~じゃあカップ、カップと・・・」
さすがに一度に運べなかったようで、残りの料理とドリンク用のカップを取りに行ったようだ・・・
戻ってきたオルドさんから木のカップを受け取って思い思いの飲み物を取ってくる・・・かと思ったら、全員エールを選択したようで・・・カウンターに並んでケビンさんがエールを注いでいるのをじっと見ている。
俺も並んでお金を払おうとしたら・・・
『後で纏めて清算するから今は出さなくて良いと』言われ・・・渡されたのは深めの木のカップに注がれたエールだった・・・
「へぇ~別料金の飲み物は別のカップなんだ・・・」
俺は右手に受け取ったエールの入ったカップ、左手には空のカップを持って自分お席に戻ったが・・・どうやら他のメンバーは持って行ったカップにワインなどを入れてきたようだ・・・
(あ!俺もついでだったんだし・・・入れてくるんだった・・・)
「全員席に着いたな?じゃあ・・・」
「ほいほい!っと・・・コレはサービスね!」
ゴバックさんが食べ始めに何か言おうとしていたら、オルドさんが小ぶりなステーキを人数分持ってきて置き始めた・・・
「じゃあ、今夜も楽しんでね~!」
「まあ・・・とにかく食べよう!」
「「おう!!」」
その後はパスタの争奪戦・・・サラダの押し付け合い・・・楽しいことは楽しいが・・・
(もう少し行儀良く食べられないかな?)
当然俺も参加してモリモリのパスタをゲットしてるが・・・パスタに気を取られすぎ、大量のサラダも盛られた・・・
フッと・・・誰かの視線を感じたので辺りを見渡すと、居た!・・・俺を覗き魔扱いした女性だ・・・ケントの話を聞いた時は別の宿に移動したかと思ったが・・・どうやら仲間に言われたかして残ったようだ・・・
多少アルコールが入ったせいか、俺は無性にからかいたくなったので・・・ニッコリとした笑顔で女性に向かって手を振ってみたら・・・
いまにも飛びかかってくるんじゃないか?って目で睨まれ・・・事情を知ってるらしい女性の仲間・・・男性2人に女性1人から苦笑された。
「何か・・・ちょっと目を離した隙にサラダが増えてないか?」
「き、気のせいだぜ!」
「「そうそう」」
ゴバックサン以外の全員が共犯ですか・・・まあ、サラダも好きだから良いんだけど・・・俺は諦めてモリモリとサラダも食い始めた。
(しかし・・・気持ちは判るけど・・・サラダを人に押しつけるって・・・子供かよ!)
旨い夕食と・・・多少のアルコール・・・今日もゆっくり寝ることが出来そうだ・・・
ゴバックさんはまたもや晩酌と言うより飲み会に近いノリで飲んでるんだけど・・・ケントはもうベロベロだな・・・
(どんだけ飲んでるんだ?)
俺はケントを部屋に連れて帰ると、自分の部屋に戻って報告書を見直してから眠りについた・・・




