072 熟成期間⑤
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第72話 熟成期間⑤
兄さんがヘンリーさんの所に行ってる間に簡単な工具を用意しておいたけど・・・まずは外観からチェックだな・・・
兄さんが作った動力装置は、俺が予想していたように箱形で・・・たぶん箱の下の方にすいちゅうぽんぷが横向きに取り付けられ、中の軸に取り付けられた水車というか羽を回してるのだろうが・・・俺の予想外に直接繋いでいる訳ではなく動力装置である箱を荷台の上に積んで、荷台に開けた穴で車輪と動力装置をチェーンで繋いだモノだった・・・
(まあ、チェーンはチャリでも使ってるし・・・判るけど、結構凄いな・・・)
しばらく外観を眺めながら色々考えつつ見ていると・・・
「お待たせ!」
兄さんが戻ってきた・・・
「早く中を見ようぜ!」
ケントもせかすので、早速動力装置の箱を開けると・・・俺が予想していたように水車は付いていたが、水中ポンプは上に取り付けてあった・・・
『へぇ~~中はこんな風になってるんだ・・・』
3人でふたを開けてのぞき込んでいたが・・・
「水車の羽が壊れてるね・・・」
「何度か位置を変えたり色々やったけど・・・どうしても強度が足りないのか・・・羽が壊れるんだ・・・」
ケントの指摘に答える兄さんだったが、相当苦労したんだろう・・・俺は予想以上の出来だったのでビックリしてるんだが・・・
『動力装置を上に載せてチェーンで車軸と繋いだのは凄いね・・・』
「あぁ~それな・・・最初は車軸に装置を直接付けてたんだけど・・・走らせるとな・・・繋いだ歯車がしょっちゅうずれるし、力が足りなくて大型化したら・・・ちょっとした段差ですぐぶつかって壊れたんだよな・・・」
『苦労してるね~』
「まあな・・・それよりアレン、お前のアイデアって使えそうか?」
『ん~微妙だけど・・・可能性はあると思う・・・ただ、説明しづらいから家の中で図を書いて説明するよ・・・』
俺達は家の中に入り工作室の中で図を書きながら説明を始めた・・・
『まずね・・・兄さんが使った方法だと現状じゃあれ以上は無理だと思う・・・』
「おい!アレン!」
兄さんが怒ったような声で話してくるが・・・
『落ち着いてよ兄さん・・・まだ話の途中だから・・・』
「う~~判った・・・」
『続けるけど・・・たぶんあれ以上は無理って言ったのは、なぜ買って言うと・・・』
俺は兄さんが考えた方式の欠点である装置自体の大きさ、取り付けられたポンプと水流の関係で生じる水車への負担・・・いくつか図を書きながら問題だと思う点を話していった・・・
『で、ここからが僕が言ってたアイデアなんだけど・・・』
図を使った説明を理解したようで、2人ともおとなしく聞いてくれたので自分のアイデアの話を続けて話し始める。
『だから、こうやってパイプを曲げたような構造で0の形にして中にこんな感じの羽根を付けてね・・・』
図を書きながらさらに説明をしていく・・・
『んで、こういう形の歯車で外に動力を伝えるんだけど・・・』
「ちょっと待ってくれアレン!・・・そのアイデア自体は判るけど・・・」
『あ!やっぱり判った?そうなんだよね・・・こうすれば水流の問題は解決するし・・・大きさもある程度緩和できるんだけど・・・』
「うん・・・コレは工作精度と素材強度がな~」
「ん?なんだ?・・・何か問題でもあるのか?」
兄さんは理解してるようだけど・・・ケントは思いつかなかったようなので・・・
『いや・・・ケント、問題というか・・・僕が考えた方法だと作るのが難しいし、使う素材も丈夫じゃないと・・・それに・・・修理が凄く難しくなる・・・修理って言う点で言えば兄さんが考えた方法の方がたぶん簡単だ・・・』
「ん~~~だが・・・アイデア自体は良い感じだし・・・何とか出来ないかな~」
『ん~とりあえず兄さん達が作ったタイヤとかサスペンションを馬車に使えるように改良して・・・徐々に資金と技術力を上げつつ素材を強化していくしか・・・』
「アレン・・・タイヤは判るけど・・・サスペンションて?」
『えっと・・・ケント、ちょっと待ってて・・・』
俺は自分の部屋に戻って昨日貰ったチャリを持つと、工作室に戻って説明を始めた・・・
『んで・・・この部分が・・・で、こう動くでしょ?だから衝撃って言うか振動が緩和されてね・・・タイヤでも多少緩和されるし・・・だから・・・コレを馬車に応用できれば・・・』
「あ!そうか・・・あんまり揺れない馬車が出来るのか!!」
『そうそう・・・大正解!・・・だから、当面は自動馬車を諦めるというか作らないで・・・こっちの仕掛けを付けた新しい馬車で稼ぎつつ自動馬車製作の費用と技術力を上げたらどうかと・・・』
「ふむ・・・一部の貴族が乗ってる高級な馬車は衝撃や振動を想念法で緩和してるらしいが、普通の人が使う馬車や荷馬車には無理だからな・・・」
『想念法を使ってるだけで・・・なぜ普通の人には無理なの?』
「まあ、無理って言うか・・・まずは重量軽減とか浮遊の想念法はメチャメチャ念量が必要で、そんなに沢山の念石を用意できないって言う事情があるし・・・仮に集めても、維持するのに凄く金がかかるから・・・普通の人は使えないだろ・・・」
なるほどね~燃費と言うか・・・念費が悪いから、普通の人には厳しいよな~って事は・・・案外いけるかも・・・俺はサスペンションのアイデアが想念法で解決できると聞いて一端ダメかと思ったのだが、こっちは一度作れば壊れるまでは使えるし・・・維持費もかからない・・・
ついでだったので、兄さんに板バネで作るサスペンションの構造を図に書いて説明したりしてる間に夕方になり・・・兄さんは俺が書いた図を全部持って王都でも研究すると言いだし、それを自分の空間に大切そうにしまい込むと1人で店番をしてるヘンリーさんに所へ戻っていった・・・
(そう言えば・・・兄さんてもう成人してたよな?フォード工房に就職したのか?俺も忙しかったけど・・・全然話を聞いてないんだが・・・)
ちょっとした疑問は湧いたが、特に急ぐ訳でもないし・・・今度聞けばいいや!っと問題を棚上げした俺は、ケントと露店を見て回るため露店の広場に向かった・・・
途中で自警団本部によって、昨日会った移住者達のリーダー格の1人・・・オルドアさんて言う厳ついひげ面で40歳ぐらいの土方というか・・・家や何かで建築の基礎を作る職人さんに会ってみんなの様子を聞いてみたが、全員落ち着いていて特に不満もなく収穫祭を楽しんでると聞いてちょっと安心できた。
昨日会った時は俺が若すぎるせいか・・・「ガキがふざけるな!責任者を呼んでこい!!」とかって怒鳴られたし、なかなか信用してもらえなかったけど・・・
俺が村長の息子で、大魚亭の相談役だって事を自警団の人からも説明してもらってやっと納得してもらえたんだよな・・・
ま、納得してもらってからは・・・「まだガキだって言うのに・・・村長の息子ってのは大変なもんだ・・・」とか何だか妙な同情をされて困ったけど・・・
(そうだよな・・・世間的には俺って成人前のガキなのに・・・何でこんなに苦労してるんだろう?)
『とりあえず・・・確認も終わったし・・・休みなんだから収穫祭を楽しむか・・・』
「そうそう!早く行こうぜ~」
多少腑に落ちない思いもあったが・・・せっかくの収穫祭だ!楽しまなきゃ!!
俺達は急いで露店が広がる広場に向かって走り出した・・・
露店の広がる広場に到着すると・・・大魚亭からの馬車の折り返しで大魚亭に移動した人や、戻ってくる途中ですれ違った大魚亭から帰るお客さんが多かったのか・・・移住者が移動して宿が空いたからかよく判らないが休憩所付近にあったテントが1つ残らず無くなっていた・・・
「お!テントが無くなってる・・・」
ケントも驚いたようだが・・・
『とりあえず問題も解決したし・・・収穫祭を楽しもう!』
「おう!全力で楽しむぞ!!」
『まずは・・・腹ごしらえだな・・・昨日は屋台の食べ物、全然喰ってないし・・・珍しいモノを見つけたら半分ずつ食べよう!』
「良いぜ!半分な!!」
俺もケントも食べ物系の露店・・・屋台を回って珍しいモノや喰った事がないモノがないか探し始めた・・・
失敗してしまった自動馬車・・・どう考えても工業精度が低そうな現状で登場させる訳にもいきませんからね・・・
ちなみに他の道具に関してもですが・・・素材を用意できて詳しい設計図が有り熟練した職人が居ない限り製作は出来ない予定ですし、大量生産も無理だと思ってます。ま、ファンタジー補正の想念法で解決可能なら登場させるかもですが・・・




