035 レジャーシーズン (><)
第35話 レジャーシーズン (><)
ケントとの釣りから戻り、釣り上げた30cm~60cmほどの魚をイケスに放すと親父達を捕まえてケントの予想した問題、「村人に開放した場合」の準備を親父達と協議し始めた。
どうやら親父達もそこまで先は読んでいなかったらしく驚いていたが、俺たちが説明するとすぐさま理解して対応を考え始めた・・・
話し合った問題は・・・
①現状での受け入れ可能な人数が全然足りないこと
②準備や対応に俺たちだけじゃ間に合わないこと
③多数を受け入れるなら物資の輸送が急務で有ること
④受け入れ人数や対応に差を出してしまうと、不平不満が出る可能性が有ること
①は、当面狩猟団メンバーが昔の拠点に移り部屋を開放すれば1部屋4~5人受け入れら可能で、14×4で56人・・・14×5なら70人まで何とかなりそうだが・・・やっぱり家族単位での部屋割りが望ましいので、14家族の受け入れって事になりそうだ。
②は、狩猟団メンバーで何とか対応することにして・・・
③は、村に戻ったらすぐさま輸送を開始する手はずが整えられることになった。
④は、出来るだけ差が出ないように努力するしかないと確認され・・・
①に関連して、常駐管理の夫婦2組の家を優先して完成させ、使える部屋数を増やす事が決定され・・・他には大魚亭の後ろ側、イケスを挟んで空いている土地にコテージというか短期滞在用の丸太小屋と公衆トイレ、キャンプ用のテント設営場所も整備することが決定された。
休息気分でリゾートを満喫するはずが、予想外に忙しい作業が突然決まったので多少ゴタゴタはあったが概ね順調に作業が進み、公衆トイレをほぼ完成させ(後は村から便器を持ってきて設置するだけ)、冬用にしまってあったテントを一部カヤと言うか網戸に使った残りの網で通風性を確保して、子供の居る家族で使用感を試して貰ったり、キャンプ場用に炊事場を作ったりイケスで釣り堀のようなことを試して貰ったり・・・どたばたとした日々が、やっと収まったらもう家族が村へ戻る日になった。
親父と打ち合わせを済ませ、とりあえず後のことは物資の輸送の時に村の様子というか対応を見つつ準備することにして、親父達を送り出すと、俺達常駐組と準備のため残った半数の狩猟団メンバーが大急ぎで村人歓待用の準備を進めた。
1週間後、物資輸送で親父が戻ってくると・・・
「アレン・・・お前達が予想した通りかなりの数の村人がココの利用を打診してきた」
『予想通りの展開で頭が痛くなってくるね・・・』
「そう言うな・・・とりあえず大魚亭の利用はくじ引きで14家族にしたし、他の希望者は自炊でキャンプなら受け入れ可能だと説明してあるから・・・たぶん大丈夫だ!」
『判った・・・とりあえず施設を利用に来た場合の担当を決めて振り分けておけば、そんなに激しい差は出ないはずだ・・・と思う・・・』
「うむ・・・まあ、勝手のわからない村人だし・・・とりあえず、ボートの係にプールの係・・・イケスでの釣り堀にお前達の移動と管理人の家を建てる事、後は丸太小屋もか・・・」
「まだまだ忙しくなりそうだな・・・」
『まあ、刈り入れ時期になれば村人に関しては多少って言うかたぶん収まるだろうけど・・・父さん!単刀直入に聞くけど・・・ココのこと行商人や兄さんを使って結構広めてるでしょ?』
「な、なぜそれを!」
気になっていた事を良い機会だと思ったので親父を問いつめると、実にあっさり白状し・・・
『いや・・・兄さんがそれっぽい話をしてたのと・・・単なる感!』
そう・・・この親父が、自分でも褒めるような出来の施設を作って自慢しないわけがないからな・・・
「ま、まさかこんな事になるとは・・・最初の予定では考えても居なかったからな・・・」
『じゃあ、やっぱり話を広めてるんだね?』
「あぁ・・・多少なりとも人が来て村やココで金を使ってくれれば村の収入になるからな・・・」
『じゃあ、急いで料金設定も考えないとだね!』
「怒ってるんじゃないのか?」
おそるおそる俺に問いかける親父・・・
『いや・・・大変なのは確かだから・・・怒りたい気もするんだけど・・・父さんの気持ちって言うか考えも判るし・・・それに・・・もう話を広げちゃってるのに文句を言っても、愚痴になるだけでしょ?』
俺はこの一週間で、あきらめにも似た心境で現実と向き合う事に決めたし、事前に脳内シュミレートしていた事を淡々とした口調で親父と話していたが・・・
「アレン!」
そう叫ぶと・・・何を勘違いしたのか親父のヤツが急に抱きついてきて・・・
「お前がそこまで成長してるなんて・・・」
とか言いつつ、腕に力を込めてくる・・・
(違う!・・・つうか・・・空気が・・・ぐふぅ・・・)
俺は親父の抱擁というか・・・ベアハッグ(鯖折り)からの呼吸困難になり意識を手放した・・・
翌朝になって目を覚ますと、大魚亭の一室に寝かされていたようで・・・「知ってる天井だ・・・」俺がくだらないパロディーをまたもつぶやくと、その声に反応してゴバックさんが声を掛けてきた。
「おう、アレン目が覚めたか・・・まあ~アレだ・・・親父さんのことだが・・・あまりきつく責めないでやってくれないか?」
『あ~っと・・・一応状況は理解してるので、責める気はありませんが・・・』
「お!そうなのか?・・・こりゃ~本当に・・・」
『お咎め無しにするって訳じゃありませんよ!父さんには労働で償っていただきますから・・・』
「おいおい!成長も良いけどそりゃ~成長しすぎって・・・」
『ゴホ!・・・父さんの過剰な愛情表現には多少馴れてますが、今回のはちょっと・・・』
(いまだ回復しきっていないこの責任はきっちり償って貰わないと・・・)
「まあ、だよな・・・」
『ええ・・・』
あっさりと親父を生け贄に差し出す事に同意したゴバックさんと話を終えると、俺はさらに数日は安静にするように言われ・・・
(親父・・・どんだけ力を込めたんだよ・・・)
その後はお決まりの親父からの謝罪があったり、利用料金を設定したり・・・まあ、釣り堀が銅貨3枚で竿と仕掛けを貸し釣った魚は重さで販売とか・・・キャンプ場・炊事場・プールの利用は無料とか・・・ボートは半日で銅貨4枚、1日で銅貨6枚とか・・・大魚亭の宿泊は3食付きで1日1人銀貨1枚子供は半額で・・・村民に関しては全て半額以下に決定したが・・・
8月も半ばを過ぎると・・・悪夢のような忙しい日々が始まった!次々とやってくる村の住民と・・・噂を聞いてやってきた少数の行商人・・・そして・・・その人数というか利用希望者が口コミで広がっていくのだ・・・
10月に入ると・・・さすがに収穫期になり利用者もほとんど居なくなったが・・・疲れた・・・本気で疲れた・・・
嵐のような忙しさが過ぎ去った後、俺たちに残されたのは1週間は休みたい肉体と精神の疲労と金貨10枚にまでふくれあがった小銭の山だった。
とりあえず半分は全員で分配することにしたが、狩猟団メンバーが村組・大魚亭組・家事担当の奥さんで31人・・・1人あたり、銀貨16枚が地獄のシーズンの報酬になったが、メンバーの口から歓声が上がることはなかった・・・
(つうか・・・俺も疲れてたし、大金が入ってもココじゃ意味がないからな・・・)
まあ、有る程度収入も見込めるし・・・来年は管理人夫婦2組の新居を完成させて、職員用の住居を建て村からのアルバイトか王都から移住者を職員として雇うことが全員一致で決まった。
俺たちは1週間ほど本気で休息を取った後、管理人の夫婦を残し約半年ぶりに村に戻ることになった。
村に戻って大魚亭関連の収支報告と来年からの展望というか希望を寄り合いで報告した後、もう一人前と認められた新人組を合わせた狩猟団を2組に分け、通常業務である害獣駆除と秋になり身の肥えた獣を精力的に狩っているとあっという間に収穫祭がちかずいてきた・・・
「なあ、アレン・・・収穫祭になったら色々買えるな・・・」
『ん~確かに・・・でも、何か欲しいモノがあるの?』
「ん~思いつかないけど銀貨30枚以上の予算があるんだ、良いものが有れば結構高くても、買うことが出来るぞ!」
『そうだな~』
そう、新人組の懐具合は年齢の割に非常に暖かい・・・大魚亭に常駐していたので半期に一度の狩猟団の給料、春は見習いで銀貨5枚・・・秋は一人前で銀貨10枚、それに分配された売り上げ銀貨16枚・・・全員が銀貨30枚以上の予算を持っているのだ!
『まあ・・・今年も色々見て回ってそれからだね!』
俺はケントと収穫祭についての話をしながら、自警団本部へ寄り合いに参加するべく向かって歩いていった・・・確か今日の議題は、「収穫祭の準備と当番について」の話し合いだ・・・
まあ、どうせ行商人や露店商の受け入れとか会場設営や荷物の積み卸しがメインで、要は雑用係だろう・・・そんな予想をしながら寄り合いが始まったが・・・開始早々に親父から驚きの発言があり、またもや俺たちは焦り始めた・・・
「え~っと、今年の収穫祭なんだが・・・参加希望の行商人・露店などがすでに例年も倍近く商工会ギルドに参加申し込みをしている」
・・・
「後・・・収穫調査だが・・・領主も来ることになった・・・」
「「「え~~~!」」」
「「「「マジか!」」」」
「「「どうなってるんだ・・・」」」
親父はさらりと流そうとしたが、突然の領主様来訪で大混乱になる寄り合い会場・・・
「あ~っと・・・みんな静かに!少し落ち着け!」
「おら!小僧どもの方が落ち着いてるぞ!村長がまだ話してる。おちつかねえか!!」
親父とゴバックさんがみんなをなだめ、落ち着かせた後さらに話を続ける・・・




