第01話 EP00-01 今だけ妹
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
オレの名は『新実 健二』。内地では、中学校に通う中学二年生の、ごく普通の男子だ。
秋の夕刻に、住宅地のマンションの一室、玄関扉の前に立つ。普通のマンションで、やや古ぼけて、白いコンクリートの壁には小さな亀裂がある。表札に見慣れた筆跡で『新実』とあって、オレの家で間違いない。
オレは、ドアノブに手をかけようとして、迷った。
オレの後ろには十歳の女の子がいて、不安げにオレを見あげる。訳あって暫く同居することになった、訳ありの女の子である。
「……よしっ!」
意を決して、玄関扉を開けた。
「ただいま~」
日頃の中庸のテンションを心がけて、廊下の奥へと声を流した。
◇
「お兄ちゃん。おかえり~」
愛妹が、トテトテと軽い足取りで出迎えにきた。
愛妹は、かわいい。超かわいい。
ボブっぽい髪型で、最近は伸ばそうか迷ってるらしい。ちょっと癖っ毛なのが悩みだそうだ。
髪だけじゃなく服にも拘って、日頃から家の中でも、かわいく着飾ってる。今日は、袖の膨らんだブラウスにミニのジーンズスカートか。かわいい。
オレを見た愛妹が、廊下に踏みとどまって、顔色を変えた。驚き、動揺といった表情だ。
「お兄ちゃん。その子は?」
オレの背中に隠れる女の子に、円らな瞳を向ける。
オレの背中に隠れる女の子は、愛妹と比べると地味な女の子だ。ショートめのオカッパ髪で、Tシャツに短パンってラフな服装だ。小学生なら普通かな、って感じだ。
愛妹の反応は、分かる。気になるよな、当然。大好きな兄が、突然に女の子を連れ帰ってくれば。
「えっと」
オレは、考える。ここまで色々と考えてはいたが、未だ考えが纏まらない。この女の子を、愛妹に、どう紹介するか。
難しい問題だ。
伝えたい情報が、伝えてはいけない情報と絡み合う。けれど徒な守秘は、秘匿は、誤解と疑念を生む。
オレは、情報を削ぎ落とし、簡潔に纏め、意を決した。日頃の中庸のテンションを心がけて、口を開いた。
「紹介する。オレの、新しい妹だ」
愛妹が、蒼褪めて、ジーンズスカートのポケットからスマホを取り出した。
「お兄ちゃん。キモいけど、お兄ちゃんだから、面会には行ってあげるね」
◇
リビングルームのローテーブルで、愛妹と新しい妹が仲良く遊ぶ。小学校で流行っているシール帳?、らしい。
同い年の小学生女子が暫く一緒に暮らすとなれば、仲良くなるのも早いものだ。
オレは、だらしなくソファに座って、二人を観賞する。かわいい+かわいい=超かわいい。
さっきは危うく、誘拐の疑いで通報されかけた。危なかった。
なぜ、こんなことになったのか、説明すると長くなる。
◇
この世界は、人が平和に暮らす『内地』と、魔物が跋扈する『魔界』と、人と魔物が戦争する『外地』に分かれる。
内地は、科学技術が発達し、高層建築が林立し、整備されたアスファルトの道を自動車が行き交う。
外地は、科学技術が機能せず、代わりに魔法が使える。
魔界は、闇の壁の向こうにある、人類には未知の領域だ。
外地では、人の軍勢と魔物の軍勢が戦争してる。剣と魔法で、爪と牙で、領域の奪い合いをしているのである。
◇
ってことを念頭に、新しい妹を迎えるに至った経緯を説明しよう。
◇
ほんの、数時間前。
「新実 健二『心剣士』殿には、私から説明いたしましょう」
背の高い女が、精悍な声で告げた。赤髪ロング縦巻きロールで、化粧が厚く、赤いドレスを纏う、二つ名『最強の盾』とも呼ばれる高名な大騎士団の騎士団長『ロゼリア レッドローズ』だ。
オレは、外地なら最強クラスの魔法『心剣士』が使える。傭兵として軍に雇われもする。だから、そんな風に呼ばれることが多い。
場所は、明かりがランプ一個だけで薄暗い、床も壁も天井もコンクリートで窓のない、出入り口が鈍色の鉄扉一つだけの密室だ。
その密室に、立派な軍服の老人八名が、十歳くらいの女の子を囲む。強面の老人たちに囲まれて、女の子の表情は怯えてる。
ロゼリアがオレを見て、精悍な声で続ける。
「新実殿に、この女の子の護衛を依頼しますわ」
「……えっ!? 説明は!?」
オレはビックリして、思わず声が出た。
「!!!!!」
ロゼリアが、二つ名に負けぬ威圧感の双眸で、クワッッッ!!!とオレを睨んだ。
「ちっ、違うっす! 鮮やかな頬紅に見惚れて聞き逃したっす!」
オレは慌てて、露骨な言い逃れを口走った。
「それは、申し訳ないことをしました」
ロゼリアが、厚化粧、もとい、堅守な顔面を満足げに微笑した。
ここにいる軍人は、五十歳は超えているだろう爺婆ばかりだ。
ロゼリアだけは厚化粧BBA、もとい、堅守な顔面で年齢は分からない。けど、状況的に、そういうことだと思う。
単純に『年寄りの集まり』って話じゃない。軍でも高い階級、高い地位にある人たちだ。最重要な作戦の立案、決定、実行の権限を持ち得る、最高クラスの権力者たちだ。
オレは、説明を聞くまでもなく、一つの記憶を思い出す。
魔法『心剣士』は、『武器に残った強い思い』を力に変える。副次的に、その人の記憶が垣間見える。
以前に実行された、作戦名『フェニックス計画』。軍が保有する最強の超強力魔法品『滅魔の剣』を適合者に貸与し、『魔王』の討伐を命じる。
但し、『滅魔の剣』の適合者の絶対条件は『少女』だ。少女に武器を渡して魔王に特攻させるも同然の、最悪の作戦だったらしい。
かつて滅魔の剣を握ったときにオレが見た少女の記憶が、こんな感じだった。オレは、最悪の気分になった。
◇
密室から数時間後。
秋の夕刻に、住宅地のマンションの一室、玄関扉の前にオレは立っていた。
オレが頻繁に見る玄関扉に、酷似している。白いコンクリートの壁にある小さな亀裂まで、見覚えがあるように錯覚する。
……いや、そんなはずは無い。
計画の要、『滅魔の剣』適合者の女の子『静流』を、オレが護衛することになった。護衛に適した住居を用意したと、ロゼリアに案内された。
それが、オレの家なんかのわけが無い。
オレの後ろには、十歳の女の子『静流』がいて、不安げにオレを見あげる。さらに後ろには、背の高い女騎士団長『ロゼリア』がいる。
精悍な存在感に、否応無く緊張する。
オレは、玄関扉のドアノブに手をかけようとして、表札が視界に入った。『新実』と見慣れた筆跡で書かれていた。
「ここ! オレん家っすよね!?」
オレは思わず、抗議の声をあげた。
「!!!!!」
ロゼリアが、二つ名に負けぬ威圧感の双眸で、クワッッッ!!!とオレを睨んだ。
「ちっ、違うっす! 優美な下睫毛に遮られて表札を読み間違ったのかなって思って確認をっす!」
オレは慌てて、露骨な言い逃れを口走った。
ロゼリアが、満足げに微笑する。
「私も、陰ながら護衛いたします。安心して日常生活を送りなさい」
赤いハイヒールをカツカツと鳴らして、隣の玄関扉を開けて、中へと消えた。
……え? 護衛の期間中は隣の家にいる感じ?
まぁ、軍の偉い人たちの思惑なんて、考えるだけムダだ。
「……よしっ!」
オレは意を決して、玄関扉を開けた。
◇
ってことで、愛妹に誘拐の疑いで通報されかけて、今に至る。
問題が多々ある気もするが、妹が増えたみたいで嬉しい、と今は素直に喜ばしい。
心剣士は少女の夢を夢見るのか
第01話 EP00-01 今だけ妹/END
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