6.幸子、授乳で寝不足
マナミをしっかり抱きしめながら、私は心の中で決意を固めた。
──このまま五条家で言いなりになるつもりはない。
出産を終えたばかりの体は重く、まだ本調子ではない。
でも、それが何だというの? 私は五人の子を産んできた母親よ。
育児も家事も、戦場のような忙しさも、すべて経験済みっ!
あの男はミレイにとっては15歳以上年上の大人の男性だったかもしれないが、幸子からしたら30代男性なんて、まだ子どもなんだから!!
……と、決意したはずだったのに──
◆
「うみゃー、うみゃー……」
どこかで子猫が鳴いているのかな? と思うような声で目が覚める。
(おっぱい痛い)
目が覚めたといっても、まるで昨日は運動会だったかのように体が重く、眠すぎてなかなか目が開けられない。
(あー、おっぱい痛てぇ。けっこう張ってるな……)
……ダメだ。疲れすぎて考えがまとまらない。胸の張りがひどくて、結局、最後は「おっぱい痛い」に戻ってしまう。
「……奥様。こちらで母乳を飲ませましょうか?」
「いいえ……私があげるわ……」
おっぱい痛えなぁ、と思いつつ、気合を入れて体を起こした。
だるすぎて、本当はお任せしたい。
でもねぇ……現代日本で生きた幸子的には、やっぱり他の人の乳を我が子に飲ませるのって抵抗があるのよね。
母乳って、元は血液だし。
その問題だけなら、あらかじめ搾乳したものを飲ませる手もあるけど……ここで授乳せずに寝ちゃうと、おっぱいが大変なことになるのよぉぉ。
ごめんなさいマナミ……。愛するあなたのためじゃなく、母のおっぱい都合のために、がんばって母乳を飲んでください!
ぼーっとした頭のまま、胸をはだける。
そして、乳母に連れてきてもらったマナミを抱いた。
おっぱいを求めて口をパクパクさせる姿に、思わずキュンとする。
その小さな口が大きく開いた瞬間、すかさず乳首を差し込んだ。
「──────いっ!」
思わず声にならない悲鳴を上げた。
うぅ……たぶん、もうすぐ乳首切れるぅぅ。
痛みに耐えながら、乳房のしこりになっているところを指でほぐしつつ、母乳を与えた。
◆
「──お疲れ様です。
マナミ様は私が寝かしつけますので、奥様はお休みください」
どうにか授乳を終え、乳母がマナミを連れていってくれた。
私はそのまま、ベッドへと倒れ込む。
(はぁ……まだ痛い。でも、マナミが飲んでくれたおかげで少しは楽になった。次の授乳まで3時間……寝よう)
つらい。
ただでさえしんどい産後の身体に、寝不足のダメージが蓄積されていく。
でも、ミレイはかなり恵まれている。
相変わらず旦那の協力がないのは正直ムカつくけど、乳母をはじめ、マナミのお世話をしてくれる人や、私の食事を作ってくれる料理人など、使用人がたくさんいる。
私はマナミに母乳をあげることしかしていない。
第一子を妊娠したとき、「新生児には3時間に1回、母乳やミルクを飲ませないといけない」と聞いて、
「3時間おき!? 夜中にもあげなきゃいけなくて、3時間に1回は起きなきゃいけないなんて、大変じゃん!」
……って思ったけど、現実はそんな甘くなかった。
新生児って、飲むのが下手で30分くらいかかることもざらにあるし、飲み終わった後も本来ならゲップをさせてから寝かしつけをしないといけない。
という、罰ゲームのような作業が待っている。
そして、それが母乳ならまだマシ。
もし粉ミルクだったら、追加でミルクを調乳して、飲み終わったら哺乳瓶を洗って消毒しなきゃいけない。
それがないだけでも……ミレイは、恵まれている……。
でも、授乳だけでも大変だよぉ……。
そんなことを考えながら、私は眠りの底へと落ちていった──。




