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【連載版】幸子48歳、異世界転生したら出産中でした!?~後妻だったので産んだ子も連れ子もまとめて可愛がります  作者: よつ葉あき


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36.幸子、踏み出す一歩


「長屋を一棟、まるごと買いたいの。施設の近くにある空き家を、母子で住み込みながら働ける場所にしたいのよ」


男の眉がぴくりと動いた。ようやく、少しは興味を示したらしい。


「それを俺に許可してほしいと?」


「そう。正確には……あなたの資産管理上、一応通しておいた方がいいと思って」


──お金、好きに使っていいって言ってたわよね?


口には出さない。けれど、心の中ではそう思っている。


どうせ冷たい言葉が返ってくる。けれど、それでも構わない。私はもう、決めたのだから。


沈黙ののち、男は視線を逸らし、大きく息を吐いた。


「……で、いくら足りないんだ?」


「……え?」


意外な返答に、思わず気の抜けた声が漏れる。


男は鋭い青の瞳で一瞥し、呆れたように言った。


「金が足りないから、ねだりに来たのだろう?

いくら足りないんだ……まさか、お前に与えた予算をもう使い切ったのか?」


「……いえ。予算ならまだあるわ。もともと多めにもらっていたし、最近は子どもたちのもの以外、ほとんど使ってなかったから」


そう、この男がかつてミレイに言った言葉。


『金なら好きに使って、贅沢したっていい』


嘘ではなかった。

産後に落ち着いてから予算を確認したとき、その額の大きさに思わず絶句した。


私がミレイになる前──本来のミレイは着物やアクセサリーを買い漁り、旅行にも頻繁に出かけていたらしい。

それでも余るほどの金額が、毎月きっちり振り込まれていた。


そして私がミレイになってからは、ほとんど手をつけずに貯まっていた。


長屋を一棟買うとなれば、確かに大きな出費だ。

けれど、それをまかなえるだけの金が、ミレイの手元にはすでにある。


「お金なら、これまでいただいた分で十分足りるわ。ただ、大きな買い物だから──」


「与えた金で買うなら、問題ない。

あれはお前にやった金だ。好きに使え」


……そう。まあ、一応は確認しておきたかっただけ。


「長屋を建て直すとなると、業者に費用の見積もりを頼むことになるけど……事前に確認、いる?」


「……いや、興味ない」


ふーん。やっぱりね。


「じゃあ、以上です。ご報告まで」


くるりと踵を返し、足早に部屋を出ようとする。


その背に、男の無機質な声が飛んできた。


「“住み込みで働ける場所”と言ったな?

ただ住む場所を与えるだけでなく、仕事も用意するつもりか?」


足を止めて、振り返る。


「ええ。ただ与えるだけじゃ、自立にはならないわ。

私は“恵む”つもりはない。“これから”を共に掴めるよう、背中を押したいだけよ」


はっきりとそう伝えて、またドアの方へ向かう。


背後から、再び声が響いた。


「無駄なことはするなよ。世間は綺麗事では動かない」


今度は、もう足を止めなかった。言い返すこともしなかった。


ただ、心の中で静かに、つぶやく。


──それでも私はやる。

あなたと違って、“誰かのため”を諦めたくないから。


ドアを閉めたあと、私はほんの少しだけ、口元を緩めた。


大丈夫。ちゃんと、言えた。

そして、きっと、始められる。


やっと、自分の足で踏み出す一歩を。



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