27.幸子、小さな手に導かれて
元気いっぱいのその返事に、胸の奥がじんわりとあたたかくなるのを感じた。
「そう……すてきなお名前ね。サチコちゃん、会えてうれしいわ」
そう言って手を差し出すと、彼女はためらうことなく私の手を握ってくれた。
その小さな手のぬくもりは、まるで未来からの贈り物のようだった。
私たちが笑い合っていると、ひとりの女性がこちらに気づき、そっと微笑みかけてきた。
「こんにちは。ヤヨイさん、その方は……?」
「新しく来られた利用者の、ミレイさんです。
ミレイさん、こちらはサチコちゃんのお母さんのマドカさんです」
私は会釈しながら、丁寧に挨拶をする。
「ミレイです。よろしくお願いします」
「私はマドカです。よろしくね、ミレイさん」
サチコちゃんによく似た、優しい笑顔で挨拶を返してくれるマドカさん。
思わず私は、彼女のお腹に視線を向けていた。
それに気づいたマドカさんは、少し照れたようにお腹に手を添える。
「大きいって、よく言われるんです。まだ、八ヶ月なんですけどね」
「えっ、八ヶ月!?」
思わず声を上げてしまった。
そのお腹は、もう臨月かと思うほどの大きさだったから。
すると、ヤヨイさんが補足するように口を開いた。
「マドカさんは、双子を妊娠しているんです」
「まあ……!」
本当にすごい。
きっと、生まれてきたらとてもかわいいに違いない──。
そんな想像がふくらむ一方で、ふたりの命をお腹に宿すマドカさんの大変さが胸に迫り、私は自然と表情を引き締めていた。
マドカさんは、優しくお腹を撫でながら微笑んだ。
「動くんですよ、すごく。最近は夜になると、二人でお腹の中で運動会してるみたいで……」
「まあ……それは、寝るのもひと苦労ね」
胎動って、妊娠後期になると痛くて大変なのよね。
……膀胱を蹴られて、漏らしそうになったりするし。
マナミを妊娠した記憶は、幸子としては経験してないので微妙だが、幸子が妊娠していたときの記憶がふとよみがえった。
単胎でもあれほど大変だった。双子なら、きっと胎動の激しさも想像以上だろう。
「ええ、でも……元気に育ってるって思うと、それも幸せなんです」
その言葉に、私は自然と笑顔になっていた。
お腹に命を宿すというのは、なんて強くて、そして美しいことなのだろう。
……だけど、「幸せ」と微笑むマドカさんの目の下にはクマがあり、少し疲れているようにも見えた。
「あの……」
「お母さん!」
私の声は、サチコちゃんによって遮られた。
絵本を両手で大事そうに抱え、にこにことお母さんを見上げるサチコちゃん。
その様子に、マドカさんはため息をついた。
「サチコ……今、お姉さんとお話ししてたでしょ?」
「うんっ! あのね、お母さん。サチコね──」
元気よく返事をしたけれど、話はまるで聞いていない。
(小さい子って……自分が話したいことで頭がいっぱいで、人の話なんて聞いちゃいないのよね)
私はそんなサチコちゃんを、微笑ましく見つめていたが──
「サチコ、いつも言ってるでしょ……お話は順番よ。
すみません、さっき何か言いかけてましたよね?」
「え、はい。でも……」
言いかけたものの、「大丈夫」と返そうとしたそのとき。
「ねえ、お母さん! サチコねっ──」
その瞬間だった。
「サチコっ!!」




