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【連載版】幸子48歳、異世界転生したら出産中でした!?~後妻だったので産んだ子も連れ子もまとめて可愛がります  作者: よつ葉あき


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26.幸子、名前を聞いて立ち止まる


「……清掃は行き届いてるのね。でも、かなり老朽化してるわね」


率直な感想を口にすると、ヤヨイさんは苦笑を浮かべた。


「はい……なんとか掃除や修繕は手分けして続けているんですが、やはり限界があって。

予算も人手も、どうしても足りなくて……」


その言葉に、私はふと天井を見上げる。

この場所で、子どもたちが毎日を過ごしているのかと思うと──胸が締めつけられた。


「危ない箇所は事前にチェックして、何かあればすぐ対応するようにはしています。

でも、正直……いつどこが壊れてもおかしくない状態です」


私は静かに頷きながら思った。

この建物は、ただ古いだけじゃない。

「それでも守りたい」と思った人たちの手で、必死につなぎとめられてきた──そんな場所なんだ。


軋む廊下を、私はヤヨイさんの後ろについて歩く。

やがて、大きな扉の前で彼女が立ち止まり、口を開いた。


「ここが一番広い部屋です。多くの利用者はここで過ごしています」


私は扉をまっすぐに見つめ、静かに頷いた。


「じゃあ、ここからは──私のこと、“ミレイさん”でお願いね?」


人差し指を口の前に立て、声をひそめて笑うと、

ヤヨイさんは「はいっ!」と明るく応えてくれた。


ここから先、私は“五条家の夫人”ではない。

五条家の一使用人であり、一利用者の──ミレイだ。


『おそらく、五条家の奥様が来るとなると、皆さんが緊張してしまうと思います』


──というヤヨイさんの助言を受け、施設の人たちには私の身分を伏せることにしたのだ。


「さあ、行きましょう、ヤヨイさん」


「──では、開けます」


その声とともに、目の前の扉が音を立てて開かれた。


扉が開いた瞬間、ふわりと温かな空気が流れ出す。


中は、思ったよりも静かだった。

けれど、その静けさの中には、確かな命の息吹が満ちていた。


部屋のあちこちに、小さなグループができている。


毛布を広げた床の上では、おもちゃを手にした幼い子どもたちが遊び、

赤ちゃんをあやす、まだ若いお母さんたちの姿も見える。


壁際のソファには、お腹がふくらみが目立ち始めた妊婦さんが腰かけ、

穏やかな口調で、隣のお母さんと言葉を交わしていた。


笑い声、泣き声、ささやき声──

そのどれもが、どこか遠慮がちで、それでも確かに“ここに生きている”音だった。


私はゆっくりと一歩、部屋の中へ足を踏み入れる。


そのとき、ひとりの女の子と目が合った。


彼女はじっと私を見つめたまま、ぽてぽてと小さな足取りで近づいてくる。

髪は少しぼさぼさで、袖が長すぎるシャツを着ていたけれど──その瞳はまっすぐだった。


「こんにちは!」


元気に挨拶してくれた女の子に、思わず笑みがこぼれる。

私はしゃがみ込み、目を合わせた。


「こんにちは。あなたのお名前、教えてくれる?」


「サチコ!」


その声を聞いた瞬間、私は思わず目を見開いた。



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