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公爵令嬢は、聖獣公爵に愛される  作者: ハナショウブ
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未来へ

クリスタラーゼ城の奥にあるかつての当主たちが眠る墓は、いつ来ても静かな場所だ。

花束を抱えたライラは、1つの墓の前にその花束を置いた。

「もう来ることはないと誓っていたけど、やっぱりもう一度だけ来ることにしたの」

返事はない。墓に話しかけても言葉が返ってくることはないのだ。それはわかっていてもあえて声に出して話している。その方がけじめがつくような気がしたから。

「結婚したのよ。それもルーク=クリスタラーゼ公爵と」

つまり公爵夫人になったのだ。母と同じだと思ったが、すぐに違うのだと思いなおした。

ルミラ=クリスタラーゼは書類上の公爵夫人ではあったが、聖獣に認められた正式な夫人ではなかった。偽物だったのだが、前公爵が勝手な勘違いをして公爵夫人になった。

聖獣は敢えてなにも告げずに放置していたのだが、それはライラをクリスタラーゼに留めておくためだった。それを考えれば母は公爵夫人でいることは問題にならなかったようだ。

ライラをルークの花嫁にと明かさなかったのも、まだ先のことだという認識が聖獣にもあったのだろう。何も告げずにただ見守っていたのだ。

「聖獣の怒りの理由は、私を傷つけたことが原因だったそうよ」

将来の公爵夫人として定めていたライラは、あの夜に公爵に襲われた。

もともと見放されていた義父だが、ライラを傷つけようとしたことを知った聖獣の怒りを買ったのだ。間接的に助けられたのだと思っていたのだが、正確にはライラを助けるために聖獣は義父に鉄槌を下していた。

花嫁の儀式の後でライラが将来の花嫁として定められていたのだと知らされた。ルークがライラに必ず惹かれるのだと確信していたことに驚くしかなかった。

その後、別の時にルークが聖獣の間に入ると、ホルケウはライラが襲われた夜の話をルークに伝えたそうだ。そこで花嫁に手を出そうとしたことが火事のきっかけであったことが判明した。

「私はずっと聖獣に加護されていたのね」

見守るだけだったため何も気づけなかったが、聖獣は10年もの間ライラを見守り続けていたのだ。

「今でもよくわからないけど、護られているみたいよ」

それはルークが聖獣から聞いた話を伝えてくれているからそうなのだと思う程度だ。

「今度が最後。本当にもう来ることはないわ。ただ、どうしても伝えておこうと思ったことがあって来たの」

言いたいことがあったからここへ来たのだ。別れを告げに来た時とは状況が違う。

「私、幸せになるから」

ずっと借金の事ばかり考えて過ごしてきた。ルークの将来を、クリスタラーゼの未来を守れるように、クリスタラーゼの血筋ではない、連れ子というおまけで暮らせているだけだと悲観していた。

だがそれも終わりだ。完済とまではいかなくても借金問題は解決に近づいている。

ルークの妻となった今、ライラも共にクリスタラーゼの未来を背負う一員となった。

「聖獣に認められた公爵夫人として、ルークのことも幸せにするつもりよ」

学園に押し込まれてほとんど実家で過ごせなかったルーク。これからはクリスタラーゼの当主として日々を過ごしていくことになる。そんな彼の支えとなり、少しでも幸せを感じてほしいと思っている。

「さようなら」

これが本当に最後だ。

静かな墓石にそれだけ告げると、ライラは背を向けて歩き出した。振り返ることは決してない。今度こそ決別することになる。

「終わったのか?」

まっすぐに歩いていると、墓参りを邪魔しないように少し離れたところにいたルークが近づいてきた。ライラの満足そうな顔を見てほっとしたように微笑んでいる。

城と当主の墓の間には森が広がっている。一本道なので迷子になることはないが、墓参りに行きたいと唐突に言い出したライラに、ルークは何も言わずについてきてくれた。

「うん、もう終わり」

何を話したのか聞いてはこない。きっと予想がついているのだろう。

「それじゃ、帰ろう」

手を差し出されて、その手を取ると2人はもと来た道を歩き出した。

「新年の準備も順調でよかったわね」

歩きながら今取り掛かっている儀式の調査について口にした。

それほど難しいことはなさそうで、調べものにも焦りはない。

「それは問題ないが、もう1つ調べておいた方がいい儀式があった」

何かを思い出したようにルークが言うと、ライラは少しだけ慌てた。

「急ぐの?」

新年の儀式後に急ぐ儀式はなかったはずだ。一体何を調べればいいのだろう。

「急ぎはしない。早くても10か月くらい先だ」

「随分と余裕があるのね。それに期限が無さそうね」

早くてもと言っていたのでもっと先になる可能性もあるようだ。

「こればかりは先が読めない。まぁ俺たちの努力次第でもあるだろうが」

「どういうこと?」

よくわからなくて首を傾げると、ルークはこちらを見て微笑んだ。その表情がとても優しい。そしてライラを見たかと思うと、視線が下へと動いていく。

ちょうどお腹の当たりで視線が止まる。それを追ってライラも自分のお腹を見下ろした。

「・・・・・あ」

ルークが何を言いたいのか気が付いてしまった。それと同時に顔が一気に熱を持ったのがわかった。

「ま、まだ先だと思うわよ」

今のところそれらしい兆候はまだない。

子供が生まれた時にクリスタラーゼの子供として聖獣から祝福を受けることになる。その時の儀式についていつかは調べなければいけないだろう。

「聖獣に認められて祝福を受けているから、焦らなくても大丈夫だろう」

何代も続いてきたクリスタラーゼ家は、聖獣の祝福を受けて結婚した公爵夫婦は必ず子供を授かってきた。それが聖獣のおかげなのかは明確なことは言えないのだが、ルークはそれほど悩んではいないようだ。

「そうね。こればかりは焦ることではないわ」

今は自分たちの生活を大切にしていくことが大事だろう。

腕にしがみ付くように寄り添えば、すべてを受け止めてくれる。

始めて彼と会った時にはこんな日が来るとは思わなかった。一緒に暮らすことができなくて、ルークが卒業して戻ってきても共にいる時間は少ないと思っていた。いつかライラが結婚することになって出て行くまで家族の一員でいられればいいのだと思っていたが、聖獣はライラを手放すつもりがなかった。

「私の愛情はルークに追いついてきているかしら?」

一緒にいる日々を増やしていくことでライラの知らなかったルークを知っていく。その中で愛おしさを育んでいるつもりだが、まだルークの愛情に追いつけていないだろうか。

「まだまだだろうな」

苦笑しながらルークが答える。

「君が俺に好意を向けてくれる分、俺もライラに惹かれる気持ちは大きくなっているからな」

「それじゃ、いつまで経っても追いつけないってことじゃない」

不満を口にすれば額にそっとキスされる。

「追いかけて来ればいい。俺はいつまでも待っているから」

待っているというより先をどんどん進んでいるような気がする。それでもライラが立ち止まってしまうことがあればきっと彼も立ち止まって待ってくれるのだろう。

「なんだかイタチごっこみたい」

一生ルークの気持ちに追いつけないのかと思うと途方に暮れそうだ。

「そんなことはないさ。いつか同じだけの気持ちになれる時が来るはずだ」

その自信はいったいどこから来るのやら。

それでも呆れることはない。

森の中を続いていく一本道。その先はクリスタラーゼ城に続いている。

この先もずっと彼とともに歩んでいく場所だ。

遠くで遠吠えのような声が聞こえた気がしたが、それもきっと気のせいだろう。

2人はそれ以上言葉を交わすことなく、お互いの体温を感じながら聖獣が許してくれた領地で暮らしていくことになる。


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