騎士団長の判断
ルーク=クリスタラーゼが当主となってから、騎士団の士気が上がったことは肌で感じられていた。
騎士団長を務めているクリフは騎士団全体を把握しているので、その差がすぐにわかった。
前当主のディックの時は数年前から騎士の給金が少しずつ減っていき、必要な武具や武器の新調もされなくなっていた。当然騎士たちの間でも借金があることが噂になっていた。
このままでは騎士団の存続も危ういのではと誰もが思い始め、新しい仕事を探して辞める者も出ていたくらいだ。それでも残ってくれていた騎士たちは、ライラが密かに動いていることを知っていた。減らされた給金には届かなくても、時々彼女がこっそりとクリフに宝石などを換金したと思われる現金を持ってきていたのだ。
「足りないものがあったらこれで補って」
まだ成人もしていない彼女が持ってきたときは驚いた。どこかで借金のことを知ったライラは少しでも騎士たちの助けになればと動いていたようだ。
派手に使えば当主にばれてしまう。そのため少しずつ時々騎士たちの食事を豊かにしたり、壊れた物の修理代に使わせてもらっていた。
そんなライラがアスルの心ない言葉に傷ついて姿を消した時は、王都にいたためライラのことをほとんど知らない部下とはいえ、怒りのままに騎士団から追放してしまおうとさえ思った。だが、当主であるルークは追い出すのではなくライラの捜索を指示していた。
当主の判断なら仕方がないと思ったが、他の騎士たちと一緒に動くことだけは避けることにしていた。そうしなければ事情を知った騎士たちからの反感を買うことになり、捜索どころではなくなっていただろう。
そんな中、1人で探していたアスルがライラを見つけてきた。それ以上に、無事に戻って来たライラがアスルを自分の護衛騎士に選んだことが驚きだった。
ルークもライラも人が良すぎるのではないかと思ってしまう。
「それで、ライラお嬢様の側にいて気が付いたことはあるのか?」
聖獣祭の準備で城内が忙しくなると、ライラは図書室に籠るようになって調べものをするため、護衛騎士が常にいる必要がなくなった。その時間はアスルも騎士団に合流して訓練をする。
1日の仕事を終えてアスルを呼び出したクリフは、ライラと接するようになった彼の心情に変化があったか確かめてみた。
「あの方は、公爵夫人とは違いました」
それがアスルの率直な感想だったようだ。深い反省も込められている言葉に、ちゃんとライラを見定めていることがわかる。
「ルーク様はちゃんと夫人とライラ様を分けて見ていたようですが、自分は贅沢を好む後妻とその連れ子として一括りにしていました」
それがどれだけ愚かなことだったのか、アスルはちゃんと理解している。
「ライラ様の心使いで護衛騎士をすることができています。これからもしっかりと務めていくつもりです」
「しっかり心掛けることだ。周りもお前の動きを常に評価していると思え。皆ライラお嬢様の味方だ。下手なことをすれば簡単にここを追い出されることになる」
「はい」
ライラの努力を使用人も騎士たちも知っている。だからこそアスルの行動を未だに許せない者たちはいる。彼が少しでもライラに不快な思いをさせたのなら、すぐにでもルークに訴えてここから追い出すつもりでいるだろう。
「私自身もライラ様寄りだからな。下手な発言や行動は騎士団から追放するつもりだ」
最後にクリフからの忠告もアスルはしっかりと前を向いて受け止めていた。
今の彼なら問題はなさそうだ。
今後もライラの護衛騎士として精いっぱい務めていくだろう。
不安材料がなくなったことをクリフは心から安心するのだった。




