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公爵令嬢は、聖獣公爵に愛される  作者: ハナショウブ
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追い出し

その夜。

夕食を部屋で済ませたライラは、アンナが食器を片付けてルルナと交代してくるまで部屋に届いた荷物の整理をすることにした。

やっと手元に戻ってきた物にほっとしつつ、無事だったものを確認していく。

城の中で日常的に着る簡素なのだが全体的に奇抜な色合いのドレスと、途中になっている刺しゅうが入ったバスケット。とりあえず持ってきてほしい物は揃えてもらえた。

クローゼットの中はほとんどそのままの状態だったので問題なく運んでもらえたようだ。

明日からは自分の服を着られる。

借りていた服は洗濯してもらって返すことになるが、ライラから何かお礼が出来ればと思っていた。

「今できるのは刺しゅうくらいよね」

時間はかかるが服を貸してくれた侍女たちに刺しゅう入りのハンカチがいいだろう。それくらいしかライラができるお礼がなかった。

そうと決まればさっそくバスケットの中を確認するため蓋を開けると、途中まで刺していたハンカチが出てきた。

「これ、どうしよう」

渡す相手は決まっていた。彼に次に会う時までに完成させようと思っていたのだが、いろいろなことが起こり過ぎて完成させられずにいた。

今完成させたとしても渡せるタイミングがあるのかどうかわからない。

「とりあえず保留にしましょう」

今は侍女たちへのお礼を作る方が先だ。

そう考えて糸の確認をしていると、扉をノックする音が聞こえた。

ルルナが来たのだろうと思って返事をすると、扉を開けて入ってきたのは予想外の人物だった。

「お話があります」

言葉は穏やかなのだが、その視線は敵意をむき出しにしたように鋭い。

アスル=ビウレットがなぜ部屋にやって来たのかわからなくて、ライラは糸を持ったままその場に固まってしまった。

「な、なに?」

部屋に2人だけという緊張感から声が硬くなる。それでもなんとか振り絞った言葉に、アスルは鋭い視線を向けてきた。

心臓が痛いと思うくらいに激しく動いているのがわかる。

「単刀直入に言います。怪我が治り次第この城から出て行ってください」

扉の前で仁王立ちになっている彼は冷たい声でそう言ってきた。

息が止まりそうになるのを意識的に呼吸することで肺の中に空気を送り込んでいく。

吐き出すのと同時に言葉も出した。

「どうして」

ルークが言うのであれば理解できる。当主となった彼が血の繋がらないライラをここに置いておけないと判断したなら従うしかないと思っていたが、出て行けと言っているのは従者のアスルだ。

「そんなこともわからないのか」

明らかに蔑むような視線と言い方に、心臓が大きく跳ねた。

「自分がどういう立場なのか理解できていないとは」

吐き捨てるような言い方に、持っていた糸が床に落ちた。

「私の、立場・・・」

「後妻の連れ子であるあなたは、クリスタラーゼとは関係ない存在だ。ここにいられたのは、公爵夫人がいたからだ」

そんなことは言われなくても理解している。クリスタラーゼではないライラがずっと城にいられるとも思っていなかった。

自分の今後を考えないといけないこともわかっていた。

反論しなければいけなかったのだが、喉の奥に声が張り付いて口を開いても声が出てこない。

そんなライラに対して、アスルはさらに言い続けた。

「夫人のようにルーク様を誘惑でもして居座り続けるつもりでいたのか?そんなものにルーク様がなびくわけがない」

この男は何を言っているのだろう。

ライラがルークを誘惑するなどありえない。

「ルーク様を追い出して豪遊していたようだが、当主が変わったんだ。もう好き勝手にできると思うなよ」

豪遊した覚えはないが、母親の生活ぶりは学園にいた彼の耳にも入っていたのだろう。母親の行動が娘も同じことをしていると考えたのかもしれない。

呼吸が荒くなってきた。胸を押さえて俯くと瞼を強く瞑る。そうしなければ涙が零れてしまいそうだった。

「ここに来て儚げな演技か?それで同情を引こうとしても無駄だ」

どうしてここまで鋭い言葉をライラに刺してくるのだろう。ライラがルークやアスルに何かしたとは思えない。

彼の言葉を聞いていると、母親がルークを追い出してクリスタラーゼの財産を散財していたから、その娘であるライラも同罪だと言っているように思えた。

「私は・・・」

誰も助けてはくれないぞ。

夢で聞いた声が耳の奥でこだました。

胸の奥がざわめく。

「怪我をしたのは本当のようだが、いつまでも居座ろうとせずにさっさと出て行け。話は終わりだ」

突き放すようにそれだけ言うとアスルはそのまま部屋を出て行った。

1人残されたライラは静まり返った部屋で、荒い呼吸をしながら近くにあった椅子によろめきながら近づいていく。何とか座ると胸に溜まったものを吐き出すように息を吐いた。それと同時に涙が頬を伝う。

「私は・・・」

もうここにはいられない。いつかは出て行かなければと思っていたが、それは先の話ではない。

顔を上げると刺しゅう用のバスケットが視界に入った。

途中まで仕上げたハンカチがその中に入っている。あれはもう仕上げることはないだろう。

侍女たちへのお礼もできそうにない。

残念な気持ちとすべてを諦めた気持ちがない交ぜになって、ライラは静かに涙を流すことしかできなかった。


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