消えたライラ
日に日に体調が回復していくライラを見ているとこちらも嬉しくなるのを感じていた。
彼女の母親は公爵夫人になると、途端に物を買いあさり、立場が上になったことを示すように使用人たちへ指示を出していた。
ルルナが侍女として城で働くようになったのは4年前からなので、夫人の再婚直後は知らない。それでも先輩侍女からはいろいろと話を聞いていた。
そんな中で娘のライラは公爵令嬢になったからといって、傲慢な態度を取るような子供ではなかった。
いつも明るく使用人に接してきて、興味が湧くと庭師だろうと料理人だろうと目を輝かせて尋ねてくる女の子だったそうだ。
ルルナが専属侍女に選ばれた時も、同じ目線にいるかのように接してくれていた。どこかの貧乏貴族の血筋らしいが、ほとんど平民と同じ環境で育ったため、貴族令嬢らしさがあまり感じられなかった。
それでも成長していくと、公爵令嬢としての立ち居振る舞いはしっかりしていた。
ルークのように学園に行けなかったため、家庭教師に教育してもらったが、持ち前の好奇心でいろいろなことを吸収していったと聞いている。
そんな彼女が火事を境に怪我をして、何日も寝たきりになると、あのお嬢様かと思う程憔悴した姿に皆が動揺を隠しきれずにいたものだ。
起き上がれるようになってリハビリを一生懸命取り組むようになると、その姿は今までのライラお嬢様のようにも思えたが、時々何かに怯えるような表情をしたり、暗く沈んだ姿を見ることもあった。
明らかに何かを1人で抱えているのはわかったが、アンナと相談してライラから話してくれるまで待つことに決めた。無理に入り込もうとすると、今までの信頼を失って心を閉ざしてしまいそうな危うさがあるのがわかっていたからだ。
「もっと心を開いてもらえるような何かをしないといけないかしら」
火事の日に部屋ではなく外で発見されたライラ。彼女の部屋にはなぜか前当主がいて、火事に巻き込まれていた。何が起こったのか想像してしまうが、おそらくライラは何らかの真実を持っているはずだ。
「詮索は駄目ね」
頬を軽く叩いて考えを切り替える。
部屋に到着してノックすると返事がなかった。
夕食も済ませてしまったので、疲れて寝てしまったのかもしれない。
もう一度ノックすることはやめて、そっと扉を開けた。
カーテンが閉められた部屋は星明りを入れることがなく、明かりとなるランプも付けられていなかった。
ライラの部屋には明り取りの魔法石が置かれていない。
あれは高価なものだからという理由で安価なランプをライラ自ら使っているのだ。
真っ暗な部屋にルルナは違和感を覚えた。
「お嬢様?」
声を出してみたが返事はない。それよりも人の気配を感じなかった。
嫌な予感がして、急いでカーテンをすべて開けて部屋の中を確認した。
客間を間借りしている部屋にはやっと運び込まれたライラの服が置いてあり、テーブルの上には刺しゅう用のバスケット。そして、テーブルの足元に打ち捨てられるように未完成のハンカチが落ちているだけで、そこにライラの姿はなかった。
「お嬢様!」
叫びに近い声でもう一度ライラを呼ぶが返事はない。
備え付けのクローゼットも開けたが彼女が隠れている気配もなかった。
「どうして」
別の場所に出かけただけかもしれない。一瞬そんな考えがよぎったが、車いすはそのままになっていて、違うという直感があった。
「さ、探さなきゃ」
上司である侍女長はまだ戻ってきていない。知らせるなら執事長だろう。
急いで部屋を出たルルナはベッドの上に走り書きで書かれた置手紙に気が付けなかった。
『あとは、お願い』
もう一度部屋の確認をするためにやって来た執事長がその手紙を発見するまで、主を失った部屋は静かに夜を迎えるのだった。




