045 魔力トレーニング(上)
森の中は木々の枝葉で日差しがさえぎられ、涼しい風が吹いている。
モンスターが出現する危険はあるが、街道に比べて過ごしやすかった。
「あっち、に……ホーンラビット……3体」
「おっけー!」
額に角がひとつ生えた兎型のEランクモンスター。
討伐依頼対象のひとつだ。
もちろん、ディズの相手にはならない。
3体とも手刀一撃で頭部と胴体が切断されており、死体は綺麗なものだ。
ホーンラビットは角、肉、毛皮と身体の大部分が買い取り対象だ。
マジック・バッグに死体をポンポンとしまい込んでいく。
内部の時間が経過しないから、新鮮なまま持ち運べる。
普通のEランク冒険者だと、こうはいかない。
マジック・バッグは高額なので、彼らには手が届かない。
なので、通常は解体して必要部位だけを持ち帰る。
解体はそれなりの知識と経験が必要となる作業だ。
『冒険者入門』には解体の仕方も載っていたけど、ディズはどうか知らないが、俺にはサッパリだ。
マジック・バッグがあって、助かった。
その後も依頼対象モンスターを必要数だけ倒しつつ、目的地にたどり着いた。
依頼対象モンスターがなかなかいなかったので、ここまで来るのに1時間近くかかってしまった。
「けっこう……時間……かかっ、た」
「なに言ってるの。普通だったら、一日がかりの依頼だよっ」
「そ、う……なの?」
「うん、こんなに早く終わったのはロイルの規格外な探知魔法のおかげだよっ」
「そ、う」
この場所は直径100メートルほどの広い空間だ。
木は一本も生えておらず、雑草ひとつすら存在しない剥き出しの更地だ。
障害物はなにもない。
なんでも、昔、とあるSランクパーティーがドラゴンをおびき寄せて戦うために切り拓いた場所だそうだ。
熾烈な戦いの末、そのパーティーは無事にドラゴンを討伐したが、魔力の残滓と竜の血によって汚染され、ここは草木が生えない不毛の地と化してしまったのだとか。
冒険者もモンスターもあまり寄りつかないらしく、実際、【世界を覆う見えざる手】で調べても、付近に反応はない。
「へえ、思ってたよりいい場所だねっ」
たしかに、ここなら魔法で地面に穴を開けたり木をなぎ倒したりしても問題ないだろう。
トレーニングにうってつけだ。
「お昼まで2時間くらいかあ」
「う、ん」
「それまでには戻ってくるよっ。頑張ってねっ」
「う、ん……がんばる!」
ディズはもうひとつの目的のために、森の中へ踏み入っていった。
俺も自分の目的を果たそう。
さあ、トレーニングの時間だ。
課題は魔法の出力コントロール。
【すべてを穿つ】でダンジョン壁に穴を開けたり、【絶対不可侵隔絶空間】で向かってきたモンスターを消滅させたりせずに済むようになるのが目標だ。
――よしっ、頑張っていこうっ!
どうやってトレーニングするか?
自分でも考えたし、ディズとも相談した。
それを順番に試していこう。
まずは――もっともお手軽な方法だ。
俺はマジック・バッグから腕輪を取り出す。
魔力封じの腕輪だ。
ギルドに向かう前に買ってきたもので、金色の禍々しいデザインをしてる。
少しためらわれるが、腕にはめる。
店のオヤジの話では、一定以上の魔力は吸収してしまうそうだ。
魔具技師が魔具作成の際に繊細な魔力操作をするために使ったり、犯罪者が魔法を使えないようにしたり、という使い方をするらしい。
俺の課題である出力コントロールにぴったりの腕輪だ。
アイテム任せではあるが、これで上手くいけば話が早い。
さっそく試してみよう。
出力は最小限にして。
念のために真上に向けて――。
『――【すべてを穿つ】』
上空に飛んでいく魔弾。
いつもより、はるかに弱体化されている。
これなら、ダンジョン壁に穴を空けることもないだろう。
腕輪の効果は想像以上だった。
快哉の叫びを挙げたいところだが、ただ、ひとつ問題が――。
俺は地面に視線を落とす。
そこに散らばるのは、砕けて粉々になった金色の粉末。
役目を果たした腕輪は、お亡くなりになられた……。
高かったのにっ!
門番時代の年収以上だったのにっ!
いくら有効だとは言え、これを使い捨てアイテム扱いするわけにはいない。
伯爵資金でも、すぐに底をついてしまう。
やっぱり、安易な方法はダメだ。
地道にトレーニングするしかない……。
次回――『魔力トレーニング(中)』




