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100 魔眼のバロル9:獣化

『――【絶対不可侵オムニノ・ノモレスト・遷移空間(トランジ・ロゥクス)】』


 バロルの攻撃がかすったヴォルクに、急いで障壁を張る。

 この戦いが始まってから、何度かけ直しただろうか。


 バロルにも少しずつダメージは蓄積しているが、どれも有効打とは言いがたい。

 それに対し、こちらは俺の障壁でなんとか致命傷を避けているといった押され気味の状況だ。


 有効な手はなく、いたずらに時間が経過し、俺の魔力は確実に減っていく。

 いつ切れるかわからない吊橋を渡っている気分だ。

 焦燥感にかられ、つい、攻撃したくなる。


 だが、そのたびに、ディズが首を横に振る。

 まだ、我慢しなければ。

 やれることがあるのに耐えなければならない状況がこんなにもしんどいとは思わなかった。

 俺は拳を硬く握りしめ、焦れる気持ちを押さえつける。


「チッ、このままだと無駄にロイルの魔力を消費するだけだ……」


 ヴォルクの顔に焦りが浮かぶ。


「おう、アレ、いくぞ」


 ヴォルクの言葉に『紅の牙』の三人が頷く。


 サンディが切り札の準備に取りかかっているのと同様に、『紅の牙』の面々にも切り札がある。

 獣人ならではの、取っておきの切り札が。


「ディズ、ロイル。後は任せたぜ。狙いは右足だ」

「「「応ッ!」」」

「俺たちの最後の切り札。ぶちかましてやるぜっ」


 ヴォルクたち四人は目配せし、頷き合う。


獣化ビーストフォーム――狼』

獣化ビーストフォーム――熊』

獣化ビーストフォーム――狐』

獣化ビーストフォーム――蜥蜴』


 彼らの身体が光りに包まれ、その姿を変える。


 ――獣化ビーストフォーム


 一時的に祖先の獣の姿を取り戻す獣人固有の能力。

 これが彼らの切り札だ。

 昨日、見せてもらった俺はその力を知っている。


 ヴォルクは赤狼となって、地を駆ける――。


 オルソは黒熊となって、地を揺るがす――。


 ルナールは銀狐となって、地を舞う――。


 ラカルティは緑蜥蜴となって、地を這う――。


 四体の獣がバロルの足元に殺到する。

 噛みつき、引っ掻き、殴り、尾を打ち付ける。

 攻撃は右足に集中している。


 バロルが殴りつける拳を華麗にかわし――。

 踏みつける足を殴り払い――。


 その隙をついて、確実にダメージを与えていく。

 さっきまではかすり傷程度しか与えられなかったが、今は違う。

 バロルの足はズタズタになり、赤い鮮血がどくどくと地に垂れる。

 その足は今にも千切れそうだ。


 そして――。


 オルソの組んだ両腕での横殴り――それが決定打となった。


 くるぶしより少し上、そこでバロルの足が切断された。

 足首より先を失ったバロルはバランスを崩し、地に膝をつける。

 この戦いで、初めてバロルをひざまずかせることができた。


 それと同時に、四人の獣化が解け、元の姿に戻った。


「やったか?」


 ふらつきながらヴォルクが問う。

 今見た通り、獣化は通常の何倍もの能力を発揮する。

 だが、万能というわけではない。

 使用時間に制限がある上、獣化が解けた後は、しばらく本来の半分ほどの力しか発揮できなくなる。

 まさに、切り札だ。


 片膝をついたバロルはギロリとヴォルクを凝視し、目を大きく見開き、歯が見えるようにくちを開いて、不気味に嗤う。


「なっ!」


 ヴォルクの声と同時に、バロルの拳が振りぬかれ――ヴォルクは宙高く飛ばされた。

 続いて、オルソが、ルナールが、ラカルティが――大きな拳に殴り飛ばされる。


 高く打ち上げられた四人の身体は、激しく地面に叩きつけられる。

 障壁は簡単に破壊された。

 攻撃の威力を防ぎきれず、ダメージが通っている。


 四人ともすぐには動けない。

 低いうめき声だけが聞こえた。


 俺は慌てて――。


『――【大いなる生命の息吹グランディス・ヴィータ・スピィリートゥム】』


 ――四人に回復魔法をかける。


 傷は見る見るうちに癒えていく。

 なんとか立ち上がろうとする彼らを見て、俺は安心した。


「しぶといね」

「う、ん」


 ディズと顔を見合わせる。

 『紅の牙』の切り札でもバロルを止めることはできなかった。

 かくなる上は、俺の切り札を――。


 ディズが頷いた。

 俺はバロルを見上げ、魔力を練り上げていく――そのとき。


「師匠……用意…………できま……した」


 そうだ、俺たちにはもう一枚切り札があったんだ。

次回――『魔眼のバロル10:極大魔法』


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