80:戦闘中に伝説級のアイテムを爆買いしてみた
田助のスマホに着信があったのは、レストランでの食事から数日、廃病院ダンジョンの住居部分で、アンファを膝に乗せてまったりしていた時だった。
『山田様、例の肉のVIP向け価格設定が功を奏しまして、100グラム数千万円——いえ、ものによっては億単位での取引が成立しています……!』
スマホの向こう、道本が興奮した声を響かせる。
最初はそんなこともあったなあ……などと思っていたのだが、告げられた内容に田助の理解は追いつかない。
「お、おい、道本、冗談はやめてくれ。いくらなんでも億は——」
『冗談ではございません! それほど山田様がこの道本に預けてくださったものが素晴らしいということなのです!』
いや確かにモンスター肉は美味かったけども!
『金に糸目をつけず、激しい肉の争奪戦を繰り広げているVIPたちの間では、このような肉を提供してくださっている山田様に、心から感謝している次第です!』
もちろん、田助の存在を匂わすようなことは一切漏らしていないから、安心してください、道本が続ける。
『昨日までの取引分を山田様にお渡ししたいので』
ということで、田助は道本とのいつもの面会場所である、衣子の祖父、大杉正和の屋敷へと赴いた。
そこで田助が見たものは、山のように積まれたアタッシュケース。
その数、100個以上。
「これって」
「一つにつき1億円だ」
正和の言葉に、田助は、
「なるほど。100個以上あるってことは……え、100億円!?」
「これでもまだほんの一部でして」
ニッコニコの道本である。
「さすがにそれだけの現金を今すぐ用意するというのは難しく、今はとりあえずこの程度でお許しください」
「いや、この程度なんてレベルじゃないんだが……」
田助はただただ圧倒された。
現金をすべてアイテムボックスに収納して、廃病院ダンジョンの住居部分に帰ってきた田助は、しばらくの間、呆然としていた。
「ねえねえ、いくらになったの!? 私にも少し分けなさいよ!」
図々しいことを言うシャルハラートである。
「……100億」
「え?」
「だから、100億。……いや、100億以上だった」
「そ、それって……プリン何個買えるのかしら……?」
プリンとか出てくるあたり、どうやらシャルハラートも衝撃を受けているようである。
今はこの程度と道本は言っていたが、実際、モンスター肉の売上は天文学的な数字になっているという。
それが全部が自分の金?
え、マジで?
ここでようやく田助が覚醒した。
「これだけあったらダンジョン堪能し放題間違いなしだろ!?」
装備の購入?
いや、装備はもうすでに最強クラスだ。
……まあ、探せばいくらでもあるが、今はこの装備がしっくり来ている。
武器はそもそも真・断ち切り丸があって、新調するつもりはまったくないし。
じゃあ、どうする?
消耗品とか使い捨てアイテムのグレードを極限まで上げるのはどうだ?
これまでは高価すぎて、いくらダンジョンを堪能するためとはいえ購入を躊躇ってきたが、
「今の俺に不可能はない……!」
田助はアンファをそのまま抱きしめると、勢いよく立ち上がる。
「田助様、ダンジョンですね? 私もお供させていただきます。田助様の隣が私のいるべき場所ですから」
さすが田助の嫁である。よくわかっているし、なんてうれしいことを言ってくれるのだろう。
田助はアンファを抱いていない、もう片方の手で衣子を抱き寄せるとキスをした。
「田助様、安心して全財産を使い果たしてくださいね! そして無一文になった田助様を私が全力で養いさせていただきます!」
「さすがにそこまでするつもりはない!」
言い切る田助だったが、
「……どうかしらね」
と言ったのはジト目のウェネフであり、
「というか待ちなさいよ田助! それだけ臨時収入があったなら、まず私に還元すべきじゃないかしら!? だって私は存在しているだけで尊すぎる女神なのよ!?」
と正気を取り戻したシャルハラートが戯言を言ったので、
「よし、いくぜ!」
と、二人の言い分をスルーした。
いつも以上のテンションの田助に、「た〜!」とアンファ、そしてポチが「わふっ!」と盛り上がって、田助たちはダンジョンへと向かうのだった。
そういうわけで田助たちがやってきたのは、草原ダンジョンを抜けた先、本格的ダンジョンである。
この石造りの迷宮は入るたびにその構造が変わるという、田助のようなダンジョンガチ勢にとっては夢のようなダンジョンだ。
当然、遭遇するモンスターも完全ランダムだし、罠や宝箱だってそうだ。
灯りがなければ自分の手すら見えない漆黒の闇が広がり、ジメジメとした湿気がまとわりついてくる。
「ダンジョンを全力で楽しむならここしかない!」
田助はLEDライトを点灯。
手には真・断ち切り丸、それ以外の装備は、ブリニカ騎士王国の秘宝、ドラゴン王種の素材を使用して作られたものだ。
衣子たちも同様に、最強の装備でその身を固めている。
「高価な消耗品、使い捨てアイテムをバンバン浪費してやる……!」
ろくでもない発言だが、田助は大真面目だった。
田助たちは石畳に足を踏み入れ、慎重に進むべき道を探っていく。
右か、左か。あるいは引き返した方がいいのか。
ひりついた空気に緊張感は高まり、だがそれは田助にとってはむしろご褒美以外の何ものでもなかった。
ゴブリンが出現し、もちろん瞬殺したのだが、シャルハラートがドジって転んでしまった。
ダンジョンではちょっとした怪我が命取りになることがある。
本格的ダンジョンならなおさらそうだ。
いつもならポーションを使うのだが、
「ほら、飲め」
田助が手渡したのは、
「ちょ、それってエリクサーじゃない!? かすり傷にエリクサーを使うとかありえないんですけど!?」
ウェネフの言葉に、田助が言う。
「おいおい、そんなに褒め——」
「——てないから!」
相変わらず気持ちのいいツッコミである。
その後も湯水のようにエリクサーを使いまくり、ダンジョンだけでなく、ウェネフのツッコミも堪能した。
「……ふむ。エリクサーをドバドバ使うのにもそろそろ飽きてきたな」
田助が呟けば、
「……聞こえない、あたしには何も聞こえない……!」
ウェネフが耳を押さえてそんなことを言う。
それはさておき。
「もっとこう、高価な使い捨てアイテムをバンバン投入しないと倒せないような、理不尽な耐性を持った面倒な敵とかいないのか!?」
果たして、田助のそんな言葉がきっかけになったのか。
広い空間に足を踏み入れたその時、それが現れたのである。
三階……いや、四階建ての戸建て住宅なみの大きさのゴーレム。
全身が水晶でできており、虹色に輝いているではないか。
「田助様、気をつけてください! あのモンスター、ただならぬ気配を放っています……!」
東雲流暗殺術の使い手である衣子が警告する。
「絶対田助が余計なこと言ったからよ! 女神である私が断言してあげる……!」
「なるほど、つまりもっととんでもないことを口走れば——」
それ以上言えなくなってしまったのはウェネフに物理的に口を塞がれたからである。
「余計なこと言わないの! わかった? 返事は『はい』か『わかった』のどちらかよ!」
血走った目で言うウェネフに、さすがの田助も「お、おう」としか返せなかった。
「わかればいいのよ、ご主人様」
これではどちらが主人かわかったものではないのだが。
「まずは鑑定してみるか。——鑑定!」
【プリズム・ゴーレム Lv.???】
【特性:属性変化、物理・魔法反射、耐性変動】
「おいおいおい、最高の相手じゃねえか!」
田助が鑑定結果を皆に伝えれば、
「なんでよ!?」「最悪の間違いでしょ!?」
というのはシャルハラートとウェネフであり、
「本当にそうですね!」「た〜!」「わふっ!」
というのは衣子とアンファとポチである。
田助派と反田助派とで真っ二つだったが、望みどおりの敵が出てきたことは間違いないわけで。
田助は真・断ち切り丸をアイテムボックスに収納すると、
「くくく、覚悟しろよ、プリズム・ゴーレム!」
金に物を言わせた戦いの幕が開けようとしていた。
プリズム・ゴーレムの全身が光り始めた。
予備動作であると踏んだ田助はすぐさま鑑定を発動。
プリズム・ゴーレムが炎耐性になったことが判明すると同時に、
「異世界ストア! 魔剣『氷姫の嘆き』を購入する!」
金額? 気にするな。たかだか数千万円である。
【魔剣『氷姫の嘆き』を購入します。代金はアイテムボックスの中から引き落とされました。】
音声とも微妙に違う、何とも言えないいつもの声が田助の頭の中に響き、魔剣が田助のアイテムボックスの何収納された。
田助はそれを即座に取り出して、プリズム・ゴーレム目掛けて投擲する。
「効いてるな! よしっ!」
「じゃないから! ねえ『氷姫の嘆き』が砕け散ったのが見えたんだけど!?」
ウェネフが叫ぶ。
「よくあるよくある、気にするな」
次にプリズム・ゴーレムが物理無効になって、空へ逃げようとすれば、
「異世界ストア! 『大地母神の鎖』のスクロールを購入!」
アナウンスとともにアイテムボックスに収納されたスクロールを取り出し、破り捨てると、魔力で作られた鎖が地面から勢いよく飛び出し、プリズム・ゴーレムを地面に叩き落とした。
これの値段もたかだか数億円だ。気にすることは何も無い。
その後も田助はその場で商品を検索、購入、即放出を繰り返した。
「バリジスクの毒瓶、購入!」
「爆炎の呪符、購入!」
「魔女の呪いが込められた秘石、購入!」
次々に繰り広げられる成金攻撃に、プリズム・ゴーレムの動きがどんどん緩慢になっていく。
「名付けて資金殲滅不動要塞の威力、恐れ入ったか!」
田助が告げれば、
「恐れ入ったかじゃないから! 何なのこの戦い方!? 伝説級のアイテムを使い捨てるとか最悪なんですけど……!」
とウェネフが叫び、
「ねえ、私が欲しかった指輪より高いアイテムを使い捨てるとか、もったいないと思わないわけ!?」
などとシャルハラートがわけのわからないことを言っていたが、
「金はダンジョンを堪能するためにあるんだぞ、知らないのか!?」
と言い切ったが、そんなことを入っている場合ではない。
だいぶダメージは入っているが、奴はまだ倒れない。
プリズム・ゴーレムの挙動が変わる。
鑑定すれば、全属性耐性になったことがわかった。
「生憎だったな……! 『神葬杭』を購入!」
無属性武器の最高峰である。
異世界ストアからアイテムボックス経由で取り出せば、それは見るからに異様な威容を誇っていた。
古びた祭壇の石柱を削り出したかのような、武骨で巨大な杭。
その周囲には、杭を打ち出すための動力源となる巨大な魔力クリスタルが5つ、ふわふわと浮遊し、杭を取り囲んでいる。
「かっこいいなおい!」
などと言っている場合ではない。
田助が狙いを定めた瞬間、周囲に浮かぶクリスタルが一斉に砕け散り、奔流となった魔力が杭に吸い込まれていく。
杭の表面に刻まれた無数のルーン文字が、血のように赤く発光した。
「くたばれ、プリズム・ゴーレム……!」
大気を震わせる轟音とともに、魔力の光を纏った杭が射出される。 それは一直線にプリズム・ゴーレムの胸に突き刺さる。
そこを起点に巨体に亀裂が走り、水晶の破片が飛び散って、ゴーレムが崩壊した。
「勝っ、た……!」
余韻に浸る田助は、何とも言えない表情をしているウェネフは見ないことにした。
「何だ?」
崩れたゴーレムの中心に何かが光っていて、田助がそれを拾って鑑定してみれば、
【プリズムコア】
どうやらレアな魔石のようである。
田助は記念品としてアイテムボックスに収納した。
「……ねえ、聞きたくないんだけど、あえて聞かせて? 今回、いくら使ったの?」
何とも言えない表情継続中のウェネフが聞いてくる。
「無一文になっても安心してくださいね!」
ワクワクした表情の衣子である。
「さすがに無一文にはならなかった。数億円残ってるから——まあ、95億は使ったな!」
「自慢げに言うことじゃないと思うんですけど!? というか伝説級のアイテムをあんなふうに使い捨てするなんて! ご主人様はどういう神経してるのよ!」
「そんなに褒め——」
「——てないからぁ!」
ウェネフの肩を叩けば、ウェネフはがっくりを項垂れた。
「まあ、今回みたいなダンジョンの堪能の仕方もいいけど……俺にはやっぱり、相棒と戦うのが一番しっくり来るな」
アイテムボックスから真・断ち切り丸を取り出せば、こころなしかご機嫌斜めな感じだった相棒も、うれしそうな気配を伝えてくる。
「というわけで、〆のダンジョンを堪能しようぜ!」
衣子やアンファ、それにポチは当然のように、さっきまで文句を言っていたウェネフやシャルハラートも、その言葉にうなずいて、田助たちはダンジョンを思う存分堪能した。
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